2009.08.15
セブンイレブンの値引き問題 「消費者保護」は必ずしも消費者の利益にならない
昨日の「セブンイレブンを擁護する 「強者か弱者か」ではなく「公正(フェア)かどうか」で判断すべき」には、なかなか大きな反響があった。ただ罵倒するようなコメントも多いが、有益な情報もたくさんあり、実に勉強になった。私はコンビニの仕組みについても、独占禁止法などの法律についても特に詳しいわけではないので、無知に基づく誤った認識は当然あると思う。

私のエントリに対する反応で、見事な内容のものがあった。

Browser.js - セブンイレブン見切り販売問題についての誤解に関して少しだけ
http://browserjs.blog102.fc2.com/blog-entry-996.html

関連記事や、公正取引委員会の排除措置命令などを引きながら、次のように書かれている。

<ここでは、独占禁止法19条の「不公正な取引方法の禁止」、一般指定14項4号の「優越的地位の濫用」に該当するから、排除措置命令が出されたとあります>。

<それで問題なのは、この規定の趣旨なんですけど、この規定は、実は、上記ブログに書いてあるような「弱者を保護しよう」とすることに主眼があるのではなくて、「弱者が競争の全体的状況の中で、濫用を受け入れざるを得ない状況にあること」に公正競争阻害性があり、そういうのは公正な競争秩序から見て適正でないので排除すべきだという趣旨なので注意が必要ですね>。

<ここでは、セブンイレブンが価格を強制することによって、セブンイレブンの店舗の価格が高止まりとなり、店舗間の公正な競争が阻害されるということを問題としています>。

<これは究極的には、店舗側を保護しようとしているのではなくて、高いものを買わされる、消費者である私たちを保護しようとするものです。つまり、「もっと公平な競争をして安くていい物を提供できるような環境を作れ」ということですね>。

このエントリやはてなブックマークでの指摘、ウィキペディアの「独占禁止法」や関連ページなど(末尾の「関連」参照)をざっと読み、私なりに理解した結果、要するに

・セブンイレブンと加盟店がどのように契約・合意していようと、独占禁止法によって、そもそもセブンは加盟店に対して値引きを禁止できない
・よって、セブンと加盟店の契約レベルでも、加盟店側に価格の決定権があるようになっている
・それなのに、セブンが加盟店に圧力をかけているように見えるのが問題

ということのようだ。また、

・セブンの直営店(自社経営)であれば価格を好きに設定できるが、フランチャイズ契約の加盟店に対しては価格を拘束できない
・加盟店であっても、在庫や売れ残りのリスクをセブン側が負うのであれば、セブン側に価格決定権があるという解釈になるようだが、在庫や売れ残りのリスクを加盟店側が負うのであれば、加盟店側に価格決定権があり、これを禁止するような契約はそもそも結べない

ということらしい。これらについて、昨日のエントリの時点で私は理解していなかったので、誤解に基づくピントはずれな論旨になっている部分があった。

これらを前提にすれば、上記のエントリで指摘されている通り、この値引き問題は「加盟店という弱者を保護するために国が介入した」というよりも、「セブンの商売のやり方は公正(フェア)ではないと国が判断した」というふうに捉えるべきだろう。つまり、セブンと加盟店の関係というよりも、「消費者保護」のためのルールがあらかじめ存在していて、セブンはそれを破っている疑いが生じたので、公正取引委員会が出てきた、ということだ。

昨日のエントリでは「弱者保護」的な介入は「公正(フェア)」ではないというふうに私は考えたのだが、そうではなくて、むしろ今回の介入の根拠である「消費者保護」のためのルールは「公正(フェア)」なのか?というふうに考えるべきだったようだ。

私はすべての法規制が不要だとはまったく思っていないが、すべての法規制が「正しい」とも思っていない。「悪法も法なり」なので、法である以上は遵守するが、おかしい法規制だと思ったら、それについて意見を発することは、社会の一員としてむしろ望ましい態度だと考えている(解雇規制に反対しつづけているのもそのひとつ)。

同様に、独占禁止法が全部不要だとか、間違っているとも思わないが、いまの独占禁止法が完全無欠であるとも思っていない。公正取引委員会は、文字通り「公正(フェア)」な取引を守るための組織であることは承知しているが、その「公正観」が完全無欠であるとも思っていない。そもそも、私はいまの日本政府が完全無欠であるとはまったく思っていないのだ。

今回のセブンの値引き問題の中心が、独占禁止法という「消費者保護」のためのルールにあるとすれば、それはやはり、解雇規制や借地借家法の話と近いものがあるように思う。昨日のエントリでは「弱者」の立場として「加盟店」を考えていたが、ここがむしろ「消費者」になるわけだ。その意味では、昨日のエントリは「弱者」の役割を「消費者」にすれば、基本的な論旨においては変更の必要を感じない。

「消費者保護」は、必ずしも消費者の利益にならない。これは姉歯事件のときに建築の規制強化で起きた「官製不況」や、最近で言えば「ネットでの薬販売の規制」などの例を考えればわかる。ネットでの薬販売の規制は、大抵の人には馬鹿げた規制に思えるだろうが、これも国の論理では「消費者保護」なのだ(政府が「消費者保護」の名目で何かをやるとき、ほんとうに「保護」されるのは消費者ではなく、むしろ政府自身や既得権益者である、ということは少なくない)。

ネットでの薬販売の規制は、その規制の愚かさが明白なので、一般人にも理解されやすい。しかし解雇規制や借地借家法といったものになると、それが悪影響を生み出すロジックがそれほど明白ではない上に、社会保障がからむので話が一層ややこしくなり、その弊害がなかなか理解されない。

今回のセブンの値引き問題も、「消費者保護」のための規制である以上、それは市場を変質させる。その規制は「市場を守る」ための規制、「公正(フェア)」な規制である、というのが独占禁止法の「法理」であり、公正取引委員会の立場だと思うが、それは本当に「公正(フェア)」なのか?というのが私の疑問だ。

例えば、今回のセブンの値引き問題によって、これまで順調に機能していたコンビニのビジネスモデル(定価販売)自体が変更を余儀なくされ、それが結果として消費者にとっても不利益になる、という可能性は十分あると私は考える。もちろん、逆に消費者にとって利益になるかもしれない。少なくとも、これは議論になってしかるべきだと私は考えており、「セブン側が100%悪い」でおしまい、というふうには思えないのだ(なお、これはあくまでも値引き問題に絞った話で、それ以外のセブンのやり方についてはまた別の話だ)。

何かを規制することはつねに、社会の「選択肢」や「多様性」を減らすことである。規制はそれを維持する実際のコストだけでなく、規制がなければできたはずのことができない、という「機会費用」も生む。その規制が「公正(フェア)」なものであれば、コストがかかっても、それによって社会の「富」を守ることができる。しかしその規制が「公正(フェア)」なものでなければ、コストがかかるうえに、社会の「富」を毀損することになる。


関連:
独占禁止法
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%8B%AC..
私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A7%81..
不公正な取引方法
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8D..
再販売価格維持
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%8D..

関連エントリ:
セブンイレブンを擁護する 「強者か弱者か」ではなく「公正(フェア)かどうか」で判断すべき
http://mojix.org/2009/08/14/seven_fairness