2003.10.17
中原昌也の新境地を感じさせる短編
いま出ている『文藝』に中原昌也の短編が載っていて、立ち読みしてみた。「お金を払うから書くのをやめてくれと言われればよろこんで」とか、そんなようなタイトルだったと思う。

主人公は、メールでおいしい話を持ちかけてきた男と喫茶店で会う。その男は「中原昌也」と名乗る作家で、エステやダイエットに興味のある若い女性の名簿数万人分を持っており、これを安く譲るという。その男は、石原慎太郎やマンガのことなど、いろいろなことをしゃべりまくる。

ざっとこんな話だ。私は中原昌也を全部読んでいるわけではないが、現存する小説家の中ではおそらく最も才能のある1人だと思っている。彼は新世代の安部公房だ。

そしてこの一編は、彼の最高傑作かどうかわからないが、新境地みたいなものを感じさせた。

彼の小説は保守的な人から見ればメチャクチャなものに思えるかもしれないが、ものすごく入念に書かれている。しかし今回のこの短編は、さすが中原昌也だと思わせるセンスの良さはそのままに、時事ネタやパロディを取り込んで、いい意味で軽く読める感じだ。まるでマンガみたいに。

中原昌也のこの路線には注目。こういう短編をたくさん読みたい。