2011.02.26
伝わる文章の書きかた 結果を先に、「いいわけ」は最後に
金田一春彦の『日本語教室』(ちくま学芸文庫、1998年)という本がある。全体としては、日本語の文法や語彙について語った本で、語り口は平易だが、内容は専門的である。

しかし最後に「話しかた・書きかた」という章があり、これがまるでビジネス書のようにくだけた内容になっていて、実用的で面白い。この中にある「題材の並べかた」という節から、ひとつ紹介したい。

松坂忠則『新しい文章実務』(春秋社)という本から引くかたちで、伝わらない文章と、伝わる文章の違いを例で説明している。まず、伝わらない文章はこう。

<かねて御注文をいただいていました扇風機五〇〇個は、今日ようやく製品がそろいましたので、さっそく発送いたしたく存じましたところ、あいにく当社のトラックが故障を生じ、他の運送業者も折あしく車がふさがっていますので、よんどころなく、取りあえず当社のオート三輪車をもって一五〇個だけ、今晩六時発貨車便に荷積みいたしますから、ここにご通知申しあげます。残り三五〇個は、おそくも明後一五日までに発送いたしますから、事情ご了察の上あしからずお願い申しあげます>。

これは書いた本人にとっては、時の経過にしたがって書いたつもりかもしれないが、わかりにくい。そこで、以下のように改めたらどうか、とある。

<かねて御注文をいただいていました扇風機五〇〇個中、取りあえず一五〇個を今晩六時発貨車便に荷積みいたしますから、ここにご案内申しあげます。
 残り三五〇個は、おそくも明後一五日までに発送いたします。
 すでに全部できあがっているのですが、あいにく当社のトラックが故障を生じたため、以上のような手配にいたしました。あしからずご了察願います。 以上>

この改善について、松坂忠則氏はこう書いているとのこと。

<このように改めると、用のあることが、重要度に応じて理解されていくから、すこぶる事務的である。これをさらに具体的にいうと、「いいわけは、あと回し」というのが、一つのモットーになる。先方が早く聞きたいのは結果である。いいわけではない>。

重要度に応じて、結果を先に、言い訳は最後に書けば、文章はわかりやすくなる。

なお、この松坂忠則氏は「マツサカ・タダノリ」とも表記していた国語学者(1902-1986)で、カナモジカイの理事長もつとめた、漢字制限論者だったらしい。漢字制限論者だから、文章の「わかりやすさ」にもこだわっていたのだろう。


関連エントリ:
ひらがな、カタカナ、漢字を使い分けられるのが日本語の強み
http://mojix.org/2008/07/05/hiragana_katakana_kanji
カナモジカイと山下芳太郎
http://mojix.org/2005/07/22/063749