2012.10.23
「幕府」「ペリー来航」
先日のエントリ「東京駅丸の内駅舎」で、おまけとして、書道作品展で見つけた名作を紹介した。


東京駅構内の書道作品展で見つけた名作「幕府」「ペリー来航」

見つけたときも衝撃を受けたが、こうしてあらためて写真で見ても、実にいい。何度見ても飽きないので、あらためてここに紹介しておきたい。

書道作品展の中で、この「幕府」と「ペリー来航」の2つは、とにかく目立っていた。この書道作品展自体、私以外の通行人は誰も目に留めておらず、私も最初は、ちらっと横目で見て通りすぎる予定だった。しかし、この2つが目に入って、写真を撮らずにはいられなくなった。

まず、「幕府」「ペリー来航」という題材のチョイスがいい。こんなことを書いているものは、ほかになかった。ほかの生徒は、おそらく先生が手本に挙げたのであろう「江戸城」とか「花火」、「祭り」といった無難な語を選んでいた。「幕府」「ペリー来航」など、独自のチョイスをしている生徒は少数派であり、あまり目立たない場所に貼ってあった。私はこういう反抗的な少数派に共感する。

そして、この文字のヘタさが絶妙である。「幕府」のほうは、勢いよく「幕」をど真ん中に書いてしまったので、場所がなくなってしまい、「府」をなんとか余白に入れた感じである。しかしその結果、「幕」が飛び出すような、立体的な効果が出た。これはもう、ひとつのデザインであり、タイポグラフィである。

「ペリー来航」のほうも、やはり文字のヘタさが絶妙だが、こちらは勢いはなく、むしろ「かったるい」感じが出ている。「幕府」に比べると、文字の線が細く、筆の先だけで書いている。それがやる気のない、かったるい感じを生み出している。しかし「リ」だけは、なぜか太い。この生徒は、書道なんてやりたくないので、気持ちを込めずに、筆先だけでちょちょいと書いた。しかし、なぜか「リ」だけは太くなった。「ペリー来航」という題材のチョイスと、なぜか「リ」だけが太いという不思議なバランスが、この作品をおもしろくしている。

先生のお手本にしたがった優等生の作品は、概して字もうまいのだが、おもしろくない。「幕府」「ペリー来航」のほうが、断然おもしろい。これこそ個性である。


関連エントリ:
東京駅丸の内駅舎
http://mojix.org/2012/10/15/tokyo-eki
「ユニークな能力」と「スタンダードな能力」
http://mojix.org/2005/12/19/070735