2004.07.04
分類から検索へ - David Gelernterの「Lifestreams」
Passion For The Future : 「挫折しない整理」の極意で、ソニーCSLの暦本氏の提案する「タイムマシンコンピューティング」というのが紹介されていた。

Time-Machine Computing
http://www.csl.sony.co.jp/person/rekimoto/tmc/

これを見て、かつて私が大きな影響を受けた本『ミラーワールド』の著者、David Gelernterの提唱していた「Lifestreams」を思い出した。

Lifestreams project homepage
http://www.cs.yale.edu/homes/freeman/lifestreams.html

Lifestreams: An Alternative to the Desktop Metaphor
http://www.acm.org/sigchi/chi96/proceedings/videos/Fertig/etf.htm

Wired : Lifestreamsの紹介
http://www.wired.com/wired/archive/5.02/fflifestreams_pr.html

ミラーワールド』の日本語訳が出たのは1996年で、私はちょうどこの年、初めてコンピュータを買い、ダイアルアップでネットに接続した。

ミラーワールド』に衝撃を受けて、著者のDavid Gelernterに興味を持ち、調べた結果、当時の彼が提唱していたのが「Lifestreams」だったのだ。

私は「ミラーワールド」概念には大いに刺激を受けたものの、「Lifestreams」のほうはいまいちピンと来なかった。

その後、私が「Lifestreams」のことを思い出したのは、2002年に(遅ればせながら)「超整理法」をやりはじめてからだ。「超整理法」は、書類を内容で分類せず、A4の封筒に入れて時間軸に沿って並べるだけという方法である。

ここで初めて、「時間軸のない、いまのデスクトップメタファーは不適切である」という「Lifestreams」の主張が、実感として理解できた。

そしてネットでも、ディレクトリサービスのYahoo!が、サーチエンジンのGoogleに王座を譲り渡した。そのGoogleが、Gmailを開始し、いまやデスクトップにも進出しようとしているのだ。

ミラーワールド』の原著は1991年であり、David GelernterはWebもほとんど知られていなかったその時点で、「ミラーワールド」を提唱していた。

そのDavid Gelernterが1996年に提唱していた「Lifestreams」は、当時の私には現実味がなかったけれども、2004年の現在、とてもリアルに感じられる。

<A lifestream is a time-ordered stream of documents that functions as a diary of your electronic life; every document you create is stored in your lifestream, as are the documents other people send you. The tail of your stream contains documents from the past, perhaps starting with your electronic birth certificate. Moving away from the tail and toward the present, your stream contains more recent documents such as papers in progress or the latest electronic mail you've received---other documents, such as pictures, correspondence, bills, movies, voice mail and software are stored in between. Moving beyond the present and into the future, the stream contains documents you will need: reminders, your calendar items, and to-do lists.>

「Lifestreams」は「あなたの電子生活の日記」であり、誕生から現在までの、あらゆる文書や写真、メールなどすべての電子的コンテンツを含んでいる、そういうものだ。まさに、電子ファイル版の「超整理法」である。

情報を「分類」していられるのは、情報がごく少ないうちだ。情報がある程度以上の量になってくると、「分類」はしだいに困難になり、ついに破綻する。

「検索」できるのならば、そもそも「分類」の必要がない。「超整理法」では、検索は自分の目でやるしかないが、コンピュータやネットの上では、ソフトウェアが検索してくれる。

自分のPCの中ですら、どのフォルダに分類したのかわからなくなって、検索することはしょっちゅうある。こうなると、たしかにフォルダの存在意義は薄いような気がしてくる。

もしそのかわりに、ファイルはどんどんタイムスタンプ順に自動整理されていって、キーワードやファイルタイプ、日時などの属性で検索できるような感じになったら、そのほうがスッキリするかもしれない。

ZopeのCMF/Ploneには、クエリー(検索条件)をオブジェクト化した「Topic」というコンテンツタイプがある。フォルダというのは、この「Topic」みたいなもので十分だという気もする。

例えば、「Zope関連(ここ1か月分)」というTopicを作って、その検索条件を「キーワードに「Zope」を含み、作成日がここ1か月以内のもの」としておけば、それに合致するものがヒットするのである。

このTopicみたいなものを「フォルダ」だとしておけば、そのフォルダを開いたときに、その条件に合致したものがその中に入っている。自分でそのフォルダに「分類」する必要がないのだ。今後、この条件に一致するものが出てきた場合も、このフォルダの実体はクエリー(検索条件)に過ぎないので、自動的にそこに「入る」。

「Lifestreams」では、自分の誕生から現在までのすべての電子ファイルが「超整理法」的に全部残っており、上記のようなキーワード・属性・日時範囲の検索によって、必要なものを引っ張り出せるのだ。

「ミラーワールド」は、世界の情報的コピー・代理物を構築するという話だった。しかし、世界は刻々と変わっていく。おそらくDavid Gelernterはそこに早くから気づき、情報対象をPCだけに絞って、時間軸を強調した「Lifestreams」を1996年に提唱したのではないか。

この同じ話が、人類全体、世界全体にもそのまま敷衍できる。ネット上で展開される人類の知的活動全般、また生物学的・地理学的情報すべてを含み、それを時間軸上に並べる「Worldstreams」だ。

フリーメールで1GBが提供され、テラバイトのハードディスクもそろそろ普及価格帯に入りそうな2004年の現在、個人のPC上の「Lifestreams」はもはや十分に現実的な話だろう。あらゆる文献の収集をめざした古代アレクサンドリア図書館のように、あらゆる人類の知恵を網羅した「Worldstreams」が建設されるのも、そう遠くないような気がする。