2009.10.13
信号や標識を撤去すると、逆に安全になる?ハンス・モンデルマンの「Shared Space(共有空間)」
街の信号や標識を撤去して、逆に安全を向上させる「Shared Space(共有空間)」という考え方を最近知った。

企業開発センター・交通問題研究室: 交通ニュース - 交通規制を撤廃して、逆に安全な街づくりを目指す──ドイツの自治体が「Shared Space」に着手
http://www.kigyo-kc.co.jp/modules/news/article.php?storyid=159

<ドイツ西部の町のボームテ(bohmte)では、このたび交通事故防止のための最良策として、「Shared Space(共有空間)」と呼ばれる考え方を導入し、町の中心街の信号・標識をすべて取り払いました。歩行者が歩きやすい環境を実現し、交通の安全性を高めるため、としています。
 「共有空間」は、オランダの交通専門家ハンス・モンデルマン氏が考案した思想で、「信号や標識がないほうが人々が慎重になり、危険を回避しようとする心理が働き、交通行動も改善される」というもので、欧州連合(EU)の支持も得てドイツ・オランダ・英国などでプロジェクトを立ち上げています。Shared Space運動の本部によると、すでにいくつかの自治体で始められ、オランダでは事故件数が着実に減少している自治体もあるそうです。
 交通量や人口密度などに違いがあり一概には比較できませんが、日本の場合、事故が起こると信号・標識が増える傾向にあり、正反対の考え方といえます。
 なお、ボームテの人口は1万4000人弱、中心街は1日当たり車両1万3500台の交通量があります>。



※写真はドイツWolfachという町での「Shared Space」の実施例(上が実施前、下が実施後)。センターライン・道路標示などもなくなり、すべて歩道のようなデザインに

Guardian - Hans Monderman : A radical Dutch traffic engineer, he redefined the thinking behind road safety
http://www.guardian.co.uk/news/2008/feb/02/mainsection.obituaries

<Throughout most of the 20th century, engineers and planners had assumed that efficient traffic flows and road safety could be achieved only by separating vehicles from civic spaces. Monderman demonstrated that vehicles could be integrated into the social fabric of communities by treating drivers as intelligent citizens. This raised important questions about the role of the state and regulation, and its effect on social behaviour and collective responsibility. Not surprisingly, his work caused discomfort among governments, but the ideas gained credence among local communities, which benefited from fewer accidents and traffic delays as well as much greater quality of space.>

(大意:20世紀の大部分を通じて、交通工学と都市計画の専門家は、効率的な交通の流れと道路の安全を達成するには、クルマを市民空間から分離するしかないと考えてきた。モンデルマンは、クルマの運転者を知的な市民として扱うことで、地域の社会的な網の目にクルマを統合できることを示した。このことは、国と規制の役割は何か、またそれが社会的なふるまいや集団的な責任にどんな影響を与えるかについて、大きな疑問を呼び起こした。このモンデルマンの成果が、役所を不快にしたのは驚くべきことではない。しかしそのアイディアは、地域住民のあいだでは信頼を勝ち得た。実際に事故と交通遅延が減り、空間の質をはるかに向上できたからだ。)

歩行者の多い街の中心部で、かつ交通量がそれほど多くないところであれば、この考え方はたしかに有効な気がする。

これからは電気自動車も普及し、「クルマ」というものが大きく変わっていきそうなので、「交通」も大きく変わっていくだろう。カーシェアリング、バイクシェアリング(レンタサイクル)なども増えてくるだろうし、世界各地で路面電車(トラム)が復権している動向も見逃せない。そういう「交通の変化」の背景には、単に技術の発展だけでなく、この「Shared Space(共有空間)」のような「アイディアの発展」もあるのだろう。

歩行者・自転車・クルマはどう共存すべきなのか、またそれは暮らしの快適さや街の発展とどういう関係にあるのか、といったテーマは、個人的に漠然とした興味はあったが、それほど調べたりしたことはなかった。「Shared Space(共有空間)」のような面白い考え方があるのなら、交通工学や都市計画といった分野も面白そうな気がしてきた。


関連:
ウィキペディア - 共有空間
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%B1..
Wikipedia - Hans Monderman
http://en.wikipedia.org/wiki/Hans_Monderman
YouTube - Shared Space newsflash
http://www.youtube.com/watch?v=ThaQjDLLJWA
YouTube - Introduction to Shared Space (1 of 2)
http://www.youtube.com/watch?v=RLfasxqhBNU

関連エントリ:
世界の都市にひろがる自転車シェアリング(レンタサイクル)
http://mojix.org/2009/07/07/bicycle_sharing
地下を走る無人の自動物流
http://mojix.org/2009/06/27/underground_auto_butsuryuu
クルマの未来は「ロボットカー」にある
http://mojix.org/2008/12/03/robot_car