2008.11.29
タッド・バッジ 「終身雇用は、企業を、従業員をダメにしていく」
ブックオフの100円コーナーで買った、タッド・バッジ『やればできる You can do it』(2004年 徳間書店)という本を拾い読みしている。タッド・バッジ氏は東京スター銀行の頭取で、日本初の外国人頭取として知られる。

徳間書店 - やればできる You can do it 日本初・外国人頭取の銀行改革
http://www.tokuma.jp/book/tokumabooks/1176093964962



ソフトな語り口のビジネス・エッセイだが、日本のダメなところをビシビシ斬っていく感じのスタンスが気持ちいい。外国人の有能なビジネスパーソンらしく、思考や信念に「軸」みたいなものが感じられて、そこが日本人の一般的なビジネス・エッセイと違う印象を受ける。

第4章「日本企業へ、日本のビジネスパーソンへ」にある、「終身雇用は、企業を、従業員をダメにしていく」という節から引用してみよう。

<終身雇用によって、従業員は雇用に関して安心することができます。その結果、企業に忠誠心を持ち、それがいい仕事につながり、結果を生む。そして企業は成長していく。終身雇用のプラスの発想とはこういうものでしょう。しかしマイナスの発想はどうでしょうか。終身雇用であるために、従業員は会社を退職しづらくなります。年功序列や退職金制度と合わせ、多くの終身雇用企業では、企業に長くいればいるほど有利な制度があるからです。それなのに、会社を途中で辞めて別の会社に移ることは、ものすごく難しい判断になるでしょう。年功序列の恩恵も受けられないし、退職金も減ってしまう。その結果、会社を退職するという選択肢はなくなってしまうわけです。つまり、会社に対してどんな思いを持っていたとしても、従業員は辞められない、辞めにくいような状態になってしまうのです。
 そうなれば従業員は、担当する仕事をやりたくなくても、所属する企業を気に入らなくても、とりあえず仕事をしていればいい、というようなことになりかねません。今の会社はベストではないけれど、退職金もあるし、仕方ないからここにいよう。義務感で仕事をすればいい、というようなことになりかねないのです。このようなマインドセットでは仕事人としての成長もありません。結果として、他社では通用しないような人材が育っていってしまいます。もし万が一、人材マーケットに放り出されたとき、そうした人材を雇ってくれる会社はまずないでしょう。
 一方で企業側は、優秀な人材でも終身雇用なら簡単に転職してしまうようなことはありません。だから、働く環境のロイヤリティの整備に取り組むことなど、必要なくなります。市場原理が働いていないからです。だから、働く環境をより魅力的にするための努力を、それほどしなくても良かったわけです。こうした状況をもたらす可能性のある終身雇用は、本当にいい仕組みなのか、私にはやはり疑問なのです>。

この部分の少しあとにある、「大切なのは雇用を守ることではない。従業員に成長する機会を与えること」という節もいい。

<万が一、雇用を守るということを従業員にも宣言していた会社が、予想もしないような事態から倒産してしまったなら、従業員はどうなってしまうでしょうか。また、雇用を守ることを第一義にしてしまったために、会社がつぶれてしまったらどうでしょうか。もちろん中には、身に付けたスキルで転職ができる人もいるかもしれない。しかし、転職しないことを前提に仕事をしていた人たちの中には、世の中に通用するスキルがないために、路頭に迷うような事態が起きるかもしれないのです。
 大切なことは、従業員自身のリスクを考えることです。雇用を守り、キャリアを判断するのは、自分自身でなければなりません。会社に雇用を守ることや、キャリアの管理を任せることは、とても危険なことです。会社は永遠の存在ではないからです。万が一の場合に、従業員は対処できないからです。また、会社が必ずしも従業員の幸せを第一に考えているとは限らないからです。キャリアは、自分で責任を持って管理する必要があります。そして会社が行うべき本来の役割とは、そうした自立した従業員のキャリアづくりやスキルアップを、支援していくことだと私は思うのです>。

この本は大体こんな調子で、ほとんどどこを読んでも納得できる感じだ。日本でこういう考え方が「あたりまえ」になる日を、私も待ち望んでいる。


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