2005.07.26
「あなたは誰か」に向かうマーケティングの進化
CMや街頭で少し前から見かける、WindowsXPの「スタートしよう。もっと自由に、好きなことを」という宣伝。

iPodのカッコいいCMなどに比べれば、やや垢抜けない印象もなくはないが、iPodのCMが抽象的で「クールすぎる」のに対し、WindowsXPのほうは適度に親しみやすさがあり、なかなかいいCMだと思う。

WindowsXPのCMは、「わたしは○○をやりたい」という若者や子供が何人か出てきて、夢を語るというシンプルなもの。WindowsXPの名前は、最後にさりげなく出てくるだけだ。

私はこれを見て、『The Brand Gap』という本に出ていた「マーケティングの進化」の話を思い出した。


Marty Neumeier 『The Brand Gap』(New Riders, 2003)


そこには、マーケティングは次の4段階で進化してきたとある。

THE EVOLUTION OF MARKETING

1900~ FEATURES : "WHAT IT IS"
1925~ BENEFITS : "WHAT IT DOES"
1950~ EXPERIENCE : "WHAT YOU'LL FEEL"
2000~ IDENTIFICATION : "WHO YOU ARE"

(Marty Neumeier 『The Brand Gap』 P.38 より)

機能や特徴も依然として重要だが、「パーソナル・アイデンティティ」のほうがもっと重要になってきた、とある。

著者Neumeierはその例として、ナイキの「Just Do It」を挙げている。「Just Do It」は、それを見た人へのメッセージであり、たしかに靴の説明ではない。

WindowsXPの「わたしは○○をやりたい」というCMについても、それがあまり押しつけがましくない、いい感触を残すのは、そこに「自分を重ねられる」からだろう。「自分も音楽をやりたい」「自分ならこれをやりたい」といった連想がはたらくのだ。

Neumeierは、IDENTIFICATIONを「tribal identification」とも書いている。つまりこの場合の「あなたは誰か」は、厳密に1人しかいない人間のアイデンティティというよりも、「どういうtribe(人種)か」というあたりの意味が強い。この場合のtribeはもちろん、何が好きかという趣味による「人種」だ。

人間は、自分が好きなものについて理解されると、自分自身が理解されたようなよろこびを感じるのだと思う。


関連リンク :

Marty Neumeierの会社、NEUTRON LLCのサイト。
http://www.neutronllc.com/

本『The Brand Gap』と同じようにカッコいい。
Marty Neumeierのインタビューや、本からの抜粋、雑誌記事なども読める。