2010.12.17
「科学技術」を「科学・技術」にするか、という話でまだモメているらしい
asahi.com - 譲れない「・」 科学技術か科学・技術か、専門家バトル(2010年12月16日10時23分)
http://www.asahi.com/science/update/1214/TKY201012140441.html

<「科学技術」と「科学・技術」。表記をめぐり、譲れない攻防が続いている。学者の国会とも呼ばれる日本学術会議が「科学・技術」を使うのに対し、科学技術政策の司令塔の総合科学技術会議は再び「科学技術」に戻した。「・」にこだわる背景には、政策の方向をめぐる意識の違いがある>。

以前も採り上げたこの話題。「科学技術」を「科学・技術」にするかという話で、まだモメているらしい。

政策とかぜんぜん関係なくて、「科学・技術」にすると、単に日本語として誤解が激増してしまう、というだけの話に思える。記事中にも、<ただ、「・」を入れると「先端科学・技術」「総合科学・技術会議」のようにわかりにくくなる>という例が説明されているが、その通りだろう。

杏林大学の金田一秀穂教授(日本語学)は、こうコメントしている。

<日本語は語を構成するとき、前項が後項を修飾するものと、同格で並列するものとがある。「・」は並列関係を明確にするが、そもそも日本語の表記にはなく、並列だからといって、入れないといけないわけでもない>。

まったくその通りで、日本語では「科学技術」のようにくっつけて書いても、2語が必ずしも従属関係になるわけではなく、並列の意味もある。

言語のもっとも重要な機能は、書き手が意図するものを、その言語表現によって実際に意味させるというものだろう。「誤解」とは、これがうまくいかず、失敗するということだ。よって、誤解を増すような言語表現は、そもそも言語表現として失敗である。この失敗の可能性を増す方向に日本語を変えるというのは、日本語を改悪することにしかならないと思う。

いまの日本語をいっさい変えてはいけない、とは思わない。例えば「オーストリア」を「オーストリー」にするという話(頓挫してしまったようだが)のように、誤解を減らす方向の改善であれば、むしろどんどんやるべきだろう。「オーストリア」を「オーストリー」に変えるのは、「オーストラリア」との識別性を高めることで2国の混同を減らすので、日本語の「改善」になると思う。

しかし、「科学技術」を「科学・技術」に変えるのは、「・」の切断力が強すぎて、それを含むフレーズや文全体の意味を誤解させるケースが増えてしまう。よって、これは日本語の「改悪」になりかねないと思う。


関連エントリ:
「科学技術」じゃなくて、「科学・技術」にする?
http://mojix.org/2010/03/09/kagaku_gijutsu
「オーストリー」への表記変更は消滅?
http://mojix.org/2008/11/08/austria_jpname