2008.12.03
クルマの未来は「ロボットカー」にある
米ビッグ3(GM、フォード、クライスラー)が政府からの融資を取り付けるために、経営再建計画を出し始めた。

asahi.com - フォードCEO年俸1ドルに 専用ジェット5機売却(2008年12月3日1時3分)
http://www.asahi.com/business/update/1203/TKY200812020381.html

<米自動車大手フォード・モーターは2日、人件費の削減や次世代車への大規模投資を柱とする経営再建計画を米議会に提出し、緊急融資枠の中から最大90億ドル(約8400億円)のつなぎ融資を要請した。批判が強かった専用ジェット機の保有や役員への高額報酬を見直す方針も打ち出したが、新たな人員削減は明示せず、米政府による資金支援に対する議会の支持を取り付けることができるかどうかは不透明だ>。

asahi.com - GM、最大180億ドルの資金支援要請 米議会に(2008年12月3日6時44分)
http://www.asahi.com/international/update/1203/TKY200812030002.html

<米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)は2日、人件費や債務の削減などを柱にした経営再建計画を議会に提出した、と発表した。資金繰り難の解消に向けて、最大180億ドル(約1兆6700億円)の資金支援を要請することも明らかにした。
 計画では、リチャード・ワゴナー最高経営責任者(CEO)の年間給与を1ドルに引き下げるなど役員や幹部の人件費を削減する。工場労働者の労務費の削減を労組と協議し、2012年までにトヨタ自動車と競争できる水準まで引き下げる。傘下ブランドのサーブやサターンなどの売却を検討することも示唆した>。

以前「米政府はビッグ3を救済すべきでない」でも書いた通り、米国政府はビッグ3を支援すべきでないと私は考えている。

GMは人件費を<トヨタ自動車と競争できる水準まで引き下げる>とのことだが、仮に人件費がトヨタ並みに下がったとしても、技術水準や生産効率などさまざまな点で、もうトヨタには到底追いつけないだろう。

しかしそのトヨタでさえ、この不況下では苦戦を強いられている。ビッグ3のほうがより苦しいことは間違いないが、五十歩百歩かもしれない。

私は自動車産業というもの自体、このままでは未来がないと考えている。電気自動車などの次世代技術はもちろん重要だし、もう実用化も見え始めているようだが、多少エコになるくらいで、これまでの自動車と基本的には変わらないように思える。もっと「ビジネスモデル」のレベルで、抜本的な転換が必要ではないだろうか。

もし私が自動車の会社を経営する立場だったら、無人で走る「ロボットカー」の事業を推進してみたい。

ウィキペディア - ロボットカー
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD..

<ロボットカーとは、無人で運用される自動車である。英語では UGV(Unmanned Ground Vehicle)と表記される>。

この解説によると、ロボットカーは「自動運転」「運転手が不要」という文脈で用いられるのが一般的なようだ。

自動運転ももちろん面白そうだし、いろいろな応用がありそうだが(例:パケットビークル)、私が特に興味を持っているのは、単に自動運転というのではなく、助手席や後部座席にも一切人間が乗っていないパターンだ。つまり、荷物などの運送専門のロボットカーだ。

いまの自動車は必ず人間が運転するので、1人でたくさんの自動車を保有したり、扱うということに限界がある。また人間が運転するということから、物理的な大きさや安全性の面で強い制約があり、これによって製造コストや保有コストがはねあがっている。

自動車が「無人化」し、完全に人間と切り離されれば、これらの限界・制約がなくなる。小さく、安くなった「自動車」であれば、1人で10台、100台くらい買うことも容易になるし、物流業などのビジネスであれば、数万台、数十万台くらいのオーダーで買うのも普通になるかもしれない。

いま道路を走っているクルマのうち、運送を目的としたトラックなどは、この無人自動車に切り替えられるだろう。もし現状でクルマ全体の半分くらいが物流なのだとすれば、道路全体の半分くらいを無人自動車の専用道路にすれば、さらに効率が上がりそうだ。無人自動車の専用道路では、信号などにコンピュータを埋め込んで、無人自動車に対して場所を通知したり、突発的なイベントに対応した停止命令などを無線で送れるようにする。

こういうインフラを作っていくのはもちろんたいへんだが、今後100年くらいのスパンで考えれば、多かれ少なかれこういう方向に進んでいくものと思う。人間の数はそれほど変わらないが、それに対して無人自動車など広義の「ロボット」の数は爆発的に増えていくだろう(広義の「コンピュータ」の数は、さらにその累乗くらいのペースで増える)。無人自動車やロボットのための「専用道路」という発想は、いまやそれほど荒唐無稽とは思えない。

自動車に関しては、クルマ産業の未来という観点だけでなく、宇沢弘文自動車の社会的費用』(岩波新書、1974年)などで指摘されているような、市場に内部化されていない「社会的費用」(危険性、環境負荷など)の観点からも考える必要がある。上記のようなロボットカー路線であれば、クルマ産業も新しい活路を見出せると同時に、自動車事故も大きく減るのではないか。

いまの日本は、トヨタをはじめとする自動車産業が国の経済を支えており、マスメディアの最大スポンサーにもなっているので、自動車産業に対して不利益な議論は出にくくなっているはずだ。しかし、日本や人類全体を長きにわたって持続・発展させるという長期的な観点に立てば、あらゆるタブーを排して議論し、アイディアを出して、どうやれば発展を持続できるのか、そのなかで自動車産業の役割は何なのかを考えていくべきだと思う。


関連:
ロボットカー
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD..
高度道路交通システム
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AB%98..

関連エントリ:
自動操縦もできるオープンソースの小型無人ヘリコプター「Vicacopter」
http://mojix.org/2008/07/03/vicacopter