2012.10.21
「いとをかし」は「マジヤバイ」
少し前に、若者言葉の「マジヤバイ」がすごく汎用的だ、という話を見かけた。探してみたら、この「ひらりん」さんのツイートが発信源のようだ。

Twitter - 1219hr ひらりん
http://twitter.com/1219hr/status/190051003528257536

<近ごろ「マジ」「ヤバイ」の汎用性がマジヤバイので、50年後ぐらいの俳句は「春ヤバイ マジヤバイマジ 君ヤバイ」とかで「春が訪れ、花が美しくその身を咲かせる季節になりました。でもそんな可憐な花々よりも君の方が美しい。嗚呼、この花を君と見れないのが切ない」ぐらいの意味になり兼ねない>。

「ヤバイ」が50年後くらいには日本語に定着しており、俳句などで多義的に使われてもおかしくない、というのを実例で示していて、おもしろい。

私はこれを見て、逆に昔の古典を「ヤバイ」で書き換えて、「現代語訳」するのもおもしろいのではないかと思った。

<春は、あけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは 少し明りて紫だちたる雲の細くたなびきたる>。

<夏は、夜。月の頃はさらなり。闇もなほ。螢の多く飛び違ひたる。また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くもをかし。雨など降るもをかし>。

これは、有名な『枕草子』の出だしである(Wikiquote「清少納言」より)。作者の清少納言が「をかし」(趣がある)と感じるものを列挙している。「春は、あけぼの」のように、多くの箇所で「をかし」が省略されている。

この「をかし」は、私くらいの世代なら「イカす」に近く、いまの若者なら「ヤバイ」だろう。「いとをかし」というのは、まさに「マジヤバイ」である。『枕草子』冒頭の「をかし」を「ヤバイ」に変換すると、こんな感じだろう。

<春は、あけぼの(がマジヤバイ)。やうやう白くなりゆく山ぎは 少し明りて紫だちたる雲の細くたなびきたる(がマジヤバイ)>。

<夏は、夜(がマジヤバイ)。月の頃はさらにヤバイ。闇もなほ(ヤバイ)。螢の多く飛び違ひたる(のがヤバイ)。また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くもヤバイ。雨など降るもヤバイ>。

これくらい最新の現代語訳であれば、若者も古典をリアルに感じて、たのしく学ぶことができるかもしれない。

「月の頃はさらにヤバイ」「闇もなほヤバイ」あたりは、ビジュアル系の美学にも近い。若者言葉もビジュアル系も、意外に日本の古典と相性がいいかもしれない。


関連エントリ:
「むかつく」「真逆」「まったり」使いますか?文化庁の国語世論調査
http://mojix.org/2012/09/26/kokugo-chousa
副詞の「dead」
http://mojix.org/2011/04/29/adv-dead