2013.02.08
本をどう並べるか
昔、受験の頃に読んだ英語のエッセイに、こんな話があった。本棚で本を並べるとき、本の見た目によって並べると、内容がバラバラになる。いっぽう、本の内容で並べると、見た目がバラバラになる。それだけの、数行くらいの一節だったが、いまでも印象に残っている。

本を並べるには、なんらかの基準にしたがうしかない。しかし、本というのは、物体としての見た目を持っていると同時に、情報としての内容を持っている。よって、見た目で並べるのか、内容で並べるのか、どちらかをとるしかない。

私がよく行く本屋で、文庫コーナーの並べ方が独自のところがある。普通の本屋では、文庫コーナーは各出版社のシリーズ別になっていて、岩波文庫、新潮文庫、文春文庫、中公文庫などに、それぞれの場所がわりあてられている。しかしその本屋では、出版社を問わず、著者のあいうえお順に並べているのだ。

たしかに、これは合理的な面がある。文庫本を探すときは、特定の著者から入ることが多いし、それがどの文庫に入っているのか、知らないことはよくある。こういう場合、どの文庫かを問わず、その著者の本が固まっていれば、探しやすい。

しかし、この並べ方だと、見た目が悪くなるのだ。見た目が悪くても、探しやすければいいじゃないかとも思うが、じっさいその前に立つと、けっこうガックリ来る。特に文庫は、出版社ごとにデザインが完全に統一されている。これを、出版社を問わずに著者別に並べてしまうと、大きさは同じでも、見た目が相当ガタガタになるのだ。

本屋というのは、ただ特定の本を買うために行くところではない。特定の本を買いに行ったとしても、その近くにある本に目が留まって、それを立ち読みしたり、衝動買いしたりする、そういうところだ。本屋の側も、もちろんそれを狙って、本を並べている。

著者別に並べた文庫コーナーは、その著者の本が一箇所に固まるので、その意味では便利である。しかし、棚の見た目がガタガタになっているので、文庫コーナー全体としての方向感というか、「わかりやすさ」みたいなものが、失われている感じがする。

見た目というのは、単にカッコいいとか、美しいということだけでなく、それ自体が「わかりやすさ」にもつながっている。見た目をととのえることで、「わかりやすさ」が向上するのだ。

見た目というのは、ウェブサイトでいう「ユーザ・エクスペリエンス」みたいなものだろう。それは内容と対立するものではなく、内容と連続していて、いわば「内容への入口」になっている。見た目が混乱していると、その「内容への入口」が閉ざされてしまうのだ。


関連エントリ:
LATCH - 5つの情報の整理棚
http://mojix.org/2005/08/19/095152