2005.11.14
「マルチプル経済」 についての大前研一氏の講演
Safety Japan 2005 - 楽天・ライブドアなど日本のネット企業は時代遅れ!~ネットワーク革新で21世紀をリードするための条件
http://nikkeibp.jp/sj2005/column/a/11/index.html

「日経コミュニケーション」20周年記念フォーラムでおこなわれた、大前研一氏による基調講演「企業を変えるネットワーク革新 ~21世紀をリードするための条件~」の採録だそうだ。

大前研一氏は、どの著書を読んでも基本的に正しい方向性を感じさせる、私にとって「信頼できる」論者だ。この講演はとりわけ、最近の私の興味に近いテーマで、じつに面白い。

この中で大前氏は、「マルチプル経済」という概念を紹介し、これを軸に話を進めている。「マルチプル経済」とは、

<数式上の仮説に基づいて、株価収益率(PER)、ヘッジング、デリバティブなどのテクニックを使って資金を調達し、世界市場を動かしていく経済>

というもののようだ。

そしてこれこそが、新興企業であるライブドアや楽天が、フジテレビやTBSに買収を仕掛けられる仕組みだ、と説く。

これはまさしく、「株を売るという 「第3のビジネスモデル」」ではないだろうか。

そして楽天のTBS買収について、このマルチプル経済を利用しながらも、三木谷氏が間違ってしまった点として、以下のように述べている。

<実物経済にしがみついていれば、転んでもそこに何かは残る。おそらく、そう考えたのでしょう。そこに三木谷氏の弱さが出たと私は見ています>。

まったくその通りだ。新時代を切りひらくネット企業としての期待から高株価をつけているのに、その株価を利用して、うしろを向いてオールドエコノミーの「大人買い」を始めてしまったわけだ。だからこそ、世間はどこか裏切られたような感じがする。

大前氏は、<これは彼が経団連などの爺さん連中と付き合い過ぎたために起こった悲劇です>とまで書いている。若者がこう言っても説得力がないが、大前氏ほどの大御所がこう言うと、さすがにインパクトがあるだろう。

なお、この記事が<楽天・ライブドアなど日本のネット企業は時代遅れ!>というタイトルになっているのは、おそらくアイキャッチのためだろうというのはわかるが、少し大前氏の意図とズレてしまう部分もあると思う。

私の理解した範囲では、この講演での大前氏の真意は、新しい経済の姿を直視し、それを理解すべきだ、という前向きなメッセージだと思う。楽天・ライブドアなどの新興企業を「煙たく」思っているオールドエコノミーの人たちにこそ、大前氏は檄を飛ばしているはずだ。

関連エントリ :
株を売るという 「第3のビジネスモデル」
http://mojix.org/2005/11/13/223744
日本のネットベンチャーが技術革新よりも 「ネット財閥」 をめざす理由
http://mojix.org/2005/10/30/233716
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http://mojix.org/2005/10/29/003935