ばるぼら『岡崎京子の研究』 岡崎京子の仕事をマイナー誌まで網羅した驚異の一冊
総合出版社アスペクト - 岡崎京子の研究 ばるぼら 著
http://www.aspect.co.jp/np/isbn/9784757220904/
(書影は「本が好き! Book ニュース」より)
<岡崎京子は日本のカルチャー史に何を遺してきたのか?
1980年代から 1990年代半ばにかけて活動し『pink』『東京ガールズブラボー』『リバーズ・エッジ』『ヘルタースケルター』を生んだマンガ家・岡崎京子の軌跡をほぼ網羅した研究資料集成。デビュー以前から事故後までを解説と年表で読み解く全六章。初心者から長年の愛読者まで、21世紀の岡崎京子研究の基本文献となるでしょう>。
雑誌コレクターとしても知られるばるぼら氏が、誰も知らないようなマイナー誌まで含めて、岡崎京子の(おそらくほぼ)全仕事を網羅した驚異の一冊。
0. 1963-1979 岡崎京子の前史
1. 1980-1985 岡崎京子の黎明期
2. 1986-1988 岡崎京子の初期
3. 1989-1992 岡崎京子の中期
4. 1993-1996 岡崎京子の後期
5. 1997-2012 岡崎京子の事故後
6. 付録
という構成になっていて、上段では岡崎京子の活動や仕事、興味の対象などを、読みやすい対談形式で解説。下段では、作品やイラスト、エッセイなどが掲載された本・雑誌などを、なんと1日単位で年表化している。コミックナタリーの記事では<度を超えた偏執さで活動を1日ごと追う>と評されているが、まさに偏執的な詳しさに脱帽させられる。
本書のエピローグで、著者のばるぼら氏はこのように書いている。
<こうした研究本は誰か他のマンガ家を対象にしても同じように作れるものではありません。もし彼女がマンガ家はマンガだけを描いていればいいというような専任意識を尊ぶタイプであれば、おそらく本書は三分の一以下の薄さで十分だったでしょう>。
<本書が成立した理由は二つ考えられます。一つは、様々なメディアに自分の発言や作品を残していること。もう一つは、様々なメディアからの影響を隠さなかったことです。岡崎京子のマンガから読み取れるのは、マンガに限らず、音楽、映画、美術、写真集、テレビ番組、小説など雑多なインプットで、そのすべてに触れないと本当に理解したことにならないのではないか‥‥という気にさせるのでした>。
まったく同感だ。岡崎京子の作品には、さまざまな「ネタ」が散りばめられているだけでなく、岡崎京子自身、ありとあらゆるメディアに顔を出し、作品を提供した。
この本の強みは、雑誌狂でもあるばるぼら氏の知識とその膨大な資料が、岡崎京子という「メディア的」なマンガ家の全体像を捉えるのに役立っているところだろう。岡崎京子の研究本であると同時に、「岡崎京子を中心とした1980年代~1990年代の日本サブカルチャー史」として読むこともできる。
私は1990年代に『SHORTCUT』というマイナーなミニコミ誌をやっていたのだが、岡崎京子さんは別冊用の表紙イラストを(ノーギャラで)提供してくれたり、アンケートに答えてくれたりした。また、私はいちど岡崎さんの4コママンガに登場したことがある(「テクノ通の知人」として)。本書ではそれらもすべてカバーされていて、ばるぼら氏の情報収集能力には恐れ入った。サブカルのCIAか。
ばるぼら氏の『教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書』もそうだったが、本書もメインテーマは岡崎京子でありながら、やはり「雑誌」というものが通奏低音のように流れている。
まだインターネットがなかった頃、雑誌というのは「紙のインターネット」みたいなものだった。大手出版社のちゃんとした雑誌も、私がやっていた『SHORTCUT』のようなチープなコピー誌も、どちらも「雑誌」だった。岡崎京子は、そのどちらにも分け隔てなく接し、作品を提供していた。「雑誌」が好きだったんだと思う。岡崎京子の作品自体も、引用や言及が多くて、どこか「雑誌」っぽい。
本書は岡崎京子の研究本であり、内容が詳しいのは当然のことながら、全編を貫く「雑誌」っぽさが、岡崎京子というメディア的なマンガ家、その「雑誌」っぽさと共鳴しているように思う。ばるぼら氏はエピローグの最後で、<岡崎京子は自分にとって特別なマンガ家です>と書いている。
関連:
ばるぼら - 『岡崎京子の研究』(アスペクト)
http://www.jarchive.org/book/kyoko_okazaki/
コミックナタリー - 度を超えた偏執さで活動を1日ごと追う「岡崎京子の研究」
http://natalie.mu/comic/news/72784
本が好き! Book ニュース - ヘルタースケルター公開目前!原作者、岡崎京子の世界を徹底研究
http://news.honzuki.jp/okazakikyoukonokenkyuu
山内崇嗣 jp.omolo.com - ばるぼら (著) 「岡崎京子の研究」アスペクト (2012/7/11)
http://jp.omolo.com/?p=1536
関連エントリ:
いまの私はウェブに生きているが、私という人間の基層には雑誌がある
http://mojix.org/2011/03/27/web-zasshi
はてなブックマークにおける「ブログはフロー、Wikiはストック」 / ビフォー・アフター的な歴史感覚
http://mojix.org/2005/06/30/210847
http://www.aspect.co.jp/np/isbn/9784757220904/
(書影は「本が好き! Book ニュース」より)
<岡崎京子は日本のカルチャー史に何を遺してきたのか?
1980年代から 1990年代半ばにかけて活動し『pink』『東京ガールズブラボー』『リバーズ・エッジ』『ヘルタースケルター』を生んだマンガ家・岡崎京子の軌跡をほぼ網羅した研究資料集成。デビュー以前から事故後までを解説と年表で読み解く全六章。初心者から長年の愛読者まで、21世紀の岡崎京子研究の基本文献となるでしょう>。
雑誌コレクターとしても知られるばるぼら氏が、誰も知らないようなマイナー誌まで含めて、岡崎京子の(おそらくほぼ)全仕事を網羅した驚異の一冊。
0. 1963-1979 岡崎京子の前史
1. 1980-1985 岡崎京子の黎明期
2. 1986-1988 岡崎京子の初期
3. 1989-1992 岡崎京子の中期
4. 1993-1996 岡崎京子の後期
5. 1997-2012 岡崎京子の事故後
6. 付録
という構成になっていて、上段では岡崎京子の活動や仕事、興味の対象などを、読みやすい対談形式で解説。下段では、作品やイラスト、エッセイなどが掲載された本・雑誌などを、なんと1日単位で年表化している。コミックナタリーの記事では<度を超えた偏執さで活動を1日ごと追う>と評されているが、まさに偏執的な詳しさに脱帽させられる。
本書のエピローグで、著者のばるぼら氏はこのように書いている。
<こうした研究本は誰か他のマンガ家を対象にしても同じように作れるものではありません。もし彼女がマンガ家はマンガだけを描いていればいいというような専任意識を尊ぶタイプであれば、おそらく本書は三分の一以下の薄さで十分だったでしょう>。
<本書が成立した理由は二つ考えられます。一つは、様々なメディアに自分の発言や作品を残していること。もう一つは、様々なメディアからの影響を隠さなかったことです。岡崎京子のマンガから読み取れるのは、マンガに限らず、音楽、映画、美術、写真集、テレビ番組、小説など雑多なインプットで、そのすべてに触れないと本当に理解したことにならないのではないか‥‥という気にさせるのでした>。
まったく同感だ。岡崎京子の作品には、さまざまな「ネタ」が散りばめられているだけでなく、岡崎京子自身、ありとあらゆるメディアに顔を出し、作品を提供した。
この本の強みは、雑誌狂でもあるばるぼら氏の知識とその膨大な資料が、岡崎京子という「メディア的」なマンガ家の全体像を捉えるのに役立っているところだろう。岡崎京子の研究本であると同時に、「岡崎京子を中心とした1980年代~1990年代の日本サブカルチャー史」として読むこともできる。
私は1990年代に『SHORTCUT』というマイナーなミニコミ誌をやっていたのだが、岡崎京子さんは別冊用の表紙イラストを(ノーギャラで)提供してくれたり、アンケートに答えてくれたりした。また、私はいちど岡崎さんの4コママンガに登場したことがある(「テクノ通の知人」として)。本書ではそれらもすべてカバーされていて、ばるぼら氏の情報収集能力には恐れ入った。サブカルのCIAか。
ばるぼら氏の『教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書』もそうだったが、本書もメインテーマは岡崎京子でありながら、やはり「雑誌」というものが通奏低音のように流れている。
まだインターネットがなかった頃、雑誌というのは「紙のインターネット」みたいなものだった。大手出版社のちゃんとした雑誌も、私がやっていた『SHORTCUT』のようなチープなコピー誌も、どちらも「雑誌」だった。岡崎京子は、そのどちらにも分け隔てなく接し、作品を提供していた。「雑誌」が好きだったんだと思う。岡崎京子の作品自体も、引用や言及が多くて、どこか「雑誌」っぽい。
本書は岡崎京子の研究本であり、内容が詳しいのは当然のことながら、全編を貫く「雑誌」っぽさが、岡崎京子というメディア的なマンガ家、その「雑誌」っぽさと共鳴しているように思う。ばるぼら氏はエピローグの最後で、<岡崎京子は自分にとって特別なマンガ家です>と書いている。
関連:
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http://www.jarchive.org/book/kyoko_okazaki/
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http://natalie.mu/comic/news/72784
本が好き! Book ニュース - ヘルタースケルター公開目前!原作者、岡崎京子の世界を徹底研究
http://news.honzuki.jp/okazakikyoukonokenkyuu
山内崇嗣 jp.omolo.com - ばるぼら (著) 「岡崎京子の研究」アスペクト (2012/7/11)
http://jp.omolo.com/?p=1536
関連エントリ:
いまの私はウェブに生きているが、私という人間の基層には雑誌がある
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はてなブックマークにおける「ブログはフロー、Wikiはストック」 / ビフォー・アフター的な歴史感覚
http://mojix.org/2005/06/30/210847