2009.04.04
解雇規制、職業の「身分制度」、「与信」の関係
きのうの「職業の「身分制度」が支える日本の「与信」」に対し、はてなブックマークで、tokoroten999さんより以下のコメントがあった。

<解雇できやすくしても与信制度は別になくならないでしょ。両者になんの関係が?>

たしかに、少し説明不足だったと思うので、補足したい。

もし解雇規制がなくなり、会社は社員をいつでも解雇できるようになったら、職業の「身分制度」は崩壊するだろう。

「身分制度」というのは、実力や努力でなく「身分」で決まるような社会だ。身分が高ければ、実力もなく、努力しなくても安泰で、逆に身分が低ければ、実力があり、努力しても報われない。それが「身分制度」だ。解雇規制というのは、前者のような人であっても解雇できないという仕組みだ。会社は前者のような人を解雇できないので、後者のような人を雇い入れる余裕がない。つまり、解雇規制が「身分制度」を支えているのだ。

この解雇規制がなくなれば、会社は「お荷物社員」を解雇できるようになる。こうなれば、「実力もなく、努力しない」ような人は間違いなくお荷物社員だから、真っ先に解雇されるだろう。すると会社は雇う余裕ができて、「実力もあり、努力する」ような人を採用できる。もちろん、その社員も入社してから変わってしまう可能性はあり、お荷物社員になれば解雇される。

解雇されることがないのなら、公務員や大企業にいれば「安泰」だろうが、つねに解雇される可能性があるのであれば、もう「安泰」ではない。「身分制度」というのは、いわば「安泰の序列」だから、「安泰」がなくなって、どこに行っても実力や努力、結果で評価される公正(フェア)な社会になれば、「身分制度」はなくなったも同然だ。

「身分制度」がなくなれば、そこに依拠していた「与信」も崩れる。現在、公務員や大企業の社員が高い「格付け」を得られるのは、倒産のリスクがゼロまたは低くて、そこを解雇されないという前提があるからだ。それが、つねに解雇されるリスクがあるということになれば、もはや高い「格付け」を与えるわけにはいかなくなるだろう。

それは困る、住宅ローンが組めなくなるではないか、と思う人がいるかもしれない。しかし、現時点で「身分制度」の下層にいる人たちは、住宅ローンが組めないどころか、派遣切りにあって、賃貸住宅も借りれず、ホームレス目前だったりするわけだ。「身分制度」によって、どうやってもマトモな仕事にありつけず、住むところを確保するのもたいへんな状況だ。

この格差が、公正(フェア)な競争によるものであればまだ仕方がないが、解雇規制に支えられた「身分制度」によるものである以上、とうてい公正(フェア)とは言えない。

賃貸の保証人問題や、住宅ローンといった日本の「与信」は、この公正(フェア)ではない「身分制度」に依拠してきた。これにより、身分の高い者は、その実体以上に高い「格付け」が与えられ、逆に身分の低い者は、その実体より低い「格付け」が与えられてきたのだ。

解雇規制が「身分制度」を支え、そこに「与信」が乗っかっているという構造は、どこかサブプライム問題を思わせるものがある。もし解雇規制をなくせば、「身分制度」が吹っ飛び、これまでの「与信」も吹っ飛んで、「不良債権」が生じるだろう。だから、「身分制度」の恩恵を受けている側の人間は、絶対に解雇規制をなくしたくないはずだ。

しかし、何ごともタダでは手に入らないのだ。身分の高い者が「過大評価」されている分を、身分の低い者が「過小評価」というかたちで払わされている。職業における「身分の差」が、それに依拠する「与信」という仕組みによってさらに拡大され、住宅も含めた生活全般にわたり、真の「格差」を生み出しているのだ。

私は、公正(フェア)な競争の結果として生じる、勝敗としての「格差」は問題ないと思うが、公正(フェア)でない仕組みによって維持・強化されている「格差」には、断固反対する。解雇規制が生み出す職業の「身分制度」、そこに乗っかった「与信」というのは、どう見ても公正(フェア)ではない。そのうえ、これは公正(フェア)かどうかという次元をはるかに超えて、日本の産業構造も硬直化させ、経済成長の足をも引っぱっている。全体に不利益を生じさせているのだ。

公正(フェア)ではなく、全体に不利益を生じさせているものを、守りつづける理由はないはずだ。解雇規制をなくせば、「身分制度」や「与信」をはじめ、そこに依拠していた「日本の古い構造」がほとんど吹っ飛ぶだろう。多少の「不良債権」処理などは必要になるだろうが、それくらいラディカルな「構造改革」の先にしか、「あたらしい日本」は見えてこないと思う。

日本がいまよりも自由で公正(フェア)な国になれば、日本は必ず再生できる。


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