2005.02.04
藤巻幸夫はトム・ピーターズを超えたかもしれない
以前買ってちゃんと読んでいなかった、藤巻幸夫『自分ブランドで勝負しろ!』(オーエス出版社)を読み返した。

この『自分ブランドで勝負しろ!』という本は、まずこのタイトルといい、ページのところに藤巻幸夫のシルエットをあしらったアイコンがついているところなど、明らかにトム・ピーターズの『ブランド人になれ!』をなぞった形跡がある。

文体まで似ているし、本の構成まで似ているのだ。トム・ピーターズの『ブランド人になれ!』を知っている人なら、以下のようなこの本の冒頭を読めば、それが「わかる」はずだ。

<世の中全体が混沌とし、不安を感じる人も増えている。
これほどの変革期に遭遇したことを、喜ぶべきなのか、嘆くべきなのか?
正直なところ、私もこの先、自分がどこで何をしているのかは予測がつかない。
だが言ってしまおう。

私はワクワクしている!

さらに言えば、あなたにも「チャンスが訪れている!」と、声を大にして言いたい!>
(第1章「個性が勝負だ!」冒頭より)

トム・ピーターズ『ブランド人になれ!』のスタイルを拝借しようと決めたのは、この本の編集者なのか、それとも藤巻幸夫自身なのか、それはわからない。

いずれにせよ、この本の関係者がトム・ピーターズ『ブランド人になれ!』を知らないことはありえない、と断言してもいい。それほど似ているのだ。

しかし驚くべきことに、通常なら「マネ」「パクリ」で終わってしまうところを、この本はトム・ピーターズ『ブランド人になれ!』のスタイルと勢いはそのままに、まぎれもなく藤巻幸夫のオリジナルな哲学とノウハウが詰まった、見事な本になっているのだ。

トム・ピーターズ『ブランド人になれ!』は、「あなたの究極の1冊は?」と問われれば間違いなくその候補にはなるくらい、私の大好きな本だ。その本をここまで露骨にマネした本など、普通ならまず認める気にならないが、この本は認めざるをえない。これはすごい本だ。

藤巻幸夫は、伊勢丹での「解放区」や「BPQC」などの仕掛人として、最近では福助の再建を任された経営者として知られ、少なくともファッション関係者なら知らぬ者のないくらい有名な存在だろう。テレビなどのメディアにもよく出てくる。

それくらい、実際のビジネスでも成果をあげている藤巻幸夫が、こんなに素晴らしい本を書いたというのは驚くべきことだ。その意味では、名調子ではあるが結局のところ「コンサルタント」であり、つまり「名調子のプロ」であるトム・ピーターズの書く本よりも、説得力があるとも言える。

ではコンサルタントではなく、経営者自身が本を書けば説得力があるかというと、そうでもない。経営者が本を書くパターンは、GEのウェルチや日産のカルロス・ゴーンなどをはじめもちろん珍しくないが、伝記的なストーリーやケーススタディ、あるいは精神論的なものが多く、すぐに明日から使える現場的な「ノウハウ」が、すぐ使えるかたちでまとまっているようなものは、あまり多くない気がする。

それ以前に、大体においてビジネス本というのは堅苦しかったり、しみったれたものが多く、あまり元気が出るものではない。私はどちらかというとポップな本、ファンキーな本、おもしろい本が好きなので、ビジネス書では断然、トム・ピーターズのようなスタイルが好きなのだ(もちろん、徹底的にマジメな本でいいものもたくさんある)。

しかし、トム・ピーターズのような楽しいビジネス書を書ける人はあまりいない。なぜなら、ふつうビジネス書を書くのはコンサルタントやアナリスト、経営者など、要するに学者やビジネスパーソンだが、トム・ピーターズはむしろ「エンターテイナー」だからだ。

藤巻幸夫もまた、トム・ピーターズのような「エンターテイナー」なのである。この『自分ブランドで勝負しろ!』という本では、何よりも「楽しい」「面白い」ことが最重要で、「!」マークが毎行のように連発している。

それでいて、金儲け本などにありがちな空っぽな内容ではなく、どこを開いても藤巻幸夫自身の経験に裏打ちされた、実際的なノウハウが満載なのだ。

要点がうまいフレーズにまとめられ、それを見出しにつけるという小刻みな構成も、『ブランド人になれ!』からうまく取り入れたところだろう。見出しをいくつか抜き出してみると、

<その手で「空気」をつくり出せ!>
<会社に「借り」ばかり作ってはいないか?>
<つまらない仕事に酔いしれろ!>
<「自分のことば」を鍛えてきたか>
<毎日はエンターテインメント>
<ミスマッチの世界を駆け抜けろ!>
<仲間とノリでビジネスをするな>
<周りにストーリーを浸透させろ!>
<周りが手放せない人になっているか?>
<我以外みな我が師なり>
<カッコいい大人であれ!>

などなど。

この見出しを見ているだけでも楽しく、エッセンスが理解できる。

藤巻幸夫という、実績もあり、メディアにもよく出ている、現役の経営者の本だから、調子のいいことだけ言いっぱなしということも少ないはず。経験に裏打ちされ、かつ責任を引き受けたうえで書いているはずだ(その意味では、ライブドアの堀江社長などもそうだ)。机上の論理で書けてしまうコンサルや学者などとは、言葉の重みが違う。

現役経営者がこれほど見事な本を書き、じっさいに実践しているという意味では、藤巻幸夫はトム・ピーターズを超えたかもしれない。