2012.10.02
ソフトバンクがイー・アクセス買収 「勝負師」孫正義の強烈な一手
毎日新聞 - ソフトバンク:イー・アクセス買収 高速通信で競争力強化(2012年10月01日 21時18分(最終更新 10月01日 23時41分))
http://mainichi.jp/select/news/20121002k0000m020077000c.html

<国内携帯電話3位のソフトバンクは1日、同4位のイー・アクセス(イー・モバイル)を来年2月に株式交換で買収し、完全子会社にすると発表した。イー・アクセスが持つ周波数帯を取り込むことでスマートフォン(多機能携帯電話)普及によるデータ通信量の増加に対応し、競合他社に対抗する>。

<株式交換でのイー社の株式評価額は約1800億円(1株あたり5万2000円)で、直近の株価の3倍弱の評価。ソフトバンク傘下の携帯電話事業会社ソフトバンクモバイルと、イー・モバイルを合わせた累計契約数は計約3400万件に達し、業界2位のKDDI(au)の3600万件弱に迫る。PHS子会社のウィルコムを合わせると3911万件で、業界2位となる>。

<ソフトバンクの孫正義社長は1日、東京都内で記者会見し「(買収の)背景には高速通信サービス『LTE』の競争がある」と指摘し、「買収により競合他社と比べても十分に電波と基地局の構えができる」と強調した>。

これはビッグニュース。すごい買収だ。

auとのiPhone 5合戦で、LTEテザリングでリードされてしまい、劣勢に立たされたソフトバンク。このままでは、iPhoneユーザがどんどんauに取られてしまう。看板商品のiPhoneで負けてしまっては、ソフトバンクの屋台骨すら揺らぎかねない。

そこで、希代の「勝負師」孫正義が指した一手が、「イー・アクセスの買収」。誰もがアッと驚く指し手だが、指されてみれば、「なるほど」という気もする。これで一気に遅れを挽回し、そのうえグループ全体の契約数でKDDIを超え、業界2位に躍り出るわけだ。

直近株価の3倍近く払っても、行けると読んだのだろう。というか、劣勢を挽回する方法がそれしかないのであれば、ハンパな金額を出して、買収が失敗することは許されない、と考えたのかもしれない。絶対に「ノー」と言われない金額を提示し、買収を成功させること。それしか手がなかったのかもしれない。

INTERNET Watchの記事では、買収を決断した詳しい背景が紹介されている。

INTERNET Watch - ソフトバンクがイー・アクセスを買収、LTEを強化、契約数はauを抜き業界2位に(2012/10/1 17:57)
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20121001_563364.html

<孫氏は経営統合を決めたきっかけは、「いずれはさらに深い関係になりたいという思いは持っていたが、正式に、必死の思いで提案しようと腹をくくったのは、iPhone 5のテザリングを『やりましょう』と言った瞬間」だったと明かし、テザリングはユーザーに提供したいが、それに見合うネットワークを整備する必要があったと説明。両社の相互MVNOのような形のサービスも可能だったが、よりユーザーに快適なサービスを提供するためには、3GとLTEの切り替えなどでより深いレベルでのネットワークの統合が必要であり、そのために経営統合という判断に至ったとした>。

やはり、auのLTE・テザリングに対抗するため、というのが直接の動機だったようだ。

それにしても、iPhone 5が出たのはつい先日である。そこからこれほどの短期間で、イー・アクセスの買収をまとめたのはすごい。以前から買収は考えていて、iPhone 5のテザリングを「やりましょう」と言った時点で「腹をくくった」というのだから、さすが孫正義である。

IT proの記事では、ソフトバンクとイー・アクセスの両者が持つ周波数帯について解説されている。

IT pro - ソフトバンクによるイーアク買収の舞台裏、iPhone 5の1.7GHz対応が契機(2012/10/01)
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20121001/426741/

<孫社長がテザリング解禁を決めた裏には、イー・アクセスが持つ1.7GHz帯の周波数帯を手中に収める算段があった。実はこの周波数帯は、3Gの時代には世界的に活用する事業者が少なかったが、LTE時代に入り「LTE band 3(もしくは9)」として国際的に標準化され、価値が一変している(関連記事)。欧州や韓国、アジアの事業者はこの周波数帯でLTEサービスを開始し、その国際的な需要の高さから、人気機種であるiPhone 5(GSM model 1429)もサポートするまでになった>。

<この周波数帯をソフトバンクモバイルが手に入れることで、ソフトバンク自身が2013年3月までに置局するとしている2.1GHz帯の約2万局に加えて、イー・アクセスが1.7GHz帯で置局した約1万局を上乗せし、iPhone 5を収容できる。これだけの基地局があれば、テザリングを解禁してもネットワークを落とさずに運用できると孫社長は踏んだわけだ>。

また、イー・アクセスの買収提案はソフトバンクだけではなく、複数社からあった旨も紹介されている。

<この計画を実現するために、孫社長は短期間でイー・アクセスに猛烈なラブコールを送った。イー・アクセスの千本倖生代表取締役会長は「実は(ソフトバンクを含む)複数社から同様の提案があったが、ソフトバンクがもっとも熱意のある提案だった。いろいろ悩みもしたが、我々自らが成長するよりも遙かに高い価値を提供できるのではないかと考えた」と打ち明ける。結局2012年10月1日の昼にイー・アクセスが開催した緊急取締役会で、株式交換による完全子会社化を受け入れることになった>。

<その“熱意のある”というソフトバンクの提案とは、株価が1万5000円前後で低迷していたイー・アクセス株に、大幅なプレミアムを積んだ5万2000円を提示したこと。ソフトバンクはイー・アクセスの企業の価値として、設備投資額や顧客獲得コスト、シナジー効果などを含めて7220億円と大きな評価している。とはいえ、これだけ急展開で経営統合を決めたのは、“iPhone 5でテザリングを可能にするための1.7GHz帯”が最大のポイントだった>。

おそらく、複数社からあった買収提案のうち、要するにいちばん評価額が高かったのがソフトバンクだった、ということだろう。イー・アクセスの持つ周波数帯や顧客は、複数の会社にとって魅力的だったが、ソフトバンクがもっとも熱心に欲しがったわけだ。たしかに、イー・アクセスの買収がこれほど意味を持つ会社は、ソフトバンク以外にはあまりなさそうに思える。

しかしこの買収には、問題点もありそうだ。ソフトバンクとイー・アクセスはいずれも、政府(総務省)から周波数帯を割り当てられた寡占事業者である。その寡占事業者のうちの1社が、別の会社を買収してもいいのだろうか。もしこれを禁止するルールが特にないのであれば、そもそも政府による周波数帯の割り当てというもの自体が、問題をはらんでいることになる。

周波数帯については、IT proの記事に、このような記述がある。

<なおソフトバンクがイー・アクセスを経営統合することで、ソフトバンクモバイルが取得した900MHz帯の15MHz幅×2(2015年までは5MHz 幅×2のみの利用)帯域に加え、イー・アクセスが取得した700MHz帯の10MHz幅×2もソフトバンクグループが手中に収めることになる。 700M/900MHz帯の周波数の割り当て方針では、700MHz帯、900MHz帯のどちらかいずれかの周波数帯を獲得した事業者は、いずれか一方は獲得できないという方針となっていた。この点について公平性が保たれるのかと質問を受けた孫社長は、「他社(ドコモとKDDI)は、以前から保有する 800MHz帯の15MHz幅×2に加えて、今回の700MHz帯で10MHz幅×2を得ている」と語り、ソフトバンクの900MHz帯の15MHz幅 ×2とイー・アクセスの700MHz帯の10MHz幅×2でちょうど釣り合っていると主張。700MHz帯を辞退する考えがないことを示した>。

ソフトバンクは700MHz帯を辞退する考えがないとのことだが、この点はきっと、これから問題になってくる気がする。このままでは、周波数帯を割り当てた総務省の面目が丸つぶれだろう。これがどうなるか、ひきつづき注目していきたい。


関連:
ウィキペディア - Long Term Evolution (LTE)
http://ja.wikipedia.org/wiki/Long_Term_Evolution
ウィキペディア - テザリング
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%86..

関連エントリ:
iPhone 5、買った。auで。
http://mojix.org/2012/09/23/iphone5-au
日本のネットベンチャーが技術革新よりも 「ネット財閥」 をめざす理由
http://mojix.org/2005/10/30/233716