2008.07.02
『広告批評』 No.327 特集 「中国のクリエイティブ 代表当代中国的创意者」
来年4月で休刊する雑誌『広告批評』の最新号は、特集「中国のクリエイティブ 代表当代中国的创意者」。
これが実にすばらしいのだ。



まず、この表紙がすばらしい。アートディレクターでもある森本千絵によるもの。

そしてメインの「中国のクリエイティブ」特集は、50ページ以上にわたる充実した内容。以下、目をひいたものをピックアップしてみる。

・中国レポート「LIVE/中国/広告批評」

<私にとっての中国は、CMで言うと、「サントリー ウーロン茶」というより「LIVE/中国/ANA」だ>に始まる、編集部・河尻享一氏による楽しい中国レポート。北京の伝統的家屋がカフェやショップに改装されている地区や、中国の80年代生まれ「八〇后(バーリンホウ)」世代との座談会・インタビュー、北京・上海の街歩きで見かけた広告スナップなど、にぎやかな「いまの中国」を伝える。

・电影(FILM)

映画監督、賈樟柯(ジャ・ジャンクー)へのインタビュー。<この三十年は経済を重視してきたわけですが、これから中国が世界で影響を持つ国になっていくためには、文化や心の豊かさを大切にすべきだと思うんです>。

・设计(DESIGN)

若手デザイナー3人のチーム「米未(MEWE)」インタビュー。アディダスのカタログなどを手がけるが、広告はやったことがない、とのこと。<僕らみたいにデザインに作家性みたいなものを出そうとすると、いまの中国では広告の仕事がこないんです>。

・艺术(ART)

布いっぱいに規則的な幾何学模様を描く作風のアーティストで、中国現代アートの第一人者、丁乙(ディン・イー)インタビュー。1962年生まれの本格派アーティストでありながら、エルメスとのコラボレーションでスカーフをデザインして話題に。

・音乐(MUSIC)

エレクトロニカ系インディーズレーベル「山水(シャンシュイ)」主宰者で、ゲームボーイのソフト「nanoloop」で演奏する25歳のSULUMI(スルミ)インタビュー。<中国にはソフトが売ってなかったので、京都から友だちに買ってきてもらったんですけど、説明書が英語と日本語だから読めない。(笑)ほんと手探りでやっていって、二年かけてようやく五曲入りのミニEPを出しました。いま中国でこれをやっている人は三人います>。この人のオフビートな語りは面白い。

・媒体(MEDIA)

中国のクリエイターSNS「新茶(NEOCHA)」の主宰者、ショーン・ロウ(Sean Leow)インタビュー。<僕はシリコンバレーの近くで育ったんだけど、実は父が中国出身で、ずっと中国の若者のカルチャーに興味を持ってたんです。ところが五年前、留学で北京に来たとき、中国には若者が自己表現する場がないことに気づきました。で、新しいテクノロジーを使って、中国の若いクリエイターのために何かできないかと。それがきっかけですね>。

以上、この特集の雰囲気と充実ぶりを伝えるために、いくつか抜き出してみた。これ以外にもまだまだあるので、ぜひ本屋で現物を見てみてほしい。

ビジネス誌などの中国特集と違い、主に80年代生まれの若い世代、それもクリエイティブ分野全般にわたる中国特集ということで、私にはとても新鮮だった。出てくるクリエイターはみな才能豊かで好奇心旺盛な感じで、国境を感じさせない。日本のクリエイターとすぐ友達になれそうな感じだ。

ジャ・ジャンクーが語っているように、中国ではほんとうに、「経済」の次は「文化」なのかもしれない。中国のアートシーン(アートマーケット)の活況については私も聞いていたが、それ自体は文化というよりも、やや投資・投機に近いところもある。むしろ、この特集に出てくる若いクリエイターの層の厚み、その発言や意識、作品、感性のほうが、中国の文化・クリエイティブの水準がすでにかなりのところまで来ていることを証明している気がした。
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