2008.09.15
「楽しくない」と感じたなら、飛び出したほうがいい
はてなブックマークに出ていた「外資金融IT部門でのインターンを終えて」というエントリで、「バイオ研究者見習い生活 with IT」というブログを知った。

バイオ研究者見習い生活 with IT
http://d.hatena.ne.jp/Hash/

左側の「おすすめ記事」にある「プログラマーに比べ、バイオ研究者に飛び抜けた才能が現れない理由のひとつ」、「生物オタが非オタの彼女に分子生物学の世界を軽く紹介するための10タンパク」などをいくつか読んでみると、どれも面白い。特に面白かったのが、このエントリ。

メモを捨てろ、本を捨てろ、そのでかい鞄を捨てろ。そんなものに頼るんは自分に自信がないからや
http://d.hatena.ne.jp/Hash/20080529/1212077847

<一年間見てきて分かったことだが、教授がお好きな学生は、考えるよりまず手を動かして、バリバリ実験して、元気が良くて、少し生意気で、ちょっとバカなタイプの学生であるようだ。
 一方の僕はメモ魔で、実験よりも論文や本を読む乱読家で、空論と妄想と知識の蓄積に快感を覚えて、でっかい荷物をいつも持ち歩いていて、泥臭い作業を嫌い、基本的に無口。
 これが僕のスタイルであって、性格でもある。四月に修士卒後の進路に関する面談があって、そこで教授に言われたのがタイトルのセリフだ。これを言われた瞬間、ああ、僕はこの人に理解してもらえないな、と思った>。

このHashさんはバイオを専攻する修士1年の大学院生で、研究室にいる自分のいまの状況に満足できず、このままでいいのかと自問しているエントリだ。

キャリア選択は本当にむずかしい。そして、親や先生、年長者、先輩といった人々のアドバイスは、どんなに親身になってくれている場合でも、正しいとは限らないというのもまた悩ましい問題だ。

特にこのHashさんの場合、自分でも<ディレッタントを自称する興味拡散系頭でっかちバイオ系院生>と書いているように、興味が広い。ブログを読んでも、バイオ、ITという専門分野に近いところだけでなく、ビジネスや投資など幅広い話題について書かれている。

私はこういう興味が広い人、ジェネラリスト系の人が好きで、共感できる。しかし日本ではこういうタイプは少数派のようで、なかなか理解されない。ましてや大学という専門教育の場では、Hashさんのように広い興味の人をそのまま受け入れてくれる場所というのは、まずなさそうに思える。

つまり、「メモを捨てろ、本を捨てろ、そのでかい鞄を捨てろ。そんなものに頼るんは自分に自信がないからや」と言った教授のほうが、バイオの研究室という専門的な場所にはたぶんフィットしているんだと思う。興味が広いHashさんを教授が理解できないのも、まあ普通のことだろう。私の印象では、Hashさんはバイオの研究者というタイプではない。研究者に向いているのは、ひとつの分野に朝から晩までのめり込んでいても飽きないような人だろうと思う。

いろいろなことに興味がある人は、少なくともバイオよりはITのほうが向いていると思う。ITは情報技術なので、どんな分野にも関係してくるし、どんな分野にも応用が効く。さらにHashさんの場合、ビジネスにも興味があり、簿記の2級まで持っているそうだから、ITで起業するのがいいと思う。ITで起業すれば、経営者として、IT・ビジネス・会計の知識をいずれも実地で使える。ただ勤める立場だと、そういう広い範囲の実地体験はなかなかできない。

どうしてもバイオにこだわるなら、バイオのITソリューションを開発・提供するビジネスなどをやればいいと思う。きっとかなりの成長市場だろうし、バイオの専門家であればなおさら強みがある。

Hashさんはこのエントリでいろいろと逡巡したうえで、

<作業プロセス自体、あわよくば研究テーマそのものまでも自分でマネジメントし、自分の性格に合うように作り上げていく練習を行う必要がある。この環境から逃げずに残る以上、これくらい欲張らないとワリに合わない>。

と書き、いまいる環境でできる限りの改善を続ける、という道を選んだようだ。こういうふうに、すぐ飛び出してしまうのではなく、いまいる状況で改善を続ける、という姿勢も大事だと思う。特に、何でも状況のせいにしてしまって、自己努力をしない傾向がある人には、むしろこれが必要だろう。

しかし私の印象では、Hashさんは自己努力をしないタイプではなく、むしろ勉強熱心なタイプだ。単純に、自分のやりたいことと状況が合致していないだけのように見える。最初のほうで<少なくとも、僕はここに居て楽しくない>と書いてあり、これがいちばんシンプルな心の声だと思えた。そのあといろいろ書かれているのは、飛び出してしまわないための理由づけであるようにも思える。

私の意見も、年長者の無責任なアドバイスのひとつとして受け止めてほしいが、「楽しくない」と感じたなら、飛び出したほうがいいと思う。特にまだ修士1年ならば、失うものも少ない。歳をとっていくと、失うものが大きくなってきて、「飛び出す」ことがだんだんむずかしくなっていく。若いうちは、学歴とか研究者の肩書きなどに意味があると思いがちだが、そんなものは大した意味を持っていない。「実績」を残せるか、自分がハッピーになれるかのほうが重要だと思う。

「飛び出す」というのは、多かれ少なかれ「過去を捨てる」ことだ。しかし、それを決断できずに過去をひきずっていくと、「未来が侵食」されていく。満足できない状況にケリをつけずにいると、過去を失わないかわりに、未来が失われていく。

このHashさんは有能な若者だと思うので、ぜひ自分の興味と才能を全開させ、「楽しい」と感じられる方向にキャリアを進めてほしいと願っている。