橘玲「ベーシックインカムは奴隷制である」
橘玲公式サイト - ベーシックインカムはどうですか?
http://www.tachibana-akira.com/2010/10/910
『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』などの著作で知られ、リバタリアンでもある橘玲(たちばな・あきら)氏が、ベーシックインカム(BI)をどう思うかという読者からの質問に対して、「ベーシックインカムは奴隷制である」という見解を述べている。
<彼らは一見、自立しているように見えますが、国家がBIをやめてしまえばマイホームを取り上げられたり、子どもを退学させたりしなければならないのですから、その影響は甚大です。給付の継続のためなら国家のどんな要求でも受け入れたとしても、なんの不思議もありません>。
<仮になんらかの方法で財源の問題が解決し、順風満帆でBIがスタートできたとします。しかし、将来の経済状況を予測することは不可能ですから、なんからの要因(世界同時不況とか)によって制度の維持が難しくなることもあるでしょう。
そのとき、愛国者で理想主義者の政治家が日本国の実権を握ったとします。彼はきっと、こういうでしょう。
「国民の生活を守るのは国家の義務だ。そして国民は、当然のことならがら、国家に奉仕する義務を負っている。だから今後、BIは国家に忠誠を誓う国民にのみ給付することにする」
これはまさしく、ハイエクのいう「隷属への道」そのものです。
理想主義者の唱えるベーシックインカムは、人類史上最悪の奴隷社会を生み出すことになるでしょう>。
ベーシックインカムは、リバタリアンでも支持する人が少なくないが、橘氏は否定的な立場のようだ。しかしその否定の理由は、これを読めばわかるように、よくある意見とはだいぶ違う。
ベーシックインカムに対するよくある否定論は、「財源がない」「働かなくてもお金がもらえるなんて認められない」といったものだろう。しかし橘氏の場合は、財源不足やモラルを根拠にしているのではない。
橘氏が懸念しているのは、ベーシックインカムを導入すれば、それに対する国民の依存が深まり、それなしには生きられなくなって、これが国家への「隷属」を強める、というものだ。この見方は、やはりリバタリアン的である。
ベーシックインカムは一見すると温情的で、個人の自由を拡大するようにも思えるが、そのカネを出すのは国家である。これに依存してしまうと、個人が自立して生きる力がなくなってしまい、国家に「隷属」するしかなくなる、というのが橘氏の見方だろう。これは一理あると思う。
これはちょうど、先日の「弱者を甘やかす」話にも通じる。人間は何かに依存すると、それなしでは生きられなくなり、それの「奴隷」になってしまうところがある。
「保護」はシステムを弱体化させ、自立する力を失わせる。保護や援助が必要な場合はもちろんあるが、保護や援助に依存し、それなしでは持続できないシステムは、サステイナブル(持続可能)ではない。
ちなみに私自身は、「小さな政府」の観点からはベーシックインカムや「負の所得税」に賛同するのだが(社会保障をそこに集約して、ムダをなくせるので)、それによる「インセンティブの変質」という影響もやはり相当に大きく、それもあわせると、どちらかといえば懐疑的だ。
これについては以前、「ベーシックインカムの課題と、課題でないもの」で書いたことがあるが、今回の橘氏のエントリを読んでも、あらためてこう思った。
<ベーシックインカムというのは、その労働という複雑なものと、国や社会が弱者を救済するセーフティネットというやはり複雑なテーマが重なったものだ。これをどう捉えるかという見方には、その人が持っている人間観・社会観・国家観などが強く反映されるだろう。つまり、ベーシックインカムについて議論することは、ベーシックインカムそのものを考えるだけでなく、人間・社会・国家について議論することになる>。
このような意味で、ベーシックインカムそのものはやや空想的なテーマではあるが、これについて語ることで、その人の「見方」、政治観や国家観、労働観などがよくあらわれるという効果がある。現実の政治的なトピックに比べると「空想的」であるがゆえに、理念や思想そのものが純粋なかたちで出てきやすいのだろう。
関連:
ウィキペディア - ベーシックインカム
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%99..
関連エントリ:
「弱者を甘やかす」ことと、「弱者を成長させる」ことは違う
http://mojix.org/2010/10/28/amayakasu-seichou
ベーシックインカムの課題と、課題でないもの
http://mojix.org/2010/07/09/basic-income-kadai
「保護」はシステムを弱体化させ、自立する力を失わせる
http://mojix.org/2009/05/07/hogo_jakutaika
マンガでわかるハイエク『隷属への道』
http://mojix.org/2008/10/22/serfdom_manga
http://www.tachibana-akira.com/2010/10/910
『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』などの著作で知られ、リバタリアンでもある橘玲(たちばな・あきら)氏が、ベーシックインカム(BI)をどう思うかという読者からの質問に対して、「ベーシックインカムは奴隷制である」という見解を述べている。
<彼らは一見、自立しているように見えますが、国家がBIをやめてしまえばマイホームを取り上げられたり、子どもを退学させたりしなければならないのですから、その影響は甚大です。給付の継続のためなら国家のどんな要求でも受け入れたとしても、なんの不思議もありません>。
<仮になんらかの方法で財源の問題が解決し、順風満帆でBIがスタートできたとします。しかし、将来の経済状況を予測することは不可能ですから、なんからの要因(世界同時不況とか)によって制度の維持が難しくなることもあるでしょう。
そのとき、愛国者で理想主義者の政治家が日本国の実権を握ったとします。彼はきっと、こういうでしょう。
「国民の生活を守るのは国家の義務だ。そして国民は、当然のことならがら、国家に奉仕する義務を負っている。だから今後、BIは国家に忠誠を誓う国民にのみ給付することにする」
これはまさしく、ハイエクのいう「隷属への道」そのものです。
理想主義者の唱えるベーシックインカムは、人類史上最悪の奴隷社会を生み出すことになるでしょう>。
ベーシックインカムは、リバタリアンでも支持する人が少なくないが、橘氏は否定的な立場のようだ。しかしその否定の理由は、これを読めばわかるように、よくある意見とはだいぶ違う。
ベーシックインカムに対するよくある否定論は、「財源がない」「働かなくてもお金がもらえるなんて認められない」といったものだろう。しかし橘氏の場合は、財源不足やモラルを根拠にしているのではない。
橘氏が懸念しているのは、ベーシックインカムを導入すれば、それに対する国民の依存が深まり、それなしには生きられなくなって、これが国家への「隷属」を強める、というものだ。この見方は、やはりリバタリアン的である。
ベーシックインカムは一見すると温情的で、個人の自由を拡大するようにも思えるが、そのカネを出すのは国家である。これに依存してしまうと、個人が自立して生きる力がなくなってしまい、国家に「隷属」するしかなくなる、というのが橘氏の見方だろう。これは一理あると思う。
これはちょうど、先日の「弱者を甘やかす」話にも通じる。人間は何かに依存すると、それなしでは生きられなくなり、それの「奴隷」になってしまうところがある。
「保護」はシステムを弱体化させ、自立する力を失わせる。保護や援助が必要な場合はもちろんあるが、保護や援助に依存し、それなしでは持続できないシステムは、サステイナブル(持続可能)ではない。
ちなみに私自身は、「小さな政府」の観点からはベーシックインカムや「負の所得税」に賛同するのだが(社会保障をそこに集約して、ムダをなくせるので)、それによる「インセンティブの変質」という影響もやはり相当に大きく、それもあわせると、どちらかといえば懐疑的だ。
これについては以前、「ベーシックインカムの課題と、課題でないもの」で書いたことがあるが、今回の橘氏のエントリを読んでも、あらためてこう思った。
<ベーシックインカムというのは、その労働という複雑なものと、国や社会が弱者を救済するセーフティネットというやはり複雑なテーマが重なったものだ。これをどう捉えるかという見方には、その人が持っている人間観・社会観・国家観などが強く反映されるだろう。つまり、ベーシックインカムについて議論することは、ベーシックインカムそのものを考えるだけでなく、人間・社会・国家について議論することになる>。
このような意味で、ベーシックインカムそのものはやや空想的なテーマではあるが、これについて語ることで、その人の「見方」、政治観や国家観、労働観などがよくあらわれるという効果がある。現実の政治的なトピックに比べると「空想的」であるがゆえに、理念や思想そのものが純粋なかたちで出てきやすいのだろう。
関連:
ウィキペディア - ベーシックインカム
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%99..
関連エントリ:
「弱者を甘やかす」ことと、「弱者を成長させる」ことは違う
http://mojix.org/2010/10/28/amayakasu-seichou
ベーシックインカムの課題と、課題でないもの
http://mojix.org/2010/07/09/basic-income-kadai
「保護」はシステムを弱体化させ、自立する力を失わせる
http://mojix.org/2009/05/07/hogo_jakutaika
マンガでわかるハイエク『隷属への道』
http://mojix.org/2008/10/22/serfdom_manga