2010.11.09
解雇規制は雇用を減らしている
解雇規制の議論では、解雇規制が雇用を「減らす」ということが理解できていない人がたくさんいる。解雇規制に賛成する人、つまり解雇規制の緩和・撤廃論に反対する人の多くが、そのような人だろう。

解雇規制に賛成する人の多くは、解雇規制があるから雇用は維持されていて、解雇規制をなくすと雇用が「減る」と思っているようだ。つまり、解雇を規制しているから雇用は維持されているが、解雇を自由にすれば、どんどんクビになって、雇用が「減る」と思っている。そもそも、この理解が間違っているのだ。

解雇規制は雇用コストなのだから、それは雇用を「減らす」のであって、「増やす」ことはない。つまり、解雇規制をなくせば雇用コストは下がり、雇用は「増える」のであって、「減る」のではない。解雇規制をなくせば、解雇はたしかに増えるだろうが、それ以上に採用が増えるので、トータルの雇用は「増える」のだ。

つまり、解雇規制に賛成する人の多くは、解雇規制をなくすと「解雇が増える」という面ばかり見ていて、「採用が増える」という面が見えていないのだ。だから、解雇規制という雇用コストが「採用を減らす」ことも理解できず、解雇を規制すれば雇用が維持される、と考えてしまうわけだ。

この話は、別に経済学をちゃんと学ばなくても、自分が人を雇う立場になって考えてみれば、わりとすぐに理解できる話だと思うのだが、どうだろうか。「いったん雇ったら解雇できない」という制約(コスト)があれば、その制約がないときよりも、雇う人の量は減る。だから、その制約(コスト)をなくせば、雇う人の量が増える。この話は、そんなにむずかしいだろうか?

解雇規制に賛成か反対かの議論以前に、そもそもこの前提が共有されていないのだ。私のような解雇規制の緩和・撤廃論者は、この理屈は全員理解していて、それが前提である。緩和・撤廃論に反対する人、解雇規制を支持する人は、まず「解雇規制は雇用を減らしている」という前提を支持するのかしないのか、そこを明示してほしい。この前提自体を支持できないという人は、そもそも経済学を支持していないのだろうし、自分が人を雇う立場になって考えてみるということも拒絶する人だろう。こういう人の意見はただの感情論であり、まともな議論を妨げるだけだと思う。いっぽう、「解雇規制は雇用を減らしている」という前提を理解していて、そのコストを払っても解雇規制を維持すべきだと考えている人であれば、賛同はできないけれども、議論はできそうに思う。

民間人であれば、「解雇規制は雇用を減らしている」という前提を理解していなくても許されるだろうし、生きていくのに支障はないだろう。しかし少なくとも、これが理解できない人は、立法や司法にかかわってほしくない。立法や司法は国家による「強制システム」であり、それが国民の生活や企業の活動を制約し、国の経済をかたちづくる。「解雇規制は雇用を減らす」という経済学の法則も理解できない人が、国の経済を左右していいはずがない。いま立法や司法にかかわっている人のうち、これが理解できている人はどのくらいいるのだろうか。これが理解できていない人が、法を作ったり、判決をくだしているのだとすれば、恐ろしいことだと思う。

この話は解雇規制に限らず、およそ「規制」というものはすべて、基本的に同じ構造である。規制は「コスト」なのであって、それが市場取引を減らしている。だから、規制を緩和・撤廃すれば、市場取引が増えて、経済が活性化されるのだ。規制に賛成か反対かの議論以前に、まずこの前提が共有され、それが常識になってほしい。


関連エントリ:
誰のための規制か 「コスト」を考えない「正義」は、ほんとうに「正義」と言えるのか
http://mojix.org/2010/11/03/why-regulation
三宅雪子衆議院議員「私は内部留保がある会社が派遣切りをするのが許せません」
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http://mojix.org/2010/03/12/kaiko_yatou
「法学的思考」と「経済学的思考」
http://mojix.org/2009/10/06/hougaku_keizaigaku