2012.10.16
ソフトバンク、スプリント買収を正式発表 総額1.5兆円超 「勝負師」孫正義またも強烈な一手
CNET Japan - ソフトバンク、スプリント買収を正式発表--総額1.5兆円超(2012/10/15 17:07)
http://japan.cnet.com/news/business/35023069/

<ソフトバンクは10月15日、米携帯電話事業者のSprint Nextelを買収することで合意したことを正式に発表した。Sprint Nextelの株式の70%を取得し、買収総額は1兆5709億円(約201億米ドル)におよぶ>。

<投資総額のうち約9469億円(121億米ドル)はSprintの株主に支払われ、約6240億円(80億米ドル)はSprintの財務体質の強化などに投じられる。両社は、2013年半ばに取引を最終的に完了すると見込んでいる>。

数日前から報道されていた、ソフトバンクによるSprint Nextel買収が正式発表。

イー・アクセス買収発表の衝撃もさめやらぬうちに、さらに米国3位の携帯電話会社を1.5兆円超で買収である。「勝負師」孫正義による、強烈な指し手の連発にクラクラする。

このCNET Japanの記事では、買収内容の詳細まで書かれている。

<ソフトバンクとSprint両社の取締役会で決議されており、幾つかの条件が提示されている。Sprint株主による株主総会における承認、競争法上の承認、連邦通信委員会による承認その他監督官庁の通常の承認、および表明、保証違反がないことなどだ>。

<ソフトバンクグループ代表の孫正義氏によると、ソフトバンクはいったんSprintの米国持ち株会社を買収し、新Sprintを設立。ソフトバンクが新Sprintの70%の株式を、残りの30%はSprintの既存株主が保有することになる>。

<新Sprint設立のために発行する新株の価格は、既存株主向けにはプレミアムが付いた7.3ドル、新規の株主は5.25ドルとなっている。資金は手元資金と借り入れで調達しており、現状のソフトバンク株を用いた新株発行や転換社債などのエクイティファイナンスは行わない。「現金で実施する」としており、株式の希薄化は発生しないという。新Sprintは旧Sprintの完全親会社となり、旧Sprintを継承する形でニューヨーク証券取引所に上場し、米国における上場会社になる>。

ソフトバンク株を用いた新株や転換社債の発行(エクイティファイナンス)はおこなわず、手元資金と借り入れだけで買収資金を調達するとのこと。手元の現金と、銀行からの借金だけで1.5兆円を用意できるんだからすごい。

<来日したSprintのDaniel R. Hesse氏は発表会の壇上で、Sprintが米国の携帯電話市場で第3位で、ポストペイドでは3300万人のユーザー、プリペイドでは1500万人おり、売上高では340億ドルであることを伝えた。「AT&Tなどの競合企業には遅れを取っているものの、通信量収入成長率で1位、ARPU成長率も1位と大きな成長をしている企業だ」と成長性を強調した>。

<気になるSprintのブランド力だが、第3者機関による調査で「過去最高」だという。「米国事業者の中で唯一改善している」としている。実際に、契約者も2012年6月末で5640万人と過去最高水準の状況だ>。

<同取引のための資金は、ソフトバンクが持つ手元資金に加え、みずほコーポレート銀行、三井住友銀行、三菱東京UFJ銀行、ドイツ銀行東京支店からの融資で賄う。「引受を合意した新規のブリッジローンにより充当する予定」としている>。

<また、同社の主な財務アドバイザーはThe Raine Group LLCとみずほ証券で、資金調達にかかるMLA(マンデーテッド・リード・アレンジャー)はみずほコーポレート銀行、三井住友銀行、三菱東京UFJ銀行、ドイツ銀行東京支店だとしている>。

<買収後のソフトバンクのユーザー数は日米合わせて9600万人となり、NTTドコモやKDDIを大きく上回ることになる。ソフトバンクのグループとしての売上高は6.3兆円になると見込む。孫社長は「日本ではなく世界で3位の企業になるのだ」と強調した>。


ソフトバンク代表の孫正義氏(左)とSprint代表のDaniel R. Hesse氏(右)

<なお、 Hesse氏はSprint買収後も、引続き同社の経営に関与していくとしている>。

買収もすごいが、この身長差もすごい。小さいほうが大きいほうを飲み込むのだ。

この買収発表で、ソフトバンクは財務体質の悪化が懸念され、株は下がっているようだ(「ソフトバンク株、下げ止まらず--米企業買収で財務負担の懸念増加」(2012/10/15 12:01))。これだけの巨額買収であれば、無理もない。しかし個人的には、「勝負師」孫正義はまた勝つような気がしている。

ザイ・オンライン - 【緊急寄稿】超大型買収報道で株価急落 ソフトバンクの株価は回復する可能性が高い!(2012年10月12日)
http://diamond.jp/articles/-/26298

<先進国の携帯電話市場は大きく伸びなかったとしても縮小することはない。その一定の大きさの市場を3~4社で分け合う。極めて参入障壁が高いので、新たな競合が登場することはない>。

<今回のソフトバンクのテザリング導入などを見てもわかるように、競合他社の戦略を見て、ある程度追随すれば大きくコケることもあまりない。つまり、どの企業も大赤字になることは考えられない。むしろどの企業もある程度の安定的なキャッシュフローが見込めるというわけだ>。

<それゆえに今のソフトバンクが存在する。ボーダフォン買収を発表したのは6年前のことである。あの時も当初の株価は大幅下落した>。

<下落の理由は買収金額が高い(正確には大きいと表現すべきであろうが)、借入金負担が懸念される、というものであった。しかし、ソフトバンクは事業証券化という手法を用いることで1.5兆円もの大型買収を実現し、その後見事に携帯電話事業を同社の柱とした>。

この保田隆明氏の見方に、私も賛同する。私はソフトバンクのファンでもないし、孫正義氏のファンでもないが、この買収発表には「さすが孫正義だ」と思わされた。

たしかに財務が悪化するので、今後リーマン・ショックや大震災など、予期せぬイベントが起きたときは、耐えられない可能性はあるかもしれない。しかし、この大型買収自体は、ビジネス的に正しい「指し手」だと思う。いまはカネ余りのうえに、ボーダフォン買収を経ているソフトバンクは、経験値を大きく上げている。買収規模としてはボーダフォンのときと同じくらいのようだが、ボーダフォン買収前のソフトバンクと、いまのソフトバンクでは、ビジネスの規模も、認知度も、安定度も、まったく違う。

だとすれば、株価がいつ戻るかはわからないが、その「正しさ」が見えてきた頃に、また戻ってくるだろう。

保田氏は冒頭で、<先進国の携帯電話市場は大きく伸びなかったとしても縮小することはない。その一定の大きさの市場を3~4社で分け合う。極めて参入障壁が高いので、新たな競合が登場することはない>と書いている。まったくその通りだと思う。財務は悪化するかもしれないが、「買い物」としては、むしろ「優良資産」なのだ。

携帯電話というビジネスは、いったんインフラをつくり、契約を取れれば、黙っていても毎月カネが入ってくる。まさに「時間を味方につける」ビジネスのお手本である。それも、競合が少なく、参入障壁がきわめて高い「権利ビジネス」であり、さらに市場自体が拡大しつづけている。価値が下落せず、ずっと収益をもたらしてくれるのだから、「優良資産」というほかはない。

財務の悪化というのは、「バランスシート(B/S、貸借対照表)」が悪くなる(借金が多すぎる)、ということだ。しかしその借金で買うものが、黙っていても収益をもたらす「優良資産」であれば、バランスシートは放っておくだけで改善していくだろう。


関連:
毎日新聞 - ソフトバンク:世界展開に足場 米携帯大手の買収検討(2012年10月11日 21時54分(最終更新 10月12日 00時24分))
http://mainichi.jp/select/news/20121012k0000m020092000c.html
関連エントリ:
時間を味方につける
http://mojix.org/2012/10/14/jikan-mikata
ソフトバンクがイー・アクセス買収 「勝負師」孫正義の強烈な一手
http://mojix.org/2012/10/02/softbank-eaccess