2010.07.20
田原総一朗「日本に本当はタブーなんてないんだ。新聞社の中に、テレビ局の中にタブーがある」
BLOGOS編集部 - 田原総一朗氏「民主党を負かしたのはマスコミ」(2010年07月16日19時30分)
http://news.livedoor.com/article/detail/4881712/

<経済学者の池田信夫氏がゲストに田原総一朗氏を迎え、7月15日にUstreamで生中継された対談。『メディアと政治』をテーマに、先日行なわれたばかりの参議院選挙の総括、日本のマスメディアが抱える構造的な問題、メディアではタブーとされてきた差別用語について、両氏が鋭く語り合った。テレビや新聞では、絶対に語られない真実が次々と放たれた対談の模様をお送りする>。

池田信夫氏が聞き手で、ゲストに田原総一朗氏を迎えたかたちの対談。7月15日にUstreamで生中継されたものを、すべて文字起こししたものらしい。

全部で13ページの長い記事だが、マスコミでは読めない本音トークが炸裂していて、まさに必読の面白さだ。

対談から、田原氏の発言を中心に、いくつか抜き出してみよう。

<田原:新聞やテレビがナンセンスだと思うのは、「派遣がどうした」、「非正社員がどうした」とわめいているけれど、自分たちは正社員で給料も高いんですよ。彼らは銀行員の給料が高くて、しかも非公開だと糾弾している。でも、言っているお前等のほうが給料は高いし、非公開じゃないかと>。

<田原:それにしても、菅さんはあまりにも安易に言ってしまった。最近の新聞報道が本当にひどかった。名前は言わないけれど、ある大新聞が、「民主党は財務省と癒着していて、財務省に動かされた」と報じています。財務省は税金取りたいから、菅首相は彼らに乗せられて消費税アップを言ってしまったと。つまり、政と官の癒着があったという訳です。事実は違うんですよ。僕は財務省の局長クラスと、今日も会ったけれど、菅さんは選挙が始ってから、財務官僚にまったく会っていない。だから彼に言ったの。「あんたが親切に教えていれば、菅さんはあんな馬鹿なことは言わなかった」って。菅さんは結局、大阪大学のある教授の言うと通りにやっていましたね>。

<田原:日本に本当はタブーなんてないんだ。新聞社の中に、テレビ局の中にタブーがある>。

<田原:だから政治家はマスコミに弱いんですよ。マスコミもそういった所に圧力をかけているから、自主規制が凄い。具体的に言うと、小沢(一郎)さんのお金の問題がありました。検察は不起訴とした。あの時にサンデープロジェクト……まぁ、こんな事をやるからサンデープロジェクトは終った訳だけど(笑)。(中略)検察中心の宗像(紀夫)弁護士と、小沢さん寄りの郷原(信郎)弁護士が出ることになった。ちなみに郷原さんがテレビに出たのは、あらゆる番組でサンプロだけだったんですよ。(中略)どこも出さない。サンプロに出てもらった時も、局の上層部は「絶対に出すな」と言い張った。(中略)郷原さんを出すと、検察が睨んで来るからです。小沢さんの問題では、新聞社も検察からリークされていた。小沢さんの悪口を新聞もテレビも書き立てた。その時、必ず『関係者によれば』としていました。ある新聞の記者に「この“関係者”っておかしいんじゃない? 名前を書くのは難しくても、検察関係者でしょ。なんで検察関係者って書けないの?」と聞くと、書いたら出入り禁止になるからだって。それを書くのがマスコミじゃないかと。でも、彼らは一切書かない>。

<池田:日本全体が、これは郷原さんもおっしゃってましたけれど、コンプライアンスという名前で、事なかれ主義になってしまっているんでしょうね>。

<田原:僕にもクレームがいっぱい来るんですよ。「威張っている」、「政治家をなんだと思ってる」、「自分を何様だと思ってるんだ」とか……。以前はクレームが来ると、「これは田原が悪い」、「こっちはクレームの方がおかしい」という選別をしていた。でも、コンプライアンス部ができてからは、数で決めるようになった。良いも悪いもなくて、クレームが来るのは良くないことになってしまった。今はどのテレビ局もそうだと思う。そうすると、当たり障りのないことしか言えないんですよ>。

<田原:日曜日には各局が開票特番を放送しました。一番視聴率が高かったのはテレビ東京の池上さんの番組だった。僕が見てもやっぱり面白い。開票特番ってつまらないでしょう? 言っちゃ悪いけれど。(中略)衆議院はいいけれど、参議院はつまらない。それは、候補者の名前が分からないから。「どこそこの誰々が当選しました、万歳~」とやっても、つまらない。でも池上さんはそれをやらなかった。日教組とは何なのか? 労働組合とは何なのか? そういう事をやっていた。すごく分かりやすく。だから、僕も見てしまいました>。

<田原:僕の友人が、ベンチャーを育てる会社を作ったけれど、上手くいかなかった。それはなぜか? 日本にはベンチャーがないから。なぜいないか? それはホリエモンを逮捕したからでしょう。ホリエモンの逮捕って、あれは何だったか知っています? 旧体制が新体制をやっつけようとしたんですよ。ホリエモンや村上(世彰)が、金を稼いでいた。こいつらが勢力を持ったら大変だと。孫(正義)や三木谷(浩史)はプロ野球のチームを持ったのに、ホリエモンだけが持てなかった。「あいつはネクタイもしない」と。三木谷や孫さんは、老人にゴマをするのが上手いんだ。ほりえもんはゴマをすらない、けしからんと。あんな奴がのさばって来たら、財界の旧体制がやられてしまう。だからホリエモンをやっつけようとした。ホリエモンをやっつけたのはいいけれど、日本からはベンチャーもなくなってしまった。ベンチャーのない国が発展する訳ない>。

こんな感じで、池田氏が聞き手に回りながら、田原氏がガンガン本音トークをしている。田原氏は、以前の佐々木俊尚氏との「聖域なき対談」もすごく面白かったし、「ネット向き」だと思う。

田原氏はこの対談で、「日本に本当はタブーなんてないんだ。新聞社の中に、テレビ局の中にタブーがある」と語っている。新聞社やテレビなどのマスコミには、政府やスポンサーに不利益なことは書きにくいという経営的・商業的な要請があり、そのバイアスが極端になったものが「タブー」である。

ネットにはそのような「タブー」がない。これはネットの言論がいまのところ、「手弁当」に支えられたボランタリーなものであり、経営的・商業的な圧力から比較的自由だからだろう。「タブー」がないのは明らかに強みだが、「手弁当」の持ち出しには限界があることも確かだ。

田原氏は対談の最後のほうで、<今、twitterやBlogと、いろいろな物がありますね。でもウェブは、これが商売にならない。(中略)これが商売にならないと、プロが登場しない>と語っている。「タブー」のないネット的な対談の最後で、ネットをどうやって商売として成立させるかという話題が出てくるのは、何か象徴的な気がする。つまり、いまのネットに「タブー」がないのは、「商売として成立していない」ことの裏返しである、と言える部分がありそうに思う。

これからのネットは、単にマスコミを反復することはおそらくないにしても、商業化が強まってくる過程で、「マスコミの後を追う」ような部分は少なからず出てくるだろう。

ネットがマスコミの過ちを繰り返さないためには、単にマスコミを否定するのではなく、マスコミがなぜいまのようになっているかを知っている「インサイダー」から学ぶことが重要だろう。田原総一朗氏や池田信夫氏、佐々木俊尚氏などの話が面白いのは、「タブー」を恐れないネット的なスタンスを持ちながら、マスコミの内側を知り抜いている人たちだからだろう。


関連エントリ:
田原総一朗、佐々木俊尚の強烈な対談「なぜ新聞社はツイッターを恐れるのか」
http://mojix.org/2010/04/17/tahara_sasaki_taidan
マスコミに対するブログの強み
http://mojix.org/2009/01/13/blog_strength