2008.08.17
リチャード・ハミング 「あなたとあなたの研究」
リチャード・ハミング「あなたとあなたの研究」
http://d.hatena.ne.jp/lionfan/20080726
http://d.hatena.ne.jp/lionfan/20080727

ハミング符号」などで知られる数学者・情報工学者、リチャード・ハミングRichard Hamming)による講演「あなたとあなたの研究(You and Your Research)」(1986年)の、lionfanさんによる翻訳。

科学者向けの講演だが、誰が読んでもきっと胸が熱くなる、すばらしい内容。ポール・グレアムが推薦するのもうなずける。

ほとんど全編、一語一句を引用したくなるような内容ですが、その雰囲気を伝えるために、フレーズをピックアップしてみました。

<私の講演のタイトルは「あなたとあなたの研究」です。研究の管理法ではなく、あなた自身の研究方法についての話です>。

<私はみなさんに、なぜすごい仕事を始めようとしないのかと問いかけたい。みなさんは他の人々に言う必要はなくても、自分自身に「そう、私は何かすごい仕事をしたいんだ」と言うべきではないでしょうか>。

<よく調べれば、優秀な人はすごいことを一回しただけではないとわかるでしょう。時には後で述べるように生涯に一つのことしかしない人もいますが、多くの人は繰り返すのです。運がすべてではありません。パスツールは「幸運は準備された心に舞い降りる」と言いました。それは私の信条でもあります。たしかに運の要素もありますが、いえ、それは運ではありません。心を準備しておけば、遅かれ早かれ何か重要なものを見つけ、それをします>。

<この部屋にいるみなさんの大部分は、たぶん一流の仕事ができるほどの頭脳をお持ちです。ですがすごい仕事をするには、単なる頭脳以上の何かが必要なのです>。

<成功する科学者の特性のひとつは勇気です。いったん勇気を出して、大きな問題を解決できると信じると、解決できてしまうのです。解決できないと思ったら、まず解決は望めません>。

<多くの人々は、最高の労働環境が重要だと考えますが、そうではないのです。そうではないと断言する理由は、人はしばしば、労働環境が悪いときに最も生産的になるからです。ケンブリッジ物理学研究所の黄金時代は、単なる小屋だった時でした。そのときケンブリッジ物理学研究所の人々は最高の物理学をしたのです>。

<ボーデが言ったことは「知識や生産性は複利に似ている」ということでした。ほとんど同じ能力の人が2人いて、一方はもう一方より10パーセント増しで働いているとします。後者は前者の二倍以上の生産性があるでしょう。知れば知るほど、さらに学びます。学べば学ぶほど、もっと行動できます。行動すればするほど、チャンスが増えます。それは複利に似ています。比率を言いたくはありませんが、非常に高い比率です。まったく同じ能力の2人がいて、一方が毎日1時間ずつ多く考え続けたら、生涯ではものすごく生産的になるでしょう>。

<もうひと頑張りの努力をたゆみなく続けるなら、何をするかを賢く選ぶ必要があります。これは重要です。間違った情熱では成功できません。なぜベル研の友達の多くは、私より一生懸命に働いていたのに、たいして目立つ成果を挙げなかったのか、私はいつも不思議に思っていました。間違ったことに情熱を費やすのは非常に重大な問題です。一生懸命に働くだけではダメなのです。その情熱を正しいものに向けなくてはなりません>。

<たとえば私が当時、観察して気づいたのは、10回の実験のうち9回は実験室で行われ、1回はコンピュータで行われることでした。そこで私は比率を逆にすべきだと、つまり10回の実験をするなら実験室で1回、コンピュータで9回するべきだと副社長に進言しました。彼らは私をマッド数学者で、現実を知らないと考えました。私はみんなが間違っていると知っていました>。

<一般的な解法で特殊な問題を解決する労力は、特殊な解法で解く労力と同じ程度です。ですが一般的な解法のほうが、ずっと多くの満足感と報酬を得られます>。

<仕事をするだけでは十分ではなく、それをセールスする必要があるのです>。

<みんな専門的で安全な話ばかりする傾向があります。ふつう、これでは効果はありません。そのうえ多くのスピーチは情報を詰め込みすぎます>。

<私はパスツールの「幸運は準備された心に舞い降りる」という言葉に賛成です。私はすごいアイデアしか考えない金曜日の午後を長年続け、自分の時間の10%を、たとえば何が重要で何がそうでないかといった、自分の分野の重要な問題を理解することに費やしたことが誇りです>。

<自分のために何かを創造する苦労は、それだけで価値があると思います。私の意見では、成功と名声はいわばオマケなのです>。

<なぜ多くの優秀な人たちが失敗してしまうのでしょうか?理由の一つは情熱と熱心さです。才能はなくても熱心に仕事をする人は、恵まれた才能に安住したり、昼はよく働くが帰宅したら別の事をして、次の日に職場に戻ってまた仕事をする人よりもよい業績を挙げます>。

<結局のところ却下してほしいなら、単に上司のところに行くことです。何かをしたいなら、お伺いなんて立てず、単にそれをしてください。上司には既成事実を報告し、却下する機会を与えないでください>。

<多くの二流の人々は、つまらないことで組織をあげつらい、戦いにしてしまいます。愚かなプロジェクトにエネルギーを費やすのです。みなさんは「誰かが組織を変える必要がある」と言うでしょう。そのとおりです。誰かがしなければなりません。みなさんはどちらになりたいのでしょうか? 組織を変える人でしょうか? それとも一流の科学をする人でしょうか?>

<しばしば科学者は怒りっぽくなるのですが、これは物事を進める方法ではありません。楽しみは○、怒りは×です。怒りは道を外れさせます。組織に対しては、いつも反抗するよりは協力するべきなのです>。

<私はどうするか何も考えていないのに「ええ、火曜日には答えを持っていきます」と言うことで得をすることがわかりました。日曜日の夜になるころには、火曜日までに答えを届けるため本気で考えます。しばしばプライドを危険にさらし、時々は失敗しましたが、罠にかかったネズミのようにと述べたとおり、しばしば私が良い仕事をしたことに驚きます。みなさんは自分をやる気にさせる方法を学ぶ必要があると思います>。

<科学の歴史を調べれば、現代では通常、準備できていた人が10人はいて9人が「それができなかったのは○○だったからだ」などと言います。言い訳はたくさんあります。なぜみなさんはそれをした一人ではなかったのでしょうか? なぜみなさんが最初にそれをしなかったのでしょうか? なぜ正しくやれなかったのでしょうか? 言い訳をしないでください。自分を甘やかさないでください。好きなだけ他人に言い訳をすることができるでしょう。私は構いませんが、自分に正直であろうとしてください>。