あなたが社長なら、解雇された人間を自分の会社に雇いますか?
先日の「日本の問題は、「人の流動性」が低すぎてノウハウが循環しないことにある」に対して、はてなブックマークでこういうコメントがあった。
<あなたが社長なら、解雇された人間を自分の会社に雇いますか? と聞きたい。解雇されっぱなしの一方通行地獄の始まりでは?>(ToMoNyaさん)
もちろん雇う。というか、解雇されたかどうかは関係なくて、欲しいと思う人材だったら雇うだけの話だ。
とはいえ、これは私の考えにすぎない。日本企業一般では、「解雇された人間」を回避するような傾向はおそらくあるだろう。しかしこれは、現状ではまさに解雇規制があるために、企業が採用失敗リスクを最小化しようとして、属性による「統計的差別」をおこなうからだ。新卒偏重も、学歴重視も、女性・中高年・未経験者が不利なのも、すべてここに発している。いわば「解雇規制が差別を生み出している」のだ。
解雇規制のないアメリカでは、1年のあいだに5700万人が職を失い、5100万人が採用されたそうだ。<解雇されっぱなしの一方通行地獄>になっていないどころか、たった1年のあいだに、国民の6人に1人という空前の規模で、約9割の人が次の職を見つけているのだ。労働人口を国民の半分とすれば、なんと3人に1人が、その1年で職場を変えたわけだ。ものすごい「人の流動性」である。失職した1割も、「解雇された人間」だから雇われないのではなくて、単に不況で労働需要がそのぶん減っただけだろう。
解雇されたから無能な人材とは限らない。その会社では評価されなくても、別の会社では才能を発揮する場合もあるだろうし、有能だとしても、会社とソリがあわない場合もあるだろう。
日本の会社の場合、有能な人材に限って、言いたいことをバシバシ言ったり、目立ったりして、むしろ疎(うと)んじられるケースは少なくないと思う。有能な人や積極的な人に限って、足をひっぱられたり、叩かれるというのは、日本ではもはや「見慣れた光景」だろう。
会社なんて、不条理に満ちている。ひとつの会社でうまくいかなかったり、解雇されたとしても、会社を変わったら才能を発揮しはじめる、ということはいくらでもあると思う。
会社と人間にも「相性」がある。上司も経営者も人間だから、「合わない」ことがあるのは当然だし、「ミスマッチ」はつねに起きる。
解雇規制は「人の流動性」を低下させてしまうので、「マッチング」の機会を減らしてしまう。そのため、「ミスマッチ」が起きても解消できない。「やりなおし」ができないのだ。
「イヤでたまらないのに、辞められない」という状況こそ不幸であり、人間というもっとも貴重な「資源」を浪費している。日本で自殺者が多いのも、これが大きな原因ではないかと私は見ている。「逃げられない」からだ。
<解雇されっぱなしの一方通行地獄>とあるが、人を減らす一方では会社は回らない。それに解雇規制がなくなったら、採用失敗リスクがほとんどなくなるんだから、採用はむしろ増えるのだ。
「解雇規制がなくなったら、みんなリストラされる」という意見は、いつも出てくる。こういうふうにしか考えられない人は、経営側のロジックをわかっていないからだろう。人を減らすだけでは経営にならないのであって、コスト以上に価値を生み出してくれる人材であれば、そもそも手放す理由がなく、むしろいくらでも採用するのだ。大半の人は経営をやったことがないわけだから、経営のロジックが理解されていなくても仕方がないのだが、安易に経営者を叩く人が多すぎて、マスコミまで経営者を叩くので、経営者は口をつぐむしかない。これで経営者からの意見が出てこなくなり、もっと会社に規制で縛りをかけろという意見が優勢になってしまって、状況をさらに悪化させている。
解雇規制がなくなったら、もちろん解雇も起きるのだが、会社にとって正社員を雇うということが「巨大な生涯契約」ではなくなり、定年までずっと給料を払い続けるという「負債」から解放されるので、採用が大きく増えるのだ。慶応大学産業研究所が1999年におこなった調査では、整理解雇が容易になれば、人を「減らす」と答えた企業に対して、人を「増やす」と答えた企業は3倍だという。
経営者を叩いたり、会社にもっと規制をかけろと言う人は、その会社と自分が「市場でつながっている」こと、そのバッシングや規制強化の影響が自分にも及ぶということを理解しているのだろうか。規制を強めれば強めるほど、雇用は減り、会社は海外に逃げたり、事業をたたんだり、潰れたりするし、起業家も出てこなくなる。これでは国の経済は沈む一方であり、いまの日本はまさにこの状況にある。規制は「コスト」なのであり、ほんとうに必要なレベルに抑えなければ、経済を潰してしまう。
「ソロバン」を無視して「正義」ばかり主張する人は、コストを無視して無限の品質やゼロリスクを要求する「モンスター顧客」に似ている。「ソロバン」を欠いた「正義」は、ほんとうの「正義」ではない。ほんとうの「正義」は、そのなかに「ソロバン」を含んでいるはずなのだ。
関連エントリ:
解雇規制が生み出す「巨大な生涯契約」の構造 企業の「負債」、正社員の「債権」
http://mojix.org/2010/03/10/shougai_keiyaku
もし解雇規制がなくなった場合、どのくらい解雇が起きるのか?
http://mojix.org/2009/01/21/donokurai_kaiko
解雇規制という「間違った正義」
http://mojix.org/2009/01/20/kaikokisei_wrong_justice
<あなたが社長なら、解雇された人間を自分の会社に雇いますか? と聞きたい。解雇されっぱなしの一方通行地獄の始まりでは?>(ToMoNyaさん)
もちろん雇う。というか、解雇されたかどうかは関係なくて、欲しいと思う人材だったら雇うだけの話だ。
とはいえ、これは私の考えにすぎない。日本企業一般では、「解雇された人間」を回避するような傾向はおそらくあるだろう。しかしこれは、現状ではまさに解雇規制があるために、企業が採用失敗リスクを最小化しようとして、属性による「統計的差別」をおこなうからだ。新卒偏重も、学歴重視も、女性・中高年・未経験者が不利なのも、すべてここに発している。いわば「解雇規制が差別を生み出している」のだ。
解雇規制のないアメリカでは、1年のあいだに5700万人が職を失い、5100万人が採用されたそうだ。<解雇されっぱなしの一方通行地獄>になっていないどころか、たった1年のあいだに、国民の6人に1人という空前の規模で、約9割の人が次の職を見つけているのだ。労働人口を国民の半分とすれば、なんと3人に1人が、その1年で職場を変えたわけだ。ものすごい「人の流動性」である。失職した1割も、「解雇された人間」だから雇われないのではなくて、単に不況で労働需要がそのぶん減っただけだろう。
解雇されたから無能な人材とは限らない。その会社では評価されなくても、別の会社では才能を発揮する場合もあるだろうし、有能だとしても、会社とソリがあわない場合もあるだろう。
日本の会社の場合、有能な人材に限って、言いたいことをバシバシ言ったり、目立ったりして、むしろ疎(うと)んじられるケースは少なくないと思う。有能な人や積極的な人に限って、足をひっぱられたり、叩かれるというのは、日本ではもはや「見慣れた光景」だろう。
会社なんて、不条理に満ちている。ひとつの会社でうまくいかなかったり、解雇されたとしても、会社を変わったら才能を発揮しはじめる、ということはいくらでもあると思う。
会社と人間にも「相性」がある。上司も経営者も人間だから、「合わない」ことがあるのは当然だし、「ミスマッチ」はつねに起きる。
解雇規制は「人の流動性」を低下させてしまうので、「マッチング」の機会を減らしてしまう。そのため、「ミスマッチ」が起きても解消できない。「やりなおし」ができないのだ。
「イヤでたまらないのに、辞められない」という状況こそ不幸であり、人間というもっとも貴重な「資源」を浪費している。日本で自殺者が多いのも、これが大きな原因ではないかと私は見ている。「逃げられない」からだ。
<解雇されっぱなしの一方通行地獄>とあるが、人を減らす一方では会社は回らない。それに解雇規制がなくなったら、採用失敗リスクがほとんどなくなるんだから、採用はむしろ増えるのだ。
「解雇規制がなくなったら、みんなリストラされる」という意見は、いつも出てくる。こういうふうにしか考えられない人は、経営側のロジックをわかっていないからだろう。人を減らすだけでは経営にならないのであって、コスト以上に価値を生み出してくれる人材であれば、そもそも手放す理由がなく、むしろいくらでも採用するのだ。大半の人は経営をやったことがないわけだから、経営のロジックが理解されていなくても仕方がないのだが、安易に経営者を叩く人が多すぎて、マスコミまで経営者を叩くので、経営者は口をつぐむしかない。これで経営者からの意見が出てこなくなり、もっと会社に規制で縛りをかけろという意見が優勢になってしまって、状況をさらに悪化させている。
解雇規制がなくなったら、もちろん解雇も起きるのだが、会社にとって正社員を雇うということが「巨大な生涯契約」ではなくなり、定年までずっと給料を払い続けるという「負債」から解放されるので、採用が大きく増えるのだ。慶応大学産業研究所が1999年におこなった調査では、整理解雇が容易になれば、人を「減らす」と答えた企業に対して、人を「増やす」と答えた企業は3倍だという。
経営者を叩いたり、会社にもっと規制をかけろと言う人は、その会社と自分が「市場でつながっている」こと、そのバッシングや規制強化の影響が自分にも及ぶということを理解しているのだろうか。規制を強めれば強めるほど、雇用は減り、会社は海外に逃げたり、事業をたたんだり、潰れたりするし、起業家も出てこなくなる。これでは国の経済は沈む一方であり、いまの日本はまさにこの状況にある。規制は「コスト」なのであり、ほんとうに必要なレベルに抑えなければ、経済を潰してしまう。
「ソロバン」を無視して「正義」ばかり主張する人は、コストを無視して無限の品質やゼロリスクを要求する「モンスター顧客」に似ている。「ソロバン」を欠いた「正義」は、ほんとうの「正義」ではない。ほんとうの「正義」は、そのなかに「ソロバン」を含んでいるはずなのだ。
関連エントリ:
解雇規制が生み出す「巨大な生涯契約」の構造 企業の「負債」、正社員の「債権」
http://mojix.org/2010/03/10/shougai_keiyaku
もし解雇規制がなくなった場合、どのくらい解雇が起きるのか?
http://mojix.org/2009/01/21/donokurai_kaiko
解雇規制という「間違った正義」
http://mojix.org/2009/01/20/kaikokisei_wrong_justice