2008.05.20
新書ブームは終わらない
YOMIURI ONLINE - 新書ブームが止まらない (2007年2月14日 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/book/news/20070214bk04.htm

<新書ブームが止まらない。昨年は書籍全体のベストセラー上位30冊のうち11冊を新書が占め、新規参入の出版社も相次いだ。勢いの秘密はどこにあるのか。「雑誌化」を切り口にして考えてみた。
(中略)
 昨年の新書の好調ぶりについて、出版科学研究所の綾部二美代研究員は話す。同研究所によると、2002年、年間売れ行き上位30位に入る新書はなかったのに、養老孟司著『バカの壁』(新潮新書)でブームに火がついた04年には4冊がランク入り。05年は5冊、新書最多の250万部を出版した藤原正彦著『国家の品格』(同)が書籍売り上げ総合1位だった昨年は、一挙に10冊を超え、倍増した>。

これは昨年2月の記事だが、本屋をしょっちゅうウロついている人間の印象として、今年も「新書ブーム」はまだまだ続いている感じだ。

この記事では、新書が増えてきた原因を「雑誌化」と捉え、<中公、岩波、講談社の『御三家時代』の教養路線が揺らぎ、雑誌の特集記事のような内容のもの>が増えた、としている。内容がカジュアル化したので読者層も増えた、ということだろうが、この傾向はたしかにあるだろう。

しかし私の考えでは、新書はその内容よりも、まず単純にその「小ささ」がウケているのだと思う。

1) 物理的な小ささ・軽さ・薄さ

まず、物理的に小さくて薄い。
このために、家に保管するときの空間コストが低く、また持って歩くときの収納コスト・重量コストが低い。

2) 値段の安さ

単行本よりも安い。700~800円くらいなので、わりと気軽に買える。

3) コンテンツ量の少なさ

単行本よりもコンテンツ量が少ないので、早く読み終えられる。
忙しい現代人にとって、これは利点だ。

以上のように、物理的・経済的・時間的なコストがいずれも低いのが新書だ。平均的日本人が持っているお金・時間・空間はいずれも少なくなっているだろうから、ますます新書が求められる状況だろう。

もちろん小さければいい、コストが低ければいいというものではなく、中身がないとダメなのは言うまでもない。しかし新書はこの点でも、限られた分量に収める必要上、平均すると、単行本に比べると中身が濃いものが多い気がする(あくまでも私の印象に過ぎないけれども)。

このように、新書は空間・時間・お金のコストが低いので、本はあまり読まないというライトユーザーでも手を出しやすい。もちろん、私のようなヘヴィユーザー(本のジャンキー)であれば、新書であろうとなかろうとバンバン買うのは言うまでもない。

大きな流れとしては出版産業は縮小しているのに、なぜ新書はこれほど元気なのか。それは上記のように、コストが低いわりに中身があること、つまり「費用対効果」が高いからだと思う。

しかし費用対効果でいえば、基本的に無料であるネットにはかなわないのではないか?と思う人もいるかもしれない。もし金銭的コストだけを見ればそうかもしれないが、時間的コストも考えると、新書はじゅうぶん勝負できると私は考えている。

新書はある程度テーマを絞った上で、中身のあるコンテンツが読みやすくまとまっている。専門家が書いており、編集の手も入っている。どんな情報を探しているかにもよるが、平均すると、ネットにあるコンテンツはまだ質や密度において、新書には到底かなわないと私は思う。

特に、時間がありあまっているわけではないビジネスピープルなどにとっては、ネットでの情報収集に時間をかけるよりも、まとまったコンテンツを安いコストで買ってしまったほうが早い。

私は本のジャンキーであると同時にネットのジャンキーでもあるので、どちらかに肩入れしているつもりはない。その私がバンバン新書を買っているということは、やはりネットだけでは済まないということなのだと思う(もちろん、同時にウィキペディアなどを日々見ているわけで、私にとってネットと本は対立するものではなく、むしろ相補的なものだ)。

「ネット」対「出版」という図式で考えた場合、出版という産業自体が負けるのは人類史的な必然であり、しばらく退却させられることは間違いないだろう。しかし「新書」というフォーマットだけは、ネットに比べても費用対効果が高い「メディア」としてじゅうぶん戦っており、出版という衰退産業の「新しい前線」として、今後さらに発展していく可能性すらあるのではないか。

これから、新書専門の本屋、新書専門の出版社、新書専門の印刷所などが出てきてもおかしくないと思う。
新書はまさに、「新しい本」なのだ。

関連:
ウィキペディア - 新書
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%B0%E6%9B%B8
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