2011.07.10
橘玲:マイホームは「卵をひとつのカゴに盛っているようなもの」
NEWSポストセブン - 「住宅ローンでマイホーム購入」がいかにハイリスクかを解説(2011.07.09 16:00)
http://www.news-postseven.com/archives/20110709_24791.html

橘玲氏が、住宅ローンによるマイホーム購入のリスクを解説した記事。とてもわかりやすい。

<日本人の資産運用は預貯金が大半だといわれるが、実際には、その「金融資本」のほとんどは不動産に集中している。年収の何倍にも及ぶ住宅ローンを組んでマイホームを買うことは、レバレッジ(てこの原理)をかけて不動産に投資するのと同じだから、これは要するに不動産の信用取引だ>。

<バブルが崩壊した1990年代以降、地価の下落傾向に歯止めはかかっていない。それにもかかわらず、多くの日本人は「土地神話」を信じて、不動産を所有することのリスクから目をそむけてきた>。

<経済学的に考えれば、持ち家と賃貸の違いは不動産投資のリスクを負うかどうかだ。今回の震災では家ごと津波で流されたり、原発からの放射能汚染で避難区域に指定されたり、首都圏・湾岸エリアの埋立地では液状化に見舞われるなど、想像すらできないことが現実のものとなった。余震のたびに大きく揺れるオール電化の超高層マンションが敬遠され、価値が大幅に下落しているともいう。今回の震災は、マイホームという不動産投資のリスクを顕在化させたのだ>。

<ところが賃貸なら、こうした不動産のリスクをすべて大家に転嫁できる。地震や津波で家がなくなっても、契約を打ち切って別のところに住み替えればいいだけだ>。

<これに対してマイホームは、資産運用の観点から見れば、卵をひとつのカゴに盛っているようなものだ。不動産は価格変動の大きい投資商品で、それにリスク耐性の低い個人が金融資産のすべてを投じ、さらには住宅ローンでレバレッジまでかけて投資リスクを極大化している。それが今でも、「安全で有利」な資産運用だと信じられているのだ>。

住宅は買うのがいいのか、賃貸がいいのかという議論についての私の考えは、以前「住宅の「利用価値」と「資産価値」」というエントリで書いたことがある。

この橘氏の記事は、住宅を「資産」の側面から見て、その大きなリスクを解説したものだろう。しかし、住宅は「利用価値」の側面がむしろ大きいと思う。この橘氏の記事では、この「利用価値」の側面が触れられていない。

また、賃貸を選んだ場合にも別種のリスクがあるし(関連:「日本の賃貸住宅ではなぜ保証人を要求されるのか 「保護」がむしろ「弱者」を生む日本の構造」)、買った場合に比べると、効用(満足度)も一般に低いだろう。借金のリスクを背負わないかわりに、家賃のかたちでキャッシュが毎月出ていって、資産が残らない。

この橘氏の記事だけでは、賃貸のほうがいいという結論は必ずしも出てこないように思う。しかし少なくとも、このような「投資」の側面を理解した上で、買うのか、借りるのかの選択をすべきであることは間違いないだろう。

個人的には、住宅を買うこと自体が危ないというよりも、資産価値のないダメな物件を、大きなローンを背負って買うことが危ない、と考えている。その意味では、「家賃を払うよりおトク」という、よくある住宅のセールストークは、やはり危なっかしい。


関連エントリ:
住宅の「利用価値」と「資産価値」
http://mojix.org/2011/05/19/juutaku-kachi
日本の賃貸住宅ではなぜ保証人を要求されるのか 「保護」がむしろ「弱者」を生む日本の構造
http://mojix.org/2009/04/02/chintai_hoshounin