2012.08.06
日本は「快適な生活症候群」 ペンシルベニア大学フランクリン・アレン教授
WSJ日本版 - 【肥田美佐子のNYリポート】米ウォートン校教授が語る日本経済再生の処方箋「『快適な生活症候群』とゾンビ企業を退治せよ」(2012年8月3日 15:07 JST)
http://jp.wsj.com/Japan/node_488373

<日本経済の先行きが不透明になってきた。8月1日、国際通貨基金(IMF)は、年次経済報告書のなかで、欧州債務危機と中国経済減速により、来年、日本の経済成長率が1.5%にとどまる可能性を指摘。景気下振れリスクに言及した>。

<また、報告書によれば、近い将来、危機が発生するようなことはないが、金融セクターが日本国債に多額のエクスポージャー(投融資残高)を抱えていることで、金融システムの安定性がリスクにさらされているという>。

<日本経済が直面している最大の問題は何か。米ヘッジファンドが警告するように、日本国債は大きな危機をはらんでいるのか。7月、米ビジネススクールとして評価が高いペンシルベニア大学ウォートン校のキャンパスを訪ね、日本経済に詳しいフランクリン・アレン教授(専門は資産バブルなど)に話を聞いた>。

これは良い記事。いまの日本の問題点がよくまとまっている。

アレン教授の発言からいくつか抜き出してみよう。

<ソニーは20年前、現在のアップルのような存在だったが、しだいに競争力を失っている。いずれは経営破たんする大手メーカーも出るのではないか>。

<日本は今も素晴らしい国であり、多くの分野で卓越している。人材も豊富で勤勉、テクノロジーも非常にすぐれている。だが、これまでのやり方では、もはや通用しない。国民1人当たりの購買力平価ベースで見ると、国内総生産(GDP)は、すでに台湾に水をあけられており、2、3年以内に韓国にも抜かれるだろう>。

<(日本の最大の問題は)日本が依然として、とても住みやすい国であり、非常に快適なライフスタイルを送ることができ、状況が悪化していないため、(気づかないうちに)経済成長が徐々に止まり、他国に追い抜かれていることだ。長年の低金利政策で、(本来なら破たんしているような)ゾンビ企業も、簡単に債務の借り換えを行うことができる。こうした理由から、危機感が生まれないのだ>。

<日本は、いわば「カンフォタブル・ライフ・シンドローム(快適な生活症候群)」に陥っている。国内にとどまり、まずまずの仕事に就き、安楽な暮らしに甘んじる――。80年代に日本が重要な国として位置づけられたのは、(人が)世界中に進出し、ベストなものを見分ける力があったからだが、今では、ずっと内向きになっている>。

<10年前でさえ、訪日するたびに、日本人が、他国に先駆けていち早く携帯電話でインターネットを使っていたのを思い出す。それなのに、なぜ日本から iPhone(アイフォーン)やアンドロイドが生まれなかったのか。なぜ市場から脱落してしまったのか――。グローバルな融合を果たせなかったからだ。世界トップレベルのテクノロジーをもってしても、他国と交じり合えなければ、(国際シェアに食い込めるような)製品は開発できない>。

<何も手を打たなければ、今後30年以内に金融危機が起こる可能性もある。日本は今も資金の「安全な避難先」であり、目下のところ確率的には5~10%だが、少子高齢化や企業の競争力低下といった大きな問題が山積していることを考えると、ある時点で円安に振れ、投資家が一気に資金を引き揚げる恐れもある>。

<リスクは拡大している。いざとなれば、国内のメガバンクでさえ資金引き揚げに踏み切るだろう。ギリシャの債務危機で最も興味深いことの1つは、投資家が資金を引き揚げていないため、依然として、まとまったお金があることだ。それでも、ある時点で、あのような事態に陥る>。

<仮に、経営不振が目立つ大手家電メーカーが破たんするようなことになれば、多くのヘッジファンドが、すわポジションを取るべきかと考え、(日本国債暴落に賭ける)一部の米ファンドに続くだろう。欧州危機が収束すれば、次に注目されるのは日本だ>。

<(消費税の増税について)欧州を見れば分かるように、緊縮財政下で増税すれば、(消費減など)短期的にはいい結果を生まない。だが、放っておけば、長期的危機が生じるのは確かだ。(5%から10%への)税率の倍加が妥当かどうかは分からないが、よりバランスのとれた財政状態にするにはどうすべきかについて、考える必要がある。おそらく数年かけて段階的に行うのがいいのではないか>。

<日銀は、(追加緩和への)大きな政治的重圧にさらされている。だが、最初の2~3回を除き、短長期にわたって大きな効果を生まなかった。日本の問題解決には、痛みを伴うかもしれないが、徐々に政策金利を上げていくのがベストだと考える。そうすれば、企業が(生き残るために)競争力をつけざるをえなくなるからだ>。

<事実上のゼロ金利政策のおかげで、不良債権を背負い込みたくないという銀行の思惑もあり、企業は、あまりにも容易に債務の借り換えに走る。その結果、競争力が激減し、「ゾンビ化」する。日本が抱える甚大な問題の1つは、これだ>。

アレン教授の見方は、じつに的確だと思う。日本はまだ快適なので、じわじわ衰退していっていることに気づかない。ますます内向きになり、競争力を失ったゾンビ企業を救済しつづけている。

日本国債はいまのところ安全に見えるが、トレンドが変化すれば、投資家はいっせいに動くものだ。弱っているときに打たれれば、ほんとうに立ち直れなくなる。打たれる前に、体力を回復しなければならない。


関連エントリ:
リチャード・カッツ「反成長的な慣行を社会的なセーフティネットと所得配分政策に置き換えよ」
http://mojix.org/2010/01/13/hanseichou_safetynet
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