2012.10.22
ソニーが子会社「ソニーイーエムシーエス」の岐阜県美濃加茂市の工場を来年3月で閉鎖
読売新聞 - ソニー撤退…全2690人異動・退職・更新なし(2012年10月21日10時50分)
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20121021-OYT1T00327.htm


来年3月の閉鎖が決まったソニーイーエムシーエスの工場=市来哲郎撮影

<ソニーが子会社「ソニーイーエムシーエス」の岐阜県美濃加茂市の工場を来年3月で閉鎖すると決めたことに、地元では動揺が広がっている。
 突然の発表から一夜明けた20日、従業員は「信じられない」と困惑の表情を浮かべた。県は週明けに関係部署で会議を開き対応を協議し、市や岐阜労働局と雇用対策を話し合う方針だ。
 同工場ではデジタルカメラの交換レンズ製造などを行っており、閉鎖後の事業は愛知県幸田町と千葉県木更津市の工場に移す。正社員ら直接雇用の840人は別工場へ異動させるほか、早期退職を募る。派遣・請負などの1850人は契約を更新しない。派遣・請負従業員はブラジル人を始め外国人も多いという。
 ソニーの広報担当者は「全社で大幅な人員削減や合理化を進めているが、円高の影響で、このままでは会社が立ちゆかなくなる。工場の閉鎖は苦渋の決断」と話した>。



ソニーイーエムシーエス」はソニーの完全子会社で、<ソニーのエレクトロニクス機器・デバイスの開発、商品設計、資材調達、生産、物流、顧客サービス、修理など一連の設計・生産・フォローを行っている>とのこと。現在、事業所は次の7つらしい。

1. 木更津サイト - 千葉県木更津市
2. 幸田サイト - 愛知県額田郡幸田町 主にビデオカメラ、デジタルスチルカメラ生産部門。
3. 美濃加茂サイト - 岐阜県美濃加茂市 
4. 稲沢サイト - 愛知県稲沢市 主にBRAVIA生産部門。
5. 湖西サイト - 静岡県湖西市
6. 長野テクノロジーサイト - 長野県安曇野市 主にVAIO設計、生産部門。
7. SMSカンパニー - 愛知県稲沢市 主に実装機。

このうちの1つである「美濃加茂サイト」(岐阜県美濃加茂市)が、来年3月で閉鎖になるわけだ。

美濃加茂サイトの従業員は2690人で、うち正社員の840人は、別工場へ異動させ、早期退職も募る。派遣・請負などの1850人は契約を更新しない、ということのようだ。

朝日新聞デジタル - ソニー撤退、2千人超す雇用は 岐阜・美濃加茂(2012年10月21日15時7分)
http://www.asahi.com/business/update/1021/NGY201210210003.html

<【志村英司、増田勇介、連勝一郎】日立が8月にテレビ生産を終え、今度はソニーが撤退――。岐阜県内では企業誘致の「勝ち組」といわれた美濃加茂市で、工場の減産・閉鎖が相次ぐ。「将来どうなるのか」。市内最大の2千人以上の雇用の場が失われることに、地元では不安の声があがった。
 美濃加茂市のソニーEMCS美濃加茂工場は、市内に住む約2600人の日系ブラジル人の最大の就職先だ。この工場の閉鎖が発表された直後の19日午後5時すぎ、仕事を終えた従業員が次々と正門から出てきた。
 「以前いた茨城の工場は震災の影響で閉鎖。美濃加茂に転居し、1年半前から働いているが、派遣先から何も聞かされていない」。日系ブラジル人の男性(37)は心配そうな表情を浮かべた。12年前に来日し、妻(36)もここで働く。子どもは中学生。「将来がとても不安だ」と言い残して工場を後にした>。

こちらの朝日新聞の記事では、より雇用に重点を置いた書き方になっている。従業員である日系ブラジル人男性のコメントも紹介しており、リアルな感じが伝わってくる。

美濃加茂市のサイトでは、市長からのコメントが出ている。

美濃加茂市ホームページ - 「ソニーイーエムシーエス(株)美濃加茂サイト」収束の報道について
http://www.city.minokamo.gifu.jp/sirase/sirase.cfm?id=4855

<「ソニーイーエムシーエス(株)美濃加茂サイト」収束の報道を受け、市長が発表したコメントをお知らせします。

「突然のことで大変驚いています。
美濃加茂市を代表する企業の一つであるので、閉鎖になるのは非常に残念です。
働いている方も大変多いので、その雇用については十分配慮していただきたいと思います。
今後、岐阜県と連絡を密にしながら対応策について協議を進めてまいります。」

                    美濃加茂市長  渡辺 直由

従業員数  正社員     約800名
      請負・派遣 約1,600名>

美濃加茂市の人口は55,000人程度のようなので、2,690人の雇用がなくなるというのは、たいへんなことだろう。

自治体にとって、このような大企業が地元にあることの恩恵ははかり知れない。まず、法人が地方税を払ってくれる。さらに、雇用を通じて人を集めてくれる。人が集まれば、住民も税金を払ってくれるし、地元で食事したり、買い物したりするので、地元にカネが落ちて、産業が発達する。つまり自治体にとって、企業とは「地元に人とカネをもたらしてくれる」ものなのだ。

逆にいえば、いままでその自治体に立地していた企業が撤退するというのは、「人とカネを失う」ことを意味する。今回、美濃加茂市が直面しているのはこれであり、市長が悲壮なコメントを発表しているのもよくわかる。

しかし、いま日本の電機業界はまさに総崩れである。シャープなどは、もはや会社の存続自体が危ういレベルに近づいている。ソニーが子会社の工場をひとつ閉鎖したくらいでは、もはや誰も驚かないだろう。むしろ、工場閉鎖やリストラはまだ今後もあると考えたほうが自然だ。

企業は雇用を生み出すが、雇用を生み出すために企業が存在しているのではない。企業とは「利益を生み出す装置」にほかならない。その装置が必要としている原料のひとつに「労働力」があり、それが雇用になる。雇用とは「副産物」なのだ。

企業に雇用を強制すれば、企業はむしろ、この雇用という副産物を生み出さなくなる。企業が生み出す雇用を最大化したければ、企業に雇用を強制するのではなく、企業の成長をできるだけジャマしないことだ。企業が成長するにつれ、雇用という副産物が出てくるのだから、これはあたりまえである。

今回のソニー撤退の場合、美濃加茂市ができることは何もない。問題は国の政策だ。日本は企業の税金が高く、規制も強いので、激化する世界的な競争のなかで、日本企業は大きなハンデを背負わされている。減税と規制緩和をおこない、このハンデをなくさない限り、日本企業は成長できず、よって雇用も出てこない。「企業に雇用を強制する」という考え方が、むしろ雇用を減らしているのである。


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