2009.06.27
地下を走る無人の自動物流
以前「クルマの未来は「ロボットカー」にある」というエントリで、こんなことを書いた。

<自動運転ももちろん面白そうだし、いろいろな応用がありそうだが(例:パケットビークル)、私が特に興味を持っているのは、単に自動運転というのではなく、助手席や後部座席にも一切人間が乗っていないパターンだ。つまり、荷物などの運送専門のロボットカーだ>。

<いまの自動車は必ず人間が運転するので、1人でたくさんの自動車を保有したり、扱うということに限界がある。また人間が運転するということから、物理的な大きさや安全性の面で強い制約があり、これによって製造コストや保有コストがはねあがっている>。

<自動車が「無人化」し、完全に人間と切り離されれば、これらの限界・制約がなくなる。小さく、安くなった「自動車」であれば、1人で10台、 100台くらい買うことも容易になるし、物流業などのビジネスであれば、数万台、数十万台くらいのオーダーで買うのも普通になるかもしれない>。

<いま道路を走っているクルマのうち、運送を目的としたトラックなどは、この無人自動車に切り替えられるだろう。もし現状でクルマ全体の半分くらいが物流なのだとすれば、道路全体の半分くらいを無人自動車の専用道路にすれば、さらに効率が上がりそうだ。無人自動車の専用道路では、信号などにコンピュータを埋め込んで、無人自動車に対して場所を通知したり、突発的なイベントに対応した停止命令などを無線で送れるようにする>。

<こういうインフラを作っていくのはもちろんたいへんだが、今後100年くらいのスパンで考えれば、多かれ少なかれこういう方向に進んでいくものと思う。人間の数はそれほど変わらないが、それに対して無人自動車など広義の「ロボット」の数は爆発的に増えていくだろう(広義の「コンピュータ」の数は、さらにその累乗くらいのペースで増える)。無人自動車やロボットのための「専用道路」という発想は、いまやそれほど荒唐無稽とは思えない>。

これを書いた時点では、私は「自動車」を中心に考えていたのだが、いま読み返すと、このアイディアの核心部分は「専用道路」のほうにあると思える。

「無人の自動物流」のために、「専用道路」を作ってしまう。すると、そこには人間が乗った自動車などは走っておらず、すべて「ロボットカー」なので、きわめて制御しやすくなる。

「専用道路」であれば、その路面に細工したりもできるので、むしろ「ロボットカー」自体もほとんど不要になるかもしれない。荷物はすべて、小さいコンテナみたいに規格化されたものに入れて、それを摩擦の少ない路面ですべらせるようにすれば、エネルギーの損失も少なく、小さい動力で荷物を動かせる。イメージとしては、工場の生産ラインなどにも近い。

現実的には、「専用道路」を地上に作るのはむずかしそうだし、地上である必然性も特になさそうなので、おそらく地下を走らせるほうがいい。「地下を走る無人の自動物流」だ。

駅の近くにでも、その「地下を走る無人の自動物流」への出入口を作って、そこから荷物の出し入れをする。荷物には送り主と宛先の情報が電子的につけられて、いったん自動物流に入ってしまえば、そのときに最適な経路を自動的に辿って、宛先の駅に到着する。まさに、インターネットにおけるパケットのルーティングと同じだ。

インターネットによって、「情報」は瞬時に動かせるようになった。その次の段階として、さほど大きくない「物体」を、インターネットと同じような仕組みで動かそう、というのがこのアイディアだと言える。

もしこれをやれば、無人のロボットカー(あるいは無人の電車?)や、インテリジェントな交通システムなど、いずれ必要になる新しい技術を先取りできる。そして「物体」を無人・自動で運べるようになれば、人間がそれを動かす必要がなくなり、人間のムダな移動を減らせる。

いまの道路から、物流を担うかなりの部分のトラックなどを減らすことができ、人間のムダな移動の分の自動車なども減る。「物体」を動かすことが容易になれば、「出勤」も減って、電車の混雑なども緩和されるかもしれない。

日本、特に東京は、この「地下を走る無人の自動物流」をやるのに、おそらく世界で最も有利なポジションにいる。比較的狭いところに人間や会社が密集していて、すでに地下にはたくさん電車が走っており、必要になる技術の点でもおそらく世界トップレベルだろう。

人間の数はさほど変わらないが、ロボットはいくらでも増やせる。ロボットにできることを、わざわざ人間がやるのはもったいない。自動化できる部分は、徹底的に自動化したほうがいい。

純粋にソフトウェア的な部分では、日本は欧米に大きく水をあけられているが、ロボットやクルマ、交通などが絡んでくれば、これは日本の強いところだろう。技術だけでなく、狭いところをうまく使うという「空間活用」も、日本は強い。

このように考えると、「地下を走る無人の自動物流」は、ぜひ日本が先んじて切りひらくべき、新しいインフラだという気がするのだ。


関連エントリ:
無人技術の可能性
http://mojix.org/2008/12/28/unmanned_tech
クルマの未来は「ロボットカー」にある
http://mojix.org/2008/12/03/robot_car