2013.02.04
デザイナーはたいへんだ
IT業界はキツイとよく言われているが、プログラマよりデザイナーのほうが、きっとたいへんだと思う。

システム開発は、実現すべき仕様や性能を満たしていれば、中身は基本的に問われない。お客さんはシステムの中身はわからないからだ。

しかしウェブデザインやグラフィックデザインの場合、デザインそのものが成果物である。お客さんが持っている要望、「実現すべき仕様や性能」と、それを実現するためにデザイナーが作った作品が、いわば一体なのだ。

よって、お客さんはそのデザインにしばしば口を出す。デザイナーのほうがデザインの専門家であることはわかっていても、自分の実現したいことと、目の前の作品がズレている場合は、口を出さざるをえない。

ここが、デザインというもののむずかしいところだ。デザイナーは専門家だが、お客さんの実現したいことを実現できていないことはたしかにある。デザインの場合、「実現したいこと」を明確に定義できないので、お客さんがデザイナーにそれを伝えることがむずかしい。

いっぽう、「実現したいこと」は双方でおおむね共有できているのだが、その実現方法において、デザイナーとお客さんの意見が食い違う、ということもある。こういう場合は、デザインの素人であるお客さんよりも、専門家であるデザイナーの意見が正しいことのほうが多いだろう。しかし、デザイナーにも得意不得意があるので、お客さんの意見のほうが正しいことも少なくないと思う。いずれにせよ、デザインでは「どちらが正しいのか」を客観的に決定する方法がない。

デザイナーという仕事はきっと、このお客さんとの意思疎通に、かなりの神経と労力を使うものと思う。超一流の売れっ子デザイナーならば、絶対に自分の意見を曲げないということも可能かもしれないが、並のデザイナーならば、そうもいかないだろう。

IT業界がキツイのは、そもそも工期が短すぎるとか、あとから仕様変更が来る、みたいな話がほとんどだろう。それももちろんたいへんだが、お客さんがシステムの設計とか、コードの書き方にまで口を出してくる、ということはほとんどない。

しかしデザイナーの場合、お客さんが仕事そのものに口を出してくる。デザイナーが作った作品は、デザインの専門家が、自分なりに試行錯誤して作ったものだ。その自分の仕事に対して、お客さんではあるがデザインの素人である人間にケチをつけられたら、屈辱的だろう。「おまえは素人なんだから、黙って言うことを聞け!」と言いたくなることもきっとあると思うが、そんなことは絶対に言えない。

プログラマもデザイナーも、納期が短いとか、仕様変更が入るとか、作業そのものがキツイといったことは、おおむね同じだろう。もっとも違うのは、自分の専門家としての判断を、お客さんという素人に否定されるかどうか、というところではないだろうか。デザイナーはこれがあるので、プログラマよりきっとたいへんだと思う。