2010.10.03
カネ余りで融資先がない銀行と、空室に困っている大家は似ている
以前にも紹介した異色の不動産ブログ「早期返済不動産投資」で、地銀(地方銀行)に繰り上げ返済したときのエピソードが紹介されている。

早期返済不動産投資 - 繰り上げ返済
http://blog.livedoor.jp/fudousan11ne/archives/1101986.html

<事務所に戻り地銀に繰り上げ返済予告の電話をしました。すると融資課の人が出て月内は勘弁して欲しいと懇願されました。10月1日に返済することを予告しました>。

<翌日です。仕事中に私の融資取り引き担当の行員から直接電話がかかってきました。とにかく金利はいくらでも良いからずっと借りていて欲しいの一点張りです。
「デフレの時代金利が例えゼロでも実質的な金利は高いので直ぐに返済したい」というと、
「貯金で持っていても実質的な金利が高くなるので同じでしょう」と反論させられ、他の高い利回りの金融商品を勧められる始末です>。

<仕事中でしたが20分位話したでしょうか。私にとっては1時間以上に感じました。
銀行にとっては変動で借りている場合、繰り上げ返済が建前上自由ですが本音ではして欲しくないようです>。

<銀行は手元に使いどころのない余剰資金で溢れかえっているのだと思います。融資のできる優良な借り手先を必死になって探しているのが現実でしょう。
先日資産家の方が話していました。地銀から都市銀へ借り替したら地銀の行員が左遷させられてそうです。また相続信託を調査依頼し直前になって契約破棄したところと都市銀の行員が左遷させられたとか>。

銀行にカネが余りまくっており、融資先がなくて困っているという話はよく聞くが、こういう具体的なエピソードを読むと、いまの状況をいっそうよく理解できる気がする。

銀行はカネを貸すことが商売であり、いわば「カネのレンタル料」で儲けるというビジネスだ。よって、カネをどれくらい貸しているかという融資額が、そのまま利益に直結してくる。

繰り上げ返済というのは、銀行の側から見れば「契約の終了」であり、利子(銀行から見れば利息=「カネのレンタル料」)がもう得られない、ということを意味する。銀行にカネの「在庫」が足りないときや、貸出先が危なくて貸し倒れリスクがあるような場合ならば、返済してもらうことにも意味がある。しかしカネが余っていて、かつ貸出先も心配ないのであれば、早く返してもらっても全然うれしくないわけだ。

<賃貸で大家としてどんな借り手をお望みですか?
年収が十分にあって保証人が確りしていて人柄が信頼できそうな人でしょうか?
空室に困っていて借り手を必死に探しますが、この不況下借り手は属性の低い借り手が多いです。滞納リスクがあります。
もし危なそうな方に貸しても、2年間遅れることなく家賃を支払った実績があれば大家側は喜んで更新をお願いすることでしょう>。

<銀行の借り手に対する心理は大家の借り手に対する心理と共通だと思います>。

大家も銀行も「貸し出しビジネス」なので、貸し出している量が多ければ多いほど利益になり、逆に「在庫」が多くなると、利益がなくなってくる。特に大家の場合は、物件購入時に銀行から大抵借り入れしているので、空室が多くなってくると、キャッシュフローがマイナスになりかねない。

しかし、いくらたくさん貸し出したいと言っても、誰にでもホイホイ貸すわけにはいかないのが「貸し出しビジネス」の宿命である。貸しても、返してもらえなければ「貸し倒れ」になってしまうので、借り手の返済能力を見極めた上で、返せそうな相手にのみ貸す必要がある。

よって、大家も銀行も、すでに実績のある借り手であれば、比較的安心して貸せるわけだ。「在庫」が余っており、良質な借り手が減ってきている現状では、なおさらだろう。

ちなみに、こういう状況では、日本では借り手の側を保護する規制を作りがちである(借地借家法亀井前大臣の「モラトリアム」など)。「弱者」たる借り手を保護するコストを、「強者」たる貸し手の側に押しつけて、「強者に泣いてもらう」わけだ。これは日本ではよくあるパターンで、解雇規制もまったく同じ構造だが、これだと「強者」の側がリスクを嫌って取引しなくなったり、取引相手をいっそう強く選別するようになるので、むしろ「弱者」はいっそう苦しくなる。これを「強者」のモラルのせいにするのは筋違いであり、むしろ「強者」が取引したくなるような制度設計をおこなうべきなのだ。それによって経済が発展し、結局は「弱者」もその恩恵を受ける。


関連エントリ:
「スラムアパート」の実態を伝える異色の不動産ブログ「早期返済不動産投資」
http://mojix.org/2010/06/19/slum_apartment
なぜリフレ政策より構造改革が重要なのか 日本に足りないのはカネではなく成長力や投資機会である
http://mojix.org/2010/04/08/kouzou_kaikaku
日本の賃貸住宅ではなぜ保証人を要求されるのか 「保護」がむしろ「弱者」を生む日本の構造
http://mojix.org/2009/04/02/chintai_hoshounin