2009.11.25
市場とは「自分の欲しいものにしかカネを出さない人の集まり」である
市場とは、「自分の欲しいものにしかカネを出さない人の集まり」である。お情けでカネを恵んでくれる人などどこにもいない。

この「自分の欲しいものにしかカネを出さない」という「真剣勝負」が、市場の本質である。スポーツの試合と同様、それが「真剣勝負」だからこそ、みんなが欲しがるもの、必要としているものは何かを考え、いい商品やサービスを作ろうと努力する。そこから富や価値が生まれてくるのだ。

この「真剣勝負」は、「弱者救済」とは相容れないものだ。スポーツの試合で、相手に譲っていたら試合にならないのと同じだ。市場は「真剣勝負」の場であり、「自分の欲しいものにしかカネを出さない」というシビアな態度こそが「公正(フェア)」なのであって、それが富や価値を生み出す。

社会を成立させる上で「弱者救済」はもちろん必要だが、それは市場という「真剣勝負」の場にはそぐわない。市場の外でやるべきなのだ。

いまの日本の問題は、市場という「真剣勝負」がまるでワルモノ扱いされてしまっていることだ。市場の役割は富や価値を生み出すことで、それと弱者救済は切り離すべきなのに、市場の中で弱者救済をやろうとして、市場の役割を弱めてしまっているのだ。

子供の運動会で順位をつけるのは問題だとして、「お手々つないでいっしょにゴール」をやっているところがある、と聞いたことがある。市場という「真剣勝負」の場に弱者救済を持ち込むのは、まさに「お手々つないでいっしょにゴール」のようなものだ。

「お手々つないでいっしょにゴール」とは、「結果の平等」を制度的に強制することだ。こうして「みんないっしょ」を強制すれば、成長の機会が失われ、成長のインセンティブもなくなるので、「平等」のレベルがどんどん下がっていく。「お手々つないでいっしょに地獄行き」だ。

「機会の平等」こそが真の平等であり、それが「公正(フェア)」という言葉の意味だ。スポーツの試合では「真剣勝負」によって勝敗が決まるが、「公正(フェア)」というのはルールに基づいてプレイすること、審判のジャッジが公平であることを指し、勝敗が決まること自体は、不公正(アンフェア)でもなんでもない。むしろ、勝つために互いに真剣に努力するからこそ、鍛えられるし、いいプレイが出てくる。

日本の貧困問題は、市場という「真剣勝負」の場があまりにも過酷で、弱者が実力差によって底辺に追いやられているのが原因だと考えられがちだが、まったく反対である。政府の強い規制によって、市場が「真剣勝負」の場になっておらず、弱者救済や公共の利益をタテマエに、実際は既得権益の温床になってしまっており、実力差によらない「身分制度」が出来上がってしまっているのが原因だ。公共の利益どころか、公共の利益を失わせている既得権益がきわめて多い。

日本経済が沈みつづけているのは、この「身分制度」が、もっと働こうという「真剣勝負」のインセンティブを喪失させるからだ。「身分」が上の者は、マジメに働かなくても待遇がいいので、努力しなくなる。「身分」が下の者は、マジメに働いても待遇がよくならないので、努力しなくなる。スポーツの試合でいえば、ルールや審判が最初から不公平で、いつも「身分」の高いほうに勝たせるようなものだ。「身分」が上の者も下の者もバカらしくて努力しなくなるので、富や価値を生み出す人がいなくなる。

日本の問題は、市場経済の競争が「行き過ぎている」ことだという意見をよく見かけるが、まったく反対であって、日本は市場経済の競争が「不足している」のだ。

市場経済の競争が「行き過ぎている」と主張する論者は、では市場経済の競争を減らして、もっと政府があれこれ指図する統制経済が望ましいと考えているのだろうか。私の見るところ、市場経済の競争が「行き過ぎている」と主張する論者は多くの場合、弱者を思いやる気持ちでは正しいが、弱者救済を市場メカニズムの中に求めている点が間違っている。「小泉・竹中路線が日本をダメにした」といった俗論もほとんどこれであって、いまの鳩山政権に典型的なように、市場経済に対する無知・無策に基づいた、空想的な理想主義に過ぎない。

私が見るところ、日本経済の問題を生み出している「構造」とは、次のようなものだ。

1)既得権益を「持つ者」だけを守り、「持たざる者」を守らない「身分制度」
2)この不公正(アンフェア)な「身分制度」が、働くインセンティブを喪失させ、希望を失わせる
3)よって富や価値、イノベーションが生まれてこないので、経済が沈んでいく
4)政府はこれを「構造」問題ではなく「不況」と見なし、目先のバラマキや産業育成を続ける
5)財政はますます悪化し、税金も高くなり、国民はますます苦しくなっていく

この悪循環を断つには、政府に1)と4)をやめさせるしかない。4)のバラマキやムダ使いも問題だが、規制によって市場そのものを制約している1)が最大の問題なのだ。これをやめさせるのが「規制緩和」である。

規制緩和で1)を解消し、日本の潜在的な成長力が解放されれば、4)のバラマキやムダ使いをやってもお釣りが来るくらいだと思う。日本はもう成長力がないというわけではなく、単に政治がダメなだけなのだ。政治がダメなために、成長の可能性を摘んでしまっている。


関連エントリ:
成長戦略とは「規制緩和」と「減税」のことである
http://mojix.org/2009/11/22/seichou_senryaku
「必要とされている仕事」と「必要とされていない仕事」
http://mojix.org/2009/11/21/hitsuyou_sigoto
日本の問題は「市場の失敗」でなく「政府の失敗」
http://mojix.org/2009/08/29/nihon_no_mondai