成長論者と分配論者が合意できる「解」とは?
YamaguchiJiro.com - 新自由主義か社会民主主義か(竹中平蔵氏との対談)
http://www.yamaguchijiro.com/?eid=694
『中央公論』11月号に掲載された、山口二郎氏と竹中平蔵氏の対談。とても面白い。
私は竹中氏の意見にほぼ全面的に賛成だが、山口氏のほうも立場は違いながらも、比較的冷静な議論なので、どのように考えているのかは理解できた気がする。
対談のタイトルは「新自由主義か社会民主主義か」となっているが、より具体的に言えば、対立軸の要点は「成長と分配のどちらを優先するか」ではないだろうか(竹中氏が成長論者、山口氏が分配論者)。成長論者はまず成長を優先し、成長すれば分配の原資も増えると考えるが、分配論者は「雇用を守れ」といったように、まず分配から入る(これはあくまでも、私の捉え方を大雑把に図式化したものに過ぎない)。
対談のなかで、竹中氏はこう言っている。
<地方農政局なんかには何もやらないでぶらぶらしてるような人がゴマンといるんです。たとえばそこを削って仕事のあるところに回す。それが我々の言う改革ですよ>。
この<何もやらないでぶらぶらしてるような人がゴマンといる>といったムダを、成長論者はもちろん許さない。分配論者は、こういう人たちについても「雇用を守る」という立場であるように私には思える。
成長論者と分配論者の対立は、この「ムダな人員をなくす」という論点で表面化しやすい(解雇規制もそう)。成長論者は、全体の生産性という観点から、その人の再配置や職務の変更を要請する。分配論者は、労働者の生活を守るという観点から、この人の雇用維持を要請する。
対談のなかで、山口氏はこう言っている。
<欧州の中道左派勢力も、最近はグローバル化の波に抗うのは無理だという現実を前提に政策を作るんですね。長期安定雇用のモデルは現実的ではないと。そこで「柔軟化」という考え方が出てくるわけですが、そのためにはボトム、すなわち失業給付だとか職業訓練だとかの政策的な支えを整備する必要があるというのが、共通認識になっています。ひるがえって日本はどうか。結局、企業の人件費抑制のために規制緩和がいいように利用されて、メチャクチャな低賃金労働が急速に増えたというのが現実です>。
「ボトム、すなわち失業給付だとか職業訓練だとかの政策的な支え」というのは、まさにセーフティネットだ。「中道左派」というのは、私の上記の分類でいえば「分配論者」だが、欧州ではこの中道左派すら、「グローバル化の波に抗うのは無理」「長期安定雇用のモデルは現実的ではない」のを認めており、このセーフティネットさえあれば、「柔軟化」を認めているという。これはほとんど私の考えと同じであり、「中道左派」もこれくらいの認識なのであれば、話ができそうに思う。
<ひるがえって日本はどうか。結局、企業の人件費抑制のために規制緩和がいいように利用されて、メチャクチャな低賃金労働が急速に増えたというのが現実です>。
「メチャクチャな低賃金労働」が良くないのはその通りだが、これをどう解消するかの方法が問題だろう。
悪質な労働環境を生み出さないように細かく法規制を作ったうえに、役所が監視するコストというのはすごいものがある。そもそも、ほんとうに監視できるのかも疑問だし、企業の一挙一動を役所が見張るというのでは、自由な企業活動が妨げられ、生産性が下がるだろう。そうではなく、悪質な企業からは従業員が「脱出」できるように、セーフティネットを充実させ、雇用流動性を上げたほうがいい。そうすれば、悪質な企業からは人員が自然に流出して、市場原理によってその企業は淘汰されるだろう。
つまり、きちんとしたセーフティネットさえあれば、雇用を流動化させることができ、市場原理を使って全体の生産性を上げることができる。同時に、雇用流動化によって失業しても、比較的短期で再就職しやすくなる。これこそ、成長論者と分配論者が合意できる「解」ではないだろうか。
関連エントリ:
セーフティネットは会社の外に置き、「身分制度」をなくせ
http://mojix.org/2008/06/14/break_employment_hierarchy
解雇規制は 「会社のセーフティネット化」 だ
http://mojix.org/2008/06/05/safety_net_in_company
解雇規制がなくなり、雇用流動性が増すとどうなるのか
http://mojix.org/2008/06/03/what_if_fluid_employment
http://www.yamaguchijiro.com/?eid=694
『中央公論』11月号に掲載された、山口二郎氏と竹中平蔵氏の対談。とても面白い。
私は竹中氏の意見にほぼ全面的に賛成だが、山口氏のほうも立場は違いながらも、比較的冷静な議論なので、どのように考えているのかは理解できた気がする。
対談のタイトルは「新自由主義か社会民主主義か」となっているが、より具体的に言えば、対立軸の要点は「成長と分配のどちらを優先するか」ではないだろうか(竹中氏が成長論者、山口氏が分配論者)。成長論者はまず成長を優先し、成長すれば分配の原資も増えると考えるが、分配論者は「雇用を守れ」といったように、まず分配から入る(これはあくまでも、私の捉え方を大雑把に図式化したものに過ぎない)。
対談のなかで、竹中氏はこう言っている。
<地方農政局なんかには何もやらないでぶらぶらしてるような人がゴマンといるんです。たとえばそこを削って仕事のあるところに回す。それが我々の言う改革ですよ>。
この<何もやらないでぶらぶらしてるような人がゴマンといる>といったムダを、成長論者はもちろん許さない。分配論者は、こういう人たちについても「雇用を守る」という立場であるように私には思える。
成長論者と分配論者の対立は、この「ムダな人員をなくす」という論点で表面化しやすい(解雇規制もそう)。成長論者は、全体の生産性という観点から、その人の再配置や職務の変更を要請する。分配論者は、労働者の生活を守るという観点から、この人の雇用維持を要請する。
対談のなかで、山口氏はこう言っている。
<欧州の中道左派勢力も、最近はグローバル化の波に抗うのは無理だという現実を前提に政策を作るんですね。長期安定雇用のモデルは現実的ではないと。そこで「柔軟化」という考え方が出てくるわけですが、そのためにはボトム、すなわち失業給付だとか職業訓練だとかの政策的な支えを整備する必要があるというのが、共通認識になっています。ひるがえって日本はどうか。結局、企業の人件費抑制のために規制緩和がいいように利用されて、メチャクチャな低賃金労働が急速に増えたというのが現実です>。
「ボトム、すなわち失業給付だとか職業訓練だとかの政策的な支え」というのは、まさにセーフティネットだ。「中道左派」というのは、私の上記の分類でいえば「分配論者」だが、欧州ではこの中道左派すら、「グローバル化の波に抗うのは無理」「長期安定雇用のモデルは現実的ではない」のを認めており、このセーフティネットさえあれば、「柔軟化」を認めているという。これはほとんど私の考えと同じであり、「中道左派」もこれくらいの認識なのであれば、話ができそうに思う。
<ひるがえって日本はどうか。結局、企業の人件費抑制のために規制緩和がいいように利用されて、メチャクチャな低賃金労働が急速に増えたというのが現実です>。
「メチャクチャな低賃金労働」が良くないのはその通りだが、これをどう解消するかの方法が問題だろう。
悪質な労働環境を生み出さないように細かく法規制を作ったうえに、役所が監視するコストというのはすごいものがある。そもそも、ほんとうに監視できるのかも疑問だし、企業の一挙一動を役所が見張るというのでは、自由な企業活動が妨げられ、生産性が下がるだろう。そうではなく、悪質な企業からは従業員が「脱出」できるように、セーフティネットを充実させ、雇用流動性を上げたほうがいい。そうすれば、悪質な企業からは人員が自然に流出して、市場原理によってその企業は淘汰されるだろう。
つまり、きちんとしたセーフティネットさえあれば、雇用を流動化させることができ、市場原理を使って全体の生産性を上げることができる。同時に、雇用流動化によって失業しても、比較的短期で再就職しやすくなる。これこそ、成長論者と分配論者が合意できる「解」ではないだろうか。
関連エントリ:
セーフティネットは会社の外に置き、「身分制度」をなくせ
http://mojix.org/2008/06/14/break_employment_hierarchy
解雇規制は 「会社のセーフティネット化」 だ
http://mojix.org/2008/06/05/safety_net_in_company
解雇規制がなくなり、雇用流動性が増すとどうなるのか
http://mojix.org/2008/06/03/what_if_fluid_employment