2012.07.31
「超小型車」とは何か
毎日新聞 - 超小型車:国交省 導入に向けたガイドラインを作成(2012年07月30日 21時24分)
http://mainichi.jp/select/news/20120731k0000m020060000c.html


日産自動車の2人乗り超小型車「ニューモビリティコンセプト」

<体が不自由な高齢者の移動や運送業者の手軽な配達手段などとして、国土交通省が1〜2人乗りの超小型車の普及を進めようとしている。今春までに全国10地域で行った実証実験を受けて「日常の移動や観光などで利用が見込める」(同省)と判断し、導入に向けたガイドラインを作成。近く暫定的に車道を走るための認定制度を作る。ただ、安全性などに課題があるほか、自動車メーカーの思惑に濃淡もあり、「普及へのハードルは高い」との見方も出ている>。

<国交省は、原動機付き自転車と軽自動車の間に位置する超小型車について、「環境性能」や「手軽さ」を重視。1〜2人乗りの電気自動車(EV)を使った実験を横浜市や愛知県豊田市などで実施した結果、「買い物や地域活動などの利用が広がった」「高齢者らの外出回数が増えた」などの結果を得た。これを受け、自治体などが試験的に導入できるよう、車道を走るための認定制度を作成中だ。普及が見込めるなら、道路運送車両法改正も検討する>。

最近、ニュースなどで見かけるようになった「超小型車」。<原動機付き自転車と軽自動車の間に位置する>とのことで、軽自動車をさらに小型化したような感じのものだ。電動の車イスをよりクルマに近づけたような感じにも見える。

少し前、朝日新聞にも「超小型車」の記事が出ていた。

朝日新聞デジタル - 超小型車、夏にも公道走行OKに 国交省が規制緩和へ(2012年6月4日23時35分)
http://www.asahi.com/business/update/0604/TKY201206040624.html


図:超小型車とは?

<1~2人乗りの新しい車「超小型車」が、今夏にも公道を走れるようになる。自動車メーカーの開発を促して次世代の移動手段として普及させようと、国土交通省が今夏にも規制緩和に踏み切る方針だ。法的に「超小型車」という新区分をつくることも検討していく。
 超小型車はメーカー各社が開発を進めているが、法的な位置づけがあいまいなため、公道走行は出来なかった。公道を走れるようになれば、超小型車を利用できる場が広がり、メーカーも有望な市場と期待して開発を加速すると国交省はみている。
 国交省が4日示したガイドラインによると、超小型車は1~2人乗りで、軽自動車よりも小さく、原動機付き自転車と比べれば大きい。5キロ圏内の近距離で手頃な移動手段となり、原則として電気自動車(EV)のため二酸化炭素の排出など環境への負荷も少ない。高齢者などの身近な移動手段として今後、需要が高まるとみられている>。

たしかに、これの潜在需要は大きいと思う。自転車や車イスよりも強力で、しかし普通の自動車よりも小さく、電気自動車(EV)でもある。

これらの記事のもとになった国土交通省の「ガイドライン」とは、次のものらしい。

国土交通省 - 超小型モビリティ導入に向けたガイドライン (PDF)(2012年6月)
http://www.mlit.go.jp/common/000212867.pdf

この本編は54ページあるので、ざっと見るだけなら、概略をまとめた報道向け資料のほうがわかりやすい。

国土交通省 - 環境対応車普及による低炭素まちづくりに向けて (PDF)(2012年6月4日)
http://www.mlit.go.jp/common/000212892.pdf

このPDF資料の2ページめに、「超小型モビリティの導入に向けたガイドライン」というのがあり、これが1ページの要約になっている。「ガイドラインの概要」にはこうある。

1. 超小型モビリティの特徴(定義)
- 自動車よりコンパクトで、取り回しがし易い
- 環境性能に優れる
- 1人~2人乗り程度

2. 導入意義・効果
- CO2の削減
- 都市や地域の新たな交通手段
- 高齢者の移動支援、子育て支援
- 観光・地域振興 等

3. 利活用場面
- 近距離(5km圏内)の日常的な交通手段
- 観光時における回遊・周遊の際の移動手段
- 小規模配送やポーターサービス等

4. 利用環境の整備(地方自治体の役割)
- 車両導入補助、先導導入
- 走行空間の整備、標識設置
- 駐車空間の整備
- 地域交通計画への反映 等

5. 車両仕様に対するニーズ
- 乗車定員1~2名程度
- 一定の積載量
- 手頃な価格、維持費



この概略で興味を感じる人は、ぜひ54ページの本編資料のほうもチェックしてみてほしい。私もまだざっと眺めた程度だが、地方での実証実験の報告など、じつにおもしろい。

実証実験の結果、ユーザからの反応はおおむね好評のようだ。しかし課題もある。冒頭の毎日新聞の記事には、このようにある。

<国は「公共交通機関の補完」など利便性を前面に打ち出すが、実証実験では、コンパクトさゆえの「見通しの悪さ」や「後続車からあおられる危険」が指摘された。さらに「今後利用しない」と回答した人の半数が「車体の安全性」に不安を訴えている。日本自動車工業会の名尾良泰副会長も「大型車と一緒になる混合交通になれば、他のドライバーにも(安全面で)影響が出る」と指摘した>。

<国交省もこうした点を踏まえ「本格的な混合交通になれば、安全対策は必要。認定制度を活用しながら、まずはどんな地域で、どんな用途に適しているかを見極めたい」(自動車局)としている>。

やはり、道路の問題になるのだ。自転車の問題と同じく、超小型車であっても、大型車などに混じって車道を走るとなれば、恐ろしいだろう。

せっかく超小型車への社会的ニーズがあっても、いまの道路がそれに対応していないため、そのニーズを満たすことができない。超小型車はこれからの話だが、自転車ではこの問題はとっくに起きている。

これは結局、「道路は誰のものか」という根源的な問題になるのだ。道路は公共物なのに、その大部分を自動車が占有しているのが現状だろう。歩行者、自転車、そして超小型車というあたらしい使用者に対して、道路という公共の資源をどのように配分するのか、制度設計をやりなおす必要がある。

このような道路問題の観点からも、「超小型車」というあたらしいカテゴリの出現は興味深い。「歩行者」「自転車」「自動車」というのを、それぞれ政党のようなものと考えてみてほしい。いまは「自動車」党が強い状態であり、「自動車」党が道路の大部分を使っている。「歩行者」「自転車」は、この現状に不満を持っている。特に「自転車」党は、歩道でなく車道を走るのがルールだと言われても、危なくて現実的ではないので、仕方なく歩道を走っている状態だ。悪いのは自転車に乗る人ではなく、現実に追いついていない制度のほうだろう。

ここに「超小型車」が加わってくると、どうなるか。いま自家用車を持っている人のうち、その用途が主に近距離であれば、「ウチは超小型車で十分だ」という人も少なくないだろう。つまり、これまで「自動車」党だった人のうち、「超小型車」党に移ってくる人がそれなりの勢力になる。こうなると、「超小型車」も現状の車道では危なくて走れないので、「歩行者」「自転車」と力をあわせて、いまの制度を変えろという革新側に加わるだろう。つまり「超小型車」の登場は、道路の大部分を「自動車」が占有する現状の制度を変える方向に作用すると思う。この意味でも、私は「超小型車」に注目している。


関連エントリ:
道路は誰のものか
http://mojix.org/2011/07/18/douro-darenomono
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