2008.09.03
ウィキペディアの「ニューミュージック」の解説は面白い
ウィキペディア - ニューミュージック
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B...

<ニューミュージックとは、都会的な情景を織り交ぜたポップ調のサウンドを基調とするシンガーソングライターによる作品群である。主として、1970年代から1980年代にかけての日本のポピュラー音楽の一部に対して使われた名称。ニュー・ミュージックとも表記される>。

<曲的には、従来のフォークが、例えばギター1本で、曲よりも詞を重視する傾向が強かったのに対して、ニューミュージックは、より楽曲を重視し、編曲家やスタジオ・ミュージシャンが主体となって、複雑な音楽を作ることが多くなっていった。かといって、当時の歌謡曲のように、歌手が「与えられた曲を歌う」というようなことは少なく、ほとんどの場合、シンガーソングライターであり、自分で作曲をしていた。その意味で、歌謡曲とは一線を画すということが、本来のニューミュージックの意味には内在されていたといえる>。

私が子供だった1970年代~80年代初頭あたりまで、日本では「ニューミュージック」という呼び名がよく使われていた。このウィキペディアの解説ページでは、その「ニューミュージック」とは何だったのか、その定義や範囲確定を試みていて、とてもおもしろい。

冒頭には「この記事には『独自研究』に基づいた記述が含まれているおそれがあります」というウィキペディア運営サイドからの注意があり、ウィキペディア掲載記述のひとつである「独自研究は載せない」に抵触する可能性もあるようだ。しかしこの解説はとてもよく書けていると思う。こうした歴史的な呼称の定義や範囲確定はむずかしい作業なので、多かれ少なかれ「独自研究」にならざるをえないだろう。

2008年の現在、日本の音楽を指すもっとも一般的なタームは「J-POP」だろう。ウィキペディアには「J-POP」の解説ページもある。

ウィキペディア - J-POP
http://ja.wikipedia.org/wiki/J-POP

このページの解説もなかなか面白いが、「ニューミュージック」の解説に比べると音楽内容の記述が少なく、わりとあたりまえの解説という感じだ。これに比べると、「ニューミュージック」の解説は「独自研究」っぽくもあるが、かなり音楽が好きな人が書いている感じがある。

「ニューミュージック」の解説では、「J-POP」との違いについてこう書かれている。

<J-POPは、一般に(アイドル)歌謡曲も含み、アーティストがシンガーソングライターであることはまったく問わない。これに対して、ニューミュージックは、歌謡曲ではないことが本来の基本であり、シンガーソングライターであることを、より重視する>。

たしかに、そんな気がする。私が子供の頃は「シンガーソングライター」という言葉もよく使われていて、「ニューミュージック」と同じくらいポピュラーな名称だった。

私にとって、「J-POP」というのは大人になってから出てきたもののためか、どうしても醒めた目で見てしまう。いっぽう「ニューミュージック」は子供の頃に身近にあったもので、私にとって原初的な音楽体験のひとつだったためか、「なつかしくて、しかしまだ理解していない未知のもの」というような不思議な魅力がある。いまあらためて「ニューミュージック」を聴いてみると、夢中になるというほどではないにしても、かなりよくできていることに驚かされることが多い。

このウィキペディアの「ニューミュージック」の解説には、そんな私の心に触れるものがあるのだ。「ニューミュージック」の定義、という難題に苦闘しているその記述のなかに、音楽好きとして共感できるポイントみたいなものがあちこちにある。

この解説では、ニューミュージックを体現する存在としてユーミン(松任谷由実)の名前が何度か出てくるが、以下の記述などは面白い。

<ニューミュージックという呼び方は、「音楽・楽曲」を示す用語であるが、現実には、個々のアーティストに引っ張られることがほとんどである。典型的な「ニューミュージックのアーティスト」である松任谷由実を例にとると、1970年代後半の時期に、松任谷由実がアイドル歌手に曲を提供していたとしても、そのアイドル歌手が歌うその曲をニューミュージックと呼ぶことはない。ところが、同じ曲を、松任谷由実が歌うとしたら、とたんにニューミュージックと呼ばれるであろう。すなわち、同じ曲であっても、歌う者により、ニューミュージックになったり、ニューミュージックでなくなったりするということがありうるわけである>。

これは厳密な定義にはなりえないにしても、とても説得的な記述だと思う。このユニークな解説ページには、こういうあまり客観的とはいえないかもしれないが、説得力のある表現がたくさんある。