2010.11.10
農業が重要だからこそ、保護すべきでない
農業を保護すべしという立場の人は、農業の重要性を訴える。農業がまったく重要でないと思う人はあまりいないだろうから、この主張にはそれなりに心を動かされるだろう。「たしかに農業は重要だから、多少の保護は仕方がないか」と考えてしまうわけだ。

しかし、「農業は重要だから保護すべし」というロジック自体、そもそもおかしいのである。

農業が重要なのであれば、なおのこと、保護すべきでない。政府が特定の産業を保護すれば、その産業は「自分で稼ぐ」競争力を失い、むしろ衰退するのだ。

日本の農業が重要であり、必要とされているのであれば、それは必ず商売になる。政府があれこれ規制したり、価格統制などしなくても、それは市場原理によって適正な価格になるのだ。価値あるものであれば、必ず欲しがる人がいて、それなりの値段がつく。

最近ではネット通販なども普及し、消費者が生産者から直接買うという販路も増えている。政府や農協などが介入しなくても、ちゃんと商売が成立しているのだ。地元の生産者が野菜などを直接持ち込む即売会・マーケットのようなものも各地に増えていて、大盛況だと聞く。

農業に限らないが、政府が「国民はこういうものだ」と勝手に決めつけて、あれこれ規制しているために、市場がその本来の力を発揮できていない。消費者も生産者もきわめて多様であり、消費者が何を欲しがるか、生産者が何を作り出すかは、政府の想像をはるかに超えたものだ。

農業の話は大体、「農業」のところを「弱者」とか、「子供」などに置きかえても成り立つ。「「弱者を甘やかす」ことと、「弱者を成長させる」ことは違う」というエントリを先日書いたが、この「弱者」を「農業」に置きかえて、「「農業を甘やかす」ことと、「農業を成長させる」ことは違う」としても、ほぼ成り立ちそうに思う。

「弱者」や「子供」は、もちろん「保護」すべき場合もあるが、際限なく「保護」すればいいというものではない。「保護」をやりすぎると「過保護」になり、適応力や競争力を失ってしまう。「保護」したつもりが、ダメにしてしまうのだ。

日本の農業は、明らかに「過保護」であるように見える。この認識を強く持って、「農業は重要だから保護すべし」というロジックを拒絶することが、いま必要なことだと思う。


関連エントリ:
「弱者を甘やかす」ことと、「弱者を成長させる」ことは違う
http://mojix.org/2010/10/28/amayakasu-seichou
リチャード・カッツ「反成長的な慣行を社会的なセーフティネットと所得配分政策に置き換えよ」
http://mojix.org/2010/01/13/hanseichou_safetynet
市場とは「自分の欲しいものにしかカネを出さない人の集まり」である
http://mojix.org/2009/11/25/what_is_market