米政府はビッグ3を救済すべきでない
asahi.com - ビッグ3、国にすがる 公的資金、生き残りへ頼みの綱(2008年11月9日3時3分)
http://www.asahi.com/business/update/1109/TKY200811080178.html
<「我々は破綻(はたん)を避けるために、すべての資金調達手段を利用する」
米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)のリチャード・ワゴナー会長兼最高経営責任者(CEO)は7日、7~9月期決算発表後の電話会見でこう話し、政府による資金支援に期待を寄せた。
すでにニューヨーク株式市場では、5四半期連続の赤字決算が発表された直後からGMの株価が急落を始めていた。日々の事業の資金繰りに必要な手元資金が急減し、「来年前半にも手元資金が不足する可能性がある」とGM自身が認める非常事態だ。
ワゴナー会長も、政府に「資金支援を求めている」ことを隠そうともしない。危機の打開策とみられた米同業大手クライスラーとの合併交渉を中断し、政府による「救済」が生き残りへの頼みの綱であることを印象づけた>。
<GMとフォード・モーター、クライスラーの米大手3社「ビッグ3」は今夏以降、米政府・議会への資金支援の働きかけを強めてきた。今秋成立した総額250億ドル(約2兆4600億円)の政府保証融資の活用は具体化してきたが、ブッシュ政権は融資増額や公的資金の注入などには消極的とされる。
ただ、ビッグ3の拠点である中西部が地盤のオバマ氏が次期大統領の座を射止めたことが、自動車業界には「追い風」となる。労組を支持基盤とする民主党政権の誕生を視野に、ワゴナー会長らビッグ3と全米自動車労組(UAW)の各トップは6日、民主党のペロシ下院議長らを訪れた。「支援増額の感触を得て、7日の決算発表を行ったのではないか」。米アナリストらの間ではこんな観測も出ている>。
<なぜ自動車を助けるのか。道路建設など関連業種も幅広く含めた自動車関連産業は、全米の労働人口の「5人に1人」にも上るとされてきた。GMやフォードは今も、売上高では米企業の上位10社内にいる。国民皆保険制度がない米国で、ビッグ3は現役から退職者にまで医療費や年金を手厚く保証してきた。雇用と地域経済を支える「最後のとりで」で、その破綻を食い止めるために地元議員も救済策の実行を目指して奔走する>。
<だが、ビッグ3の救済をめぐって、世論は一枚岩ではない。米国の自動車業界は産業の多様化とともに米経済での存在感は徐々に小さくなり、すでに国内総生産(GDP)に占める割合は3%。「金融機関と違って世界的な連鎖倒産の危険がない自動車会社を政府が救済するのは良くない」。ニューヨーク大のリチャード・シーラ教授は救済に反対する。経営危機をあえて公表し、労働者を人質にとって政府に支援を迫るようなビッグ3の姿に、他業界からの際限ない追随を懸念する声も根強い>。
米政府はビッグ3も救済するのだろうか。
ベア・スターンズやAIGが救済されたのは、信用で成り立っている「金融」というシステムそのものの危機(いわゆる「システミック・リスク」)が生じていたからだ。その後の資本注入などもすべてこの線上にあり、金融システムへの「信用」を取り戻すためのものだった。
これに対してGM、フォード、クライスラーのビッグ3は自動車の会社であり、いくら規模が大きいといっても、金融ではなく普通の事業会社だ。ここでビッグ3の救済という話が出ているのは、ビッグ3が潰れると金融システムが揺らぐからではなく、会社の規模が大きいので、実体経済や雇用に与える影響が大きいからだ。
しかし、規模が大きいからといって税金で救済していてはキリがない。自動車以外にも大きい会社はいくらでもあるし、中小の会社はそれ以上にある。いまはどの会社だって苦しいのだから、貴重な税金をビッグ3の救済に使ってしまっていいはずがない。もし救ったら、「ウチも救ってくれ」という救済要請が殺到し(すでに殺到しているのだろう)、モラルハザードが起きる。財政もさらに悪くなり、ドルもますます下がるだろう。ビッグ3を救ったために、アメリカという国が潰れかねない。
いま問題になってきているのは、もう金融危機というよりも、不景気対策・失業者対策のレベルだろう。だとすれば、税金はビッグ3の救済に使うのではなく、セーフティネットの充実や失業者の再雇用支援、雇用創出などに使うべきだ。
ビッグ3は事業会社だから、クルマが売れないなら、そのぶん事業規模を縮小せざるをえないし、人員も減らさざるをえない。それが市場というものだ。そのとき職を失う人が大量に発生するならば、それはその会社が悪いのではなく、経済状況が一般的に生み出す失業問題であって、政府が解決すべき行政的課題だ。
関連エントリ:
リーマンを救済しなかった米政府の判断は正しい
http://mojix.org/2008/09/16/lehman_us_judgement
セーフティネットは会社の外に置き、「身分制度」をなくせ
http://mojix.org/2008/06/14/break_employment_hierarchy
http://www.asahi.com/business/update/1109/TKY200811080178.html
<「我々は破綻(はたん)を避けるために、すべての資金調達手段を利用する」
米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)のリチャード・ワゴナー会長兼最高経営責任者(CEO)は7日、7~9月期決算発表後の電話会見でこう話し、政府による資金支援に期待を寄せた。
すでにニューヨーク株式市場では、5四半期連続の赤字決算が発表された直後からGMの株価が急落を始めていた。日々の事業の資金繰りに必要な手元資金が急減し、「来年前半にも手元資金が不足する可能性がある」とGM自身が認める非常事態だ。
ワゴナー会長も、政府に「資金支援を求めている」ことを隠そうともしない。危機の打開策とみられた米同業大手クライスラーとの合併交渉を中断し、政府による「救済」が生き残りへの頼みの綱であることを印象づけた>。
<GMとフォード・モーター、クライスラーの米大手3社「ビッグ3」は今夏以降、米政府・議会への資金支援の働きかけを強めてきた。今秋成立した総額250億ドル(約2兆4600億円)の政府保証融資の活用は具体化してきたが、ブッシュ政権は融資増額や公的資金の注入などには消極的とされる。
ただ、ビッグ3の拠点である中西部が地盤のオバマ氏が次期大統領の座を射止めたことが、自動車業界には「追い風」となる。労組を支持基盤とする民主党政権の誕生を視野に、ワゴナー会長らビッグ3と全米自動車労組(UAW)の各トップは6日、民主党のペロシ下院議長らを訪れた。「支援増額の感触を得て、7日の決算発表を行ったのではないか」。米アナリストらの間ではこんな観測も出ている>。
<なぜ自動車を助けるのか。道路建設など関連業種も幅広く含めた自動車関連産業は、全米の労働人口の「5人に1人」にも上るとされてきた。GMやフォードは今も、売上高では米企業の上位10社内にいる。国民皆保険制度がない米国で、ビッグ3は現役から退職者にまで医療費や年金を手厚く保証してきた。雇用と地域経済を支える「最後のとりで」で、その破綻を食い止めるために地元議員も救済策の実行を目指して奔走する>。
<だが、ビッグ3の救済をめぐって、世論は一枚岩ではない。米国の自動車業界は産業の多様化とともに米経済での存在感は徐々に小さくなり、すでに国内総生産(GDP)に占める割合は3%。「金融機関と違って世界的な連鎖倒産の危険がない自動車会社を政府が救済するのは良くない」。ニューヨーク大のリチャード・シーラ教授は救済に反対する。経営危機をあえて公表し、労働者を人質にとって政府に支援を迫るようなビッグ3の姿に、他業界からの際限ない追随を懸念する声も根強い>。
米政府はビッグ3も救済するのだろうか。
ベア・スターンズやAIGが救済されたのは、信用で成り立っている「金融」というシステムそのものの危機(いわゆる「システミック・リスク」)が生じていたからだ。その後の資本注入などもすべてこの線上にあり、金融システムへの「信用」を取り戻すためのものだった。
これに対してGM、フォード、クライスラーのビッグ3は自動車の会社であり、いくら規模が大きいといっても、金融ではなく普通の事業会社だ。ここでビッグ3の救済という話が出ているのは、ビッグ3が潰れると金融システムが揺らぐからではなく、会社の規模が大きいので、実体経済や雇用に与える影響が大きいからだ。
しかし、規模が大きいからといって税金で救済していてはキリがない。自動車以外にも大きい会社はいくらでもあるし、中小の会社はそれ以上にある。いまはどの会社だって苦しいのだから、貴重な税金をビッグ3の救済に使ってしまっていいはずがない。もし救ったら、「ウチも救ってくれ」という救済要請が殺到し(すでに殺到しているのだろう)、モラルハザードが起きる。財政もさらに悪くなり、ドルもますます下がるだろう。ビッグ3を救ったために、アメリカという国が潰れかねない。
いま問題になってきているのは、もう金融危機というよりも、不景気対策・失業者対策のレベルだろう。だとすれば、税金はビッグ3の救済に使うのではなく、セーフティネットの充実や失業者の再雇用支援、雇用創出などに使うべきだ。
ビッグ3は事業会社だから、クルマが売れないなら、そのぶん事業規模を縮小せざるをえないし、人員も減らさざるをえない。それが市場というものだ。そのとき職を失う人が大量に発生するならば、それはその会社が悪いのではなく、経済状況が一般的に生み出す失業問題であって、政府が解決すべき行政的課題だ。
関連エントリ:
リーマンを救済しなかった米政府の判断は正しい
http://mojix.org/2008/09/16/lehman_us_judgement
セーフティネットは会社の外に置き、「身分制度」をなくせ
http://mojix.org/2008/06/14/break_employment_hierarchy