2010.04.03
mixiアプリ「サンシャイン牧場」の山火事ネタはなぜユーザを怒らせたのか
THE SECOND TIMES - 【4月1日】サンシャイン牧場で山火事発生中
http://www.secondtimes.net/metaverse/episode/20100401_sunshine.html



<Rekoo Mediaが提供するmixiアプリ「サンシャイン牧場」にて山火事が発生した。
 「サンシャイン牧場」は中国発の農業系シミュレーション・ソーシャルゲームで、自分の畑に様々な作物の種を植え育てることができる。しかし本日未明より突然山火事が発生。”バーチャル農家”たちの畑の作物が全て燃えてしまうという事態に見舞われた。サンシャイン牧場ユーザーはすぐに自分の畑を確認してみよう>。

これはエイプリルフールのネタだったのだが、ユーザの中にはこれを真に受けて、ショックを受けた人も少なくなかったらしい。

ワラ速 - mixiのエイプリルフールネタに利用者激怒 せっかく育てた「サンシャイン牧場」が山火事で灰に
http://warasoku.blog18.fc2.com/blog-entry-1399.html



ここでユーザからの苦情が紹介されていて、以下のような声が上がっているようだ。

<今ログインしたら「山火事にあいました!!全て燃えてしまったので始めからやり直して下さい!!」
と出ました・・・画像も作物全部燃えていて、「えっ?」って感じで頭真っ白になりました 
もうほんとにびっくりするんでそーいうのは作らないで頂きたいです>

<ちょっと気分悪い・・・ みなさん平気だったんですか?
エイプリルフールネタにしてはあまりに趣味が悪すぎます>

<エイプリルフールだからって・・・ 課金されてる人からの損害賠償問題にも発展しかねない。
趣味の悪い『嘘』はつかないほうがいいよね>

<やり直すではなく、もう少しで「アプリを削除」を選ぶところでした。
いくらエイプリルフールでも趣味が悪過ぎます。
気付いたのは、「いつものバグかもしれない」とリロードするため私の牧場をクリックしたからです。
大人気ないかもしれませんが、2度目があったら迷わずやめると思います>

こういった苦情に対して、「たしかにこれはひどい」という共感と、「それくらいエイプリルフールのネタだとわかれよ」といった反応に割れているようだ。

この話は、(1)「ジョーク」というものの難しさ、(2)通貨や財産権の問題、という2つのトピックを含んでいて、面白い。

まず、この山火事ネタはエイプリルフールの「ジョーク」である。ジョークやお笑いでは、誰かを「ダシ」にする、ということがよくおこなわれる。

「ダシ」にするということは、多かれ少なかれ「けなす」ということだ。いちばんよく使われるのは、自分自身の愚かさを「ダシ」にするというもので、これは他人を誰も傷つけないので、やりやすい。「ボケ」同様、自分自身を低く見せることで笑いをとる手法だ。これに対して、誰か別の人を「ダシ」にするのは、なかなか高度な技術である。「けなす」にしても一定の優しさがなければ、単に殺伐としてしまって、「芸」にならない。

特にむずかしいのは、見ている側の観客を「ダシ」にしたり、「いじる」というパターンだ。これは相当高度な上に、観客側にも一定の理解度や「度量」が求められる。

今回の「サンシャイン牧場」の山火事ネタは、まさにお客さんであるユーザを「ダシ」にして、「いじる」パターンであり、いちばん高度なワザだ。よって、この「いじり」を楽しめた人もいたが、楽しめなかった人も多数いたわけだ。

さらに今回の場合、「サンシャイン牧場」というゲーム自体が、「通貨」や「財産」にあたるものを含んでおり、その中心的な構造にかかわるジョークだった、というのがある。ユーザが時間をかけて作り上げた一種の「財産」を、「通貨」の発行側であるゲーム主宰者がブチ壊す、という図式になっているために、より「笑えない」わけだ。

通貨は、通貨発行体に対する「信頼」によって成立している。その「信頼」こそ、通貨にとっていわば「命」である。通貨発行体は通貨の発行権を持つが、だからといって、むやみに通貨を発行したり、通貨を勝手に切り替えたりすれば、その「信頼」を失う。ジンバブエの天文学的なインフレや、北朝鮮のデノミなどはまさにこれであり、通貨発行体が勝手に通貨を刷ったり、通貨を切り替えたりすれば、誰もその通貨を「信頼」しなくなり、その通貨の価値は消滅する。

サンシャイン牧場やセカンドライフなどのゲームでは、そのゲームの提供者が「ゲームデザイン」という「制度設計」をおこなう。ゲーム内で「通貨」や「財産」に類するものが使われる場合は、「通貨の発行」や「財産の保全」も、その制度設計の一部になる。ゲームのユーザは、その制度設計を「信頼」してゲームに参加する。

今回の山火事ネタは、主宰者側にとっては悪意のないジョークのつもりだったとしても、このように通貨発行体や制度設計者に対する「信頼」というものに抵触する内容だったために、かなり「キツいジョーク」になってしまったわけだ。

一生懸命に貯めてきた自分の財産が消える、というのは強いショック体験であり、あとから「ジョークでした」と言われても、制度設計者に対する「信頼」は、完全に元どおりにはならないだろう。まさに「冗談では済まされない」わけで、冗談というものはなかなかむずかしい。


関連エントリ:
民間人は「ゲームプレイヤー」であり、政府は「ゲームデザイナー」である
http://mojix.org/2010/01/09/game_player_designer