2009.04.15
市場は「巨大なコンピュータ」
池田信夫blog - [中級経済学事典] 双対性
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/f4089e8be4968d76f1cc2e0e3358f824

チャリング・クープマンス(Tjalling Koopmans)の業績を紹介しつつ、市場というものをどう捉えればいいか、その「見方」をわかりやすく紹介している。

<戦争を効率的に遂行するために資源をどう配分すればいいかを研究する作戦研究(operations research)という分野が1940年代に発達し、線形計画やシンプレックス法などの手法が開発された。それを経済学に応用し、利潤の最大化と資源の最適化が数学的には同一だという双対性(duality)を証明したのがKoopmansである(彼はスウェーデン銀行賞を受賞した)>。

<作戦を効率的に進めるために重要なのは、すべての資源をバランスよく配分することだ。兵力がいくら充実していても、兵站が不足していると、日本軍のように戦死者の半分以上が餓死という悲惨なことになる。多くの資源を動員するとき、戦力の水準を決めるのはボトルネックとなる資源だから、資源のバランスを計算して戦力を最大化するのがORだ>。

<市場は、この最適化計算を価格を通じて行なうしくみである。ある資源がボトルネックになっていると、その価格が上がる。そうするとその部門に多くの企業が参入し、生産が増えてボトルネックが解消され、全体の効率が上がる。つまり市場経済は、価格というシグナルを媒介にして利潤を最大化することによって効率的な資源配分を計算する、巨大なコンピュータなのである。同じことを計画経済でやろうとすると、データ量が膨大で刻々と変わるので、実際には計算できない>。

<つまり市場は、集権的な計画当局なしに資源を効率的に配分する分権的意思決定メカニズムなのだ>。

<政府が「成長産業」を選んで育成する政策が、市場より効率的な状態をもたらす可能性はまずない。それが本当に成長産業だったら民間が投資しているから、政府投資は民間投資をクラウディングアウトするだけだし、成長産業でなかったら無駄づかいに終わる。最初に15兆円という入れ物が決まって、あとから中身を考えるバラマキ政策は、市場の機能を殺して日本経済の生産性を低下させるおそれが強い>。

専門的な内容を、こういうふうに一般人にもわかりやすい言葉でまとめられるのが、池田氏のすごいところだと思う。

なお、このエントリのベースになっている「経済学の古典10冊」(週刊ダイヤモンド 2009/4/13)では、クープマンスは次のように紹介されている。

<Tjalling Koopmans, Three Essays on the State of Economic Science:ミクロ経済学の教科書を1冊だけ読むなら、本書の第1エッセイをおすすめする。ここには新古典派の均衡理論のエッセンスが、コンパクトにまとめられている。著者は線形計画を経済理論に応用して、効率的な資源配分を実現することと利潤を最大化することが結果的には同一であることを証明した。市場は分権的な意思決定メカニズムであり、多くの人々の意思を計画当局が集計して最適配分するのと同じ結果が、市場における取引で実現できる。ハイエクが予言した「市場の情報効率性」が、新古典派理論で証明されたのだ>。


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