2008.03.19
ポール・オトレ、オットー・ノイラート、ル・コルビュジエをつなぐ大田暁雄
Alex Wright「The Web That Wasn't」というプレゼンテーションの動画を見ていて、Web的な考え方の先駆者として、Paul Otletの名前が出てきた。

Paul Otlet (1868-1944)
http://en.wikipedia.org/wiki/Paul_Otlet

このウィキペディアの解説によると、Paul Otlet(ポール・オトレ)はいまの情報科学につながる学問の開祖であり、情報・知識の収集や分類、検索などを追求した、といったことが書いてある。

私がポール・オトレの名前を初めて知ったのは、何かの図書館学の本だったと思う。そのときにもおそらく興味を感じたので、いままで名前を覚えていたのだと思うが、情報科学やWeb的な考え方の元祖といえるほどスゴイ人だとは知らなかった。

日本語のウィキペディアには解説ページがないので、検索してみたところ、こんなページが出てきた。

世界を知り、編集し、デザインすることをめぐって No.03, 9月+10月合併号
ポール・オトレ研究調査旅行報告および論文の目的と構成
http://www.imrf.or.jp/~otakio/monthly200610/

<筆者の研究対象とするポール・オトレ[Paul Otlet, 1868-1944]およびその周辺(ル・コルビュジエ、オットー・ノイラート等)について、調査をする。特にベルギーはモンスのポール・オトレ・アルシーヴにて資料を入手することを目的とする>。

なんと、ポール・オトレはオットー・ノイラートウィーン学団論理実証主義で有名)やル・コルビュジエ(建築家)とつながっていたのだ。これは面白い。

これを書いているのは、大田暁雄という人だ。

大田暁雄
http://www.otakio.net/

彼は1981年生まれで、武蔵野美術大学大学院を出て、いまは芝浦工業大学の博士課程に在学中らしい。彼はポール・オトレを中心に研究しつつも、ノイラートやコルビュジエとのつながりを重視しているようで、当初はオトレよりもノイラートから入っているらしい。

ポール・オトレの研究者というだけでも貴重だと思うが、オトレ(情報科学)+ノイラート(分析哲学、社会学、情報デザイン)+コルビュジエ(建築、都市計画)のつながりを追うというところが、個人的にはかなりツボだ。

ポール・オトレ―知の組織化・視覚化と国際化社会のコミュニケーション言語
http://shide.jp/06/Semi/OtaAkio

<1868年にブリュッセルに生まれ、世界の統一書誌「普遍書誌目録」とその分類法「普遍十進分類法」の開発、図版や新聞記事の膨大な目録化、国際連盟創設へ貢献、国際的総合博物館「世界宮殿」の組織、世界博物館・世界図書館・国際大学などを置く国際都市「ムンダネウム=世界都市」をル・コルビュジエらと計画、O.ノイラートらと博物館のネットワーク化や世界文明アトラスを計画、晩年にはワークステーションの前身を構想し今日の情報学の基礎を築いた、日本では比較的無名のこのポール・オトレという名の人物の、行動と思想の光跡を辿る>。

これが彼の修論発表だったようだ。この紹介文を読んだだけで、私はワクワクしてくる。オトレ=ノイラート=コルビュジエという名前のラインからは、科学と芸術を世界的・普遍的に統合し、かつ机上でなく現実に応用していくようなヴィジョンがたしかに伝わってくる。

バウハウスなどにも通じるこういう指向は、20世紀モダニズムのベースになったが、しかし20世紀後半になると各論的に分かれてしまい、それぞれ発展したものの、学際的な面は失われた気がする。しかし、コンピュータとインターネットによって人類史が新たな局面に入り、情報技術によってすべてが塗り替えられつつある現在、オトレ=ノイラート=コルビュジエというつながりは、またリアルで面白いテーマになってきたと思う。

当初はオトレについて調べていたのに、この大田暁雄という人の書くものがどれも面白く、すっかり彼の世界に入り込んでしまった。彼のブログから、面白いと思ったエントリをいくつか挙げてみる。

アトラス・ムンダネウム
http://www.otakio.net/2006/07/post_46.html
オトレとドイツ・オーストリア工作連盟の補助線
http://www.otakio.net/2006/08/post_52.html
時には文句を
http://www.otakio.net/2006/08/post_56.html
未来は過去の過去に
http://www.otakio.net/2006/08/post_59.html

この大田暁雄という人は、ただの俊英というだけでない、日本では貴重な(ヘンな?)タイプだという気がする。
周囲からなかなか理解されないこともあると思うが、私は大いに共感・賛同・応援します。

去年、こんな展示もあったらしい。

世界の表象: オットー・ノイラートとその時代 展
http://www.vcd.musabi.ac.jp/%7Ekurokawa/070910_neurath/neurath.html
http://www.otakio.net/neurath/

いやー、こんなものがあったとは。また見れる機会があればぜひ行きたい。

関連エントリ:
1972年ミュンヘンオリンピックの切手 / ピクトグラム
http://mojix.org/2004/04/03/202713