2009.01.21
もし解雇規制がなくなった場合、どのくらい解雇が起きるのか?
きのうの「解雇規制という「間違った正義」」に対して、はてなブックマークでたくさんの反応があった。

はてなブックマーク - 解雇規制という「間違った正義」 - Zopeジャンキー日記
http://b.hatena.ne.jp/entry/http://mojix.org/2009/01/20/kaikokisei_wrong_justice

このテーマについては、私は半年くらい前からときどき書いているが(「雇用」タグでまとめて見れます)、今回はこれまでの反応に比べて、

「解雇規制はたしかに問題だが、その撤廃はセーフティネットの強化とセットでおこなうべき」

という意見が多くなっていると感じた。この認識が広がってきたのは大きな前進だろう。「成長論者と分配論者が合意できる「解」とは?」で書いた通り、このあたりが合意点、「解」だというふうに社会的な認識ができれば、大成功だと思う。

そもそも「解雇規制が問題である」という話自体、現状のマスコミではほとんど出てこない(池田氏が書いている通り)。政治家がこれを口にしたというのも聞いたことがない。マスコミにも政治家にも、この問題の構造がわかっている人も少なからずいるはずだ。しかしそんなことを言えばものすごい反発が起きるのは目に見えているから、これは一種のタブーになっているのだろう。マスコミも政治も「人気商売」だから、共感を呼ぶことが重要であり、反発が起きそうな話題は避けるのだ。

これに対し、いまやブログでは「解雇規制」「雇用流動性」といったキーワードが普通に飛びかうようになっている。賛成・反対の立場はさまざまでも、みんな自分の考えを率直に書いていて、タブーもない。これがブログのいいところだ。

正しい認識がじょじょに広がってきていると感じた一方で、今回も「そんなことをすれば、ごく一部の有能な人以外、みんな切られる」といった反応もあいかわらず多かった。そうではないと今回も書いたつもりなのだが(<会社から見れば、払っている給料以上に貢献してくれている人については、解雇規制がなくなっても、賃下げ・解雇をする理由がまったくない>)(「解雇規制がなくなり、雇用流動性が増すとどうなるのか」等でも書いている)、やはりここの懸念が相当大きいようなので、「もし解雇規制がなくなった場合、どのくらい解雇が起きるのか?」について、ある程度具体的な数字で考えてみたい。

「ごく一部の有能な人以外、みんな切られるのでは」と思っている人は、労働者の大部分が「給料をもらいすぎ」であって、解雇規制がなくなればクビになると考えているのだろうか。

私は、少なくとも民間会社では、「給料をもらいすぎ」な人は全労働者のせいぜい1~2割だと思っている。全労働者のうち、正社員がざっくり6割だとして、そのうち「給料をもらいすぎ」な人は3~4人に1人くらいだろう。正社員でない4割の人は、会社側は無理に雇用しつづける理由がないので、現状で「給料をもらいすぎ」な人はほとんどゼロだ。

けっきょく、全労働者の6割が正社員で、そのうち3~4人に1人が「給料をもらいすぎ」だとすれば、それは全労働者のうち15~20%だ。この人たちにしても、即解雇というわけではなく、減給で十分な場合もあるだろう。例えば半分が減給、半分が解雇だとすれば、解雇対象は全労働者のうち7.5~10%だ。

さらに解雇になった人についても、雇用流動性が上がっているから、現状に比べれば次の職が見つかる可能性が高いだろう。職にわがままをいわなければ、まったく見つからないということは少ないはずだ。

こう考えると、解雇規制を撤廃したとき、失職する人は5%以下だろう。この5%はもちろん無視できるものではないが、解雇規制によって生じている莫大な経済損失・不公正に比べると、はるかに小さい。

では、減給・解雇の対象になる15~20%以外の人、全労働者の80~85%はどうかというと、給料・待遇が上がるのだ。いま非正規雇用の人は、たくさん正社員に登用されるだろうし、いま正社員でキツイ仕事・安月給な人も、もっと待遇が良くなる。仮にいまの会社で待遇が上がらないとしても、もっとマシな待遇の会社に転職しやすくなる。

こうなれば、正規・非正規の雇用格差も減る。正社員で雇用調整ができるので、非正規で採る理由が少なくなるのだ。同じ理由で外注も少なくなり、直接雇用が増える。雇用流動性が上がれば、終身雇用・年功序列・新卒一括採用といった「日本的雇用慣行」も消滅に向かうだろう。新卒をのがしても、いくらでも中途で採用してくれるし、女性・高齢者・未経験者などの正規雇用も大きく増える。解雇しやすければ、採用もしやすいのだ。

ポイントは、「一部の有能な人以外、みんな切られる」のではなく、「有能・無能・凡人に関係なく、給料をもらいすぎな人は減給・解雇になる」ということだ。有能でも給料をもらいすぎな人は減給・解雇になるし、無能でも給料以上に価値を生んでいる人は、むしろ給料が上がる。

現状は、全労働者の15~20%の人を保護するために、80~85%が犠牲になっているという状況だろう。特に、その半数近くを占める非正規雇用の労働者が、待遇の上でも仕事内容の上でも大きな不利益を受け、まともな職務経歴・スキルを作りにくい立場にある。企業も生産性が下がっているので、日本企業は競争力を削がれ、全体のパイ自体も小さくなっている。

なお、以上はあくまでも民間企業だけで考えているが、政府や自治体・公企業などの場合は、根本から話が違ってくる。これについては、そのうちあらためて書きたい。