2013.05.08
将棋のプロ棋士がコンピュータに負ける時代はおもしろい
将棋の世界では、コンピュータがプロを負かす時代になってきた。これを悲しいことだと捉える見方もあると思うが、私はむしろ、これはおもしろい時代だと思う。

人間が強すぎてコンピュータが弱すぎる、あるいは、人間が弱すぎてコンピュータが強すぎる、という状況は、あまりおもしろくない。人間とコンピュータの強さが同じくらいで、互いにしのぎを削るくらいの状況が、おもしろいと思うのだ。

おそらくプロ棋士から見ても、コンピュータ将棋というのは、厄介な商売敵(しょうばいがたき)であると同時に、「おもしろいライバル」というふうに見えているのではないだろうか。

なにしろコンピュータだから、プロ棋士でも思いつかない手を指す。コンピュータ将棋が斬新な手を指したら、それは斬新な論文みたいなもので、「これはすごい」「こんな手が可能だったのか」と、棋士のあいだでも話題になるだろう。コンピュータによって、将棋に関する人間の知識が更新されるのだ。

いまのところ、プロ棋士は人間どうしで対戦しているが、そのうち、プロ棋士がコンピュータを使って対戦する時代が、きっと来ると思う。少なくとも、「コンピュータを使ってもよい」というルールのタイトル戦があらわれるのは、時間の問題ではないか。

「コンピュータを使ってもよい」というルールのもとでは、プロ棋士はプログラマと組んで、独自のプログラムをつくるだろう。プログラマといっしょに思考アルゴリズムをつくり、それに磨きをかけるわけだ。

コンピュータといっても、自動的に強くなるわけではなく、その強さは結局のところ、プログラマがつくる思考アルゴリズムで決まる。この部分にプロ棋士が入り込めば、コンピュータ将棋のレベルもさらに上がり、プロ棋士もきっと刺激を受けるだろう。

人間とコンピュータが対戦して、ちょうど互角くらいの状況だからこそ、お互いに刺激を受けて、お互いに強くなれる。人間とコンピュータがちょうど互角くらいというのは、将棋以外では、あまり思いつかない。これは将棋という世界にとって、不幸というよりも、きっと幸運なことだと思う。


関連:
コンピュータ将棋
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3..

関連エントリ:
将棋をビジネスとして考える
http://mojix.org/2012/10/28/shogi-business