2008.12.27
ITは「理系」なのか?
ITは一般に「理系」と見なされていると思うが、私はこれはちょっと違うような気がしている。

私は理系だったが、初めてコンピュータを買ったのは27歳のときで、それまではコンピュータと無縁の人間だった。大学のときもコンピュータの授業があったが、まったく理解できず、興味も持てなかったので、課題なども友達のものをただ写して、意味もわからず提出していた。

いまはほぼ誰でもネットを見ているし、昔よりもPCが一般に普及しているので、その結果として、理系でPCが苦手な人というのは少なくなっていると思う。しかし、理系だからコンピュータが得意、という因果関係はやはり成立しないような気がする。

IT業界の中にいる人はわかると思うが、一般的にIT業界で求められるスキル・専門性は、理系的な論理性というよりも、「ものをつくる」のに必要な職人性だ。理系的な論理性というのは、少ない原理から多くのものをロジカルなステップによって導出したり、反対に多くのものを貫く法則を見つけるといったことだと思うが、ITに求められるのは、とにかくたくさんの知識・道具の使い方を理屈抜きでアタマに叩き込んで、必要なときにそれを取り出せる、というような能力だ。イメージ的には、理系の研究者というよりも、はるかに「情報の土建業」に近い。

そして、「たくさんの知識・道具の使い方を理屈抜きでアタマに叩き込んで、必要なときにそれを取り出せる」という能力は、まさに「語学」の能力だ。語学では、文法などでは多少の論理性はあるものの、ほとんどは単語・イディオム・慣用表現を理屈抜きにアタマに叩き込む、つまり「覚える」「慣れる」というのが学習の中心だ。これによって、「読む」「聴く」というインプットがまずできるようになり、さらに練習を積めば、「書く」「話す」というアウトプットもできるようになる。

ITの能力とは、この語学的な能力と、土建屋のような「ものづくり」の職人性が合体したような、そんな能力ではないだろうか。語学の能力というのは、人文的な能力で、その意味では文系だ。土建屋や職人が持つ能力は、理系・文系といった学問分類とは別のところにある、現場的な「ものづくり」の能力、アーティスティックな能力だろう。

とはいえ、アルゴリズムやデータ構造など、ITには数学的・論理的なところも多分にあり、理系的な部分はやはりそれなりにある。しかし、一般に思われているほどそういう部分は大きくなく、むしろ語学力や職人性みたいなスキルのほうが多く求められるように思う。

あるいはむしろ、語学力や職人性といったものも別に必須ではなく、あたらしいことを学ぶことが好きで、かつ「ITで何かをやりたい」という目的意識やモチベーションがあれば、どんどんITの世界に入っていけると思う。

もっと言えば、「ITはおもしろい」と感じることができれば、それだけで十分だ。どんな世界でもそうだと思うが、何かに興味を持ち、それをとことん好きになれるのなら、そのこと自体が才能なのであって、一種の「天分」なんだと思う。


関連エントリ:
IT業界がいいのは、つねに勉強せざるをえないこと
http://mojix.org/2008/07/27/it_gyokai_advantage

Update(2008.12.29):
本エントリを補足する「ITエンジニアにコンピュータ・サイエンスは必須か」を書きました。