2008.09.09
和製漢語
ウィキペディア - 和製漢語
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%92%8C%E8%A3%BD%E6%BC%A2%E8%AA%9E

<和製漢語(わせいかんご)とは、日本で造られた、漢字の音を用いて読む言葉。古くから例があり、特に、幕末以降、西欧由来の新概念などを表すために盛んに造られるようになった。日本製漢語>。

和製英語」というのはよく聞くが、「和製漢語」という概念があったとは、恥ずかしながら知らなかった。

<「中華人民共和国」の「人民」「共和国」も和製漢語であり、中国の国家名にまで使われ、現在の体制にも必要不可欠な概念も含まれている。また、同じく漢字文化圏である台湾、韓国、ベトナムでもこうした和製漢語を取り入れており、和製漢語の自国語漢字音で受け入れるという状態となっている>。

<文化、文明、民族、思想、法律、経済、資本、階級、分配、宗教、哲学、理性、感性、意識、主観、客観、科学、物理、化学、分子、原子、質量、固体、時間、空間、理論、文学、美術、喜劇、悲劇、社会主義、共産主義…。漢字でできた近代的な概念語の大半が日本製となっている>。

なんと、幕末・明治に日本で大量に「発明」された「和製漢語」が、中国にも多数受け入れられていたとは。

このページの末尾からリンクがある、次の記事がおもしろい。

漢字が表す二つの世界 文・中国社会科学院文学院 李兆忠
http://www.peoplechina.com.cn/maindoc/html/200303/fangtan.htm

<日本語の中の多くの語彙は、見た目では中国語とまったく同じだが、実は意味が非常に違う。中国から来たある代表団が日本の工場を見学したとき、工場内に掲げられている「油断一秒、怪我一生」というスローガンを見て、その文字面だけから「これは油が大切だと言っているのだな」と憶測した。中国語では「一秒でも油が切れれば、生涯自分が悪いと思う」という意味になるからである>。

<日本語の中で使われる漢字の語彙には、中国人の想像を超えるものがほかにもたくさんある。たとえば、中国語での「無理やり」を意味する「勉強」は、日本語では「学習」の意味で使われる。中国語で「夫」を意味する「丈夫」は、日本語では「頑丈」の意味だ。このように、表面の「毛皮」を傷つけることなく、中身の「肉」をすっかり「すり替え」てしまう日本人の知恵と想像力に、感心せざるを得ない>。

<率直に言えば、現在の中国で使われている中国語の語彙の多くは、20世紀初めに日本から導入されたものだからだ。たとえば、「金融」「投資」「抽象」など、現代中国語の中の社会科学に関する語彙の60~70%は、日本語から来たものだという統計がある>。

これには驚いた。和製漢語は、相当な規模で中国に採り入れられたようだ。

<漢字文化圏に属する多くの国家や民族を見回して見ると、漢字をこのように創造的に「すり替え」、もう一つの漢字王国を樹立し、かつまた中国語へ「恩返し」しているのは、日本だけだ>。

<日本のすごいところは、中国の漢字に対して、受動的にそのまま受け入れるのでもなく、愚かにも高慢にそれを拒否するのでもない、自発的にそれを手に入れ、徹底的にそれを消化した後、自分の必要に応じて大胆な改造を行い、自分の言語にしてしまうところだ。だからこそ漢字は、日本にしっかりと根を下ろし、西洋文化の猛烈な襲来に耐えることができたのである>。

なんと、そうだったのか。この記事は実に面白い。

「科学」「技術」「芸術」などの語を発明した西周(にし あまね)は、いわば和製漢語のチャンピオンだ。

西周 (啓蒙家)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A5%BF..

<福澤諭吉とともに西洋語の「philosophy」を音訳でなく翻訳語として「哲学」という言葉を創ったほか、「藝術(芸術)」「理性」「科學(科学)」「技術」など多くの哲学・科学関係のことばは西の考案した訳語である。また、かな漢字廃止論者で、1874年(明治7年) 『洋字ヲ以テ国語ヲ書スルノ論』を出した。著書に『百学連環』、『百一新論』、『致知啓蒙』など。『五箇条の御誓文』の草稿を執筆したのも彼だと言われる>。

かな漢字廃止論者・ローマ字論者にして、漢学から西洋の学問まで学びつくした博識の西周だからこそ、あたらしい漢語をどんどん作り出すのも平気だったのかもしれない。

幕末・明治というと、もっぱら「西洋的な近代化」というイメージしかなかったが、「和製漢語」が日本に普及しただけでなく、中国にも輸出されていたというのは面白い。

「和製漢語」とは、西洋から輸入した概念を、中国から輸入した漢字にあてはめたという、日本流の「加工」的な発明といえるかもしれない。たしかに日本っぽい気がする。


関連エントリ:
ひらがな、カタカナ、漢字を使い分けられるのが日本語の強み
http://mojix.org/2008/07/05/hiragana_katakana_kanji