2008.03.29
日本のプロセス改善と人材流動性の関係
先日の「経済に関して一般人が陥りやすい4つのバイアス」を、bewaadさんが採り上げてくれた。

BI@K accelerated - 山形浩生さんや望月衛さんがこのページに目を留めていただくことを祈りつつ。
http://d.hatena.ne.jp/bewaad/20080325/p1

<これは何とも面白そうな本で、かつ今の日本においてもっとも読まれるべき本のひとつと言えるではありませんか! 雇用維持バイアスは、ちょっと換骨奪胎になってしまうと自覚しつつも物作りへの執着を、反外国バイアスは食料自給率を高めようとの傾向を、悲観バイアスはデフレ、増税そして構造改革への期待(構造改革は現状がダメだとの評価の裏返し)を、反市場バイアスは市場の失敗の論証を欠くミクロ介入指向を、それぞれ説明可能な有力な仮説であるように思われます>。

たしかに、4つのバイアスはこのような日本の具体例にあてはめてみるとさらに面白いし、議論が活発化しそうだ。

日本の場合、「雇用維持バイアス」の代表例として、ものづくりへの執着があるのは間違いないと思う。ものづくり自体はいいのだが、これが「過去の成功体験」になってしまって、時代の変化を見えにくくしている。

そしてこれがちょうど、「山崎養世によるバランスのとれた日本評」で紹介した、

1. 日本人は「部分に強く、全体に弱い」。
2. 日本人は「見えるものに強く、見えないものに弱い」。

という話にも驚くほど重なってくる。

これに関連して、少し前に面白い記事があった。

@IT MONOist モノづくり最前線レポート(3)
~シーメンスPLMソフトウェア 三澤一文社長インタビュー~
“日本型モノづくり礼賛論”に死角はないのか?
http://monoist.atmarkit.co.jp/fpro/articles/forefront/03/forefront03a.html

「日本と欧米のモノづくりで、何が一番の違いだとお考えですか」というインタビュアーの質問に対して、シーメンスPLMソフトウェアの三澤社長はこう答えている。

<簡単にいってしまうと、欧米は人材の流動性が高いため「良い品質の製品を安く作る」のが目的ならば、それができる人材をどこからか連れてくればいい、と考えるわけです。つまり、リソースを充実させるという思想ですね。これに対して日本は終身雇用制によって人材の流動性は低く抑えられてきましたから、モノづくりのプロセスを改善して現有のリソースでどれだけ「良い品質の製品を安く作れるか」を追求してきました。
 リソース重視の欧米、プロセス改善の日本、こういったモノづくりに対するアプローチの違いは、そもそも人材の流動性に起因したわけです。ですから、日本人は頭が良くてモノづくりにたけているだとか、日本人だけが一生懸命にモノづくりをしてきたという俗説は当たっていないと思います。日本人には、プロセスを見直していく方法しか生き残る道はなかった、と考えるべきでしょう>。

要するに、日本のものづくりがすごいのは、終身雇用制で人材の流動性が抑えられていて(社員をクビにしたり、取り替えられないので)、プロセスを改善するしかなかったからだ、というのだ。まさに、人材が動かせないという制約条件下での「工夫」だったわけだ。

この残酷なまでにクールな見方は、しかし真実を突いている気がする。そして、これからの日本を考えるには、ここを直視する必要があると思う。

いまや経済活動のメインフィールドは、「見えるもの」から「見えないもの」にどんどんシフトしている。マニュアルや協調性から、クリエイティブや独自性に、時代の重心が移ってきている。

資本力や立地、高価な機械といった「物量作戦」で勝てる時代は終わった。いまや「人材」こそ、ビジネスにとって最大の資産だ。

人材の流動性が低いと、その人材が自分の力をフルに発揮できないケースが増え、人材という資産が活用されないことになる。

産業構造どころか文明自体が大きく変わりつつある現在、人材を固定化させたままプロセス改善を続けるという従来の日本方式では、もう間に合わない。制約条件下で「工夫」するのも大事だが、制約自体を取り払って、人材の配置を最適化すべき段階に来ている。