2005.07.17
パーソナル・カンパニー / 人間が会社に属するのではなく、会社が人間に属する時代
私がやっている会社は、いまのところ私1人の会社だ。

最近だと「ベンチャー」とか、昔なら「零細企業」など、小さい会社を指す言葉はいろいろあるが、少なくとも何人か社員がいるのが普通だと思う。

1人だと、とにかく1人しかいないわけだから、社長から営業、経理、マネージャー、開発、総務、雑用まで、ぜんぶ1人でやる。会社といっても、いわゆる「フリーランス」の人と同じような境遇だ。

すべてを自分でやるという、このたいへんさと面白さは、きっと経験しなければわからないだろう。すべてを自分でやり、すべて自分の責任だが、すべてを自分で自由にコントロールできる。

私は3年くらい前に独立したのだが、独立にあたって大きく触発されたものに、ダニエル・ピンクの『フリーエージェント社会の到来』(原題「Free Agent Nation」)という本がある。アメリカで、ごく小さな会社やフリーランスというかたちで働いている人が爆発的に増えており、その現状を報告した本だ。

この本や、そして私のバイブルともいえるトム・ピーターズ『ブランド人になれ!』などを読むにつけ、私は「会社というものは、だんだん小さくなりつつあるのではないか」と、しだいに確信するようになっていった。

そしてこの「会社の小型化」という現象は、「コンピュータの小型化」と似ていることに気がついた。

かつて、コンピュータは途方もなく大きな、高価な機械だった。それをたくさんの人でシェアして使っていた。それが「チープ革命」によって、コンピュータはだんだん小さく、安くなっていき、いまはほとんど誰でも持っていて、数万円くらいで買えるものになった。

会社にも、これと似たような「チープ革命」が起きているのではないか。

ダニエル・ピンクの「フリーエージェント」や、トム・ピーターズの「ブランド人」が意味していることのひとつは、会社という「ビジネスの独立単位」がだんだん小さくなり、「人間のサイズ」に近づいている、ということだと思う。

いまや、1人の人間=1つの会社なのだ。少なくとも、大きな会社に属している場合でも、そのような「精神」や「ふるまい」が必要になってきている(この話は、「コンピュータと同じ歴史を歩む人間」に書いた話とも深く関係している)。

1人で会社をやっている私にとって、会社とは「自分でやっている」ものであり、「そこに属している」という感覚はまったくない。私は会社に属しているのではなく、むしろ会社が私に属しているのだ。

これはちょうど、かつては1台のコンピュータをたくさんの人でシェアしていたが、だんだんコンピュータが安く、小型化してきて、いまは誰でもPCを持っており、1人でたくさんのPCを持っている人も珍しくない、という「チープ革命」のプロセスと似ていないだろうか。

いまの「会社」は、ちょうど「1人で1台」くらいの段階なのだと思う。パーソナル・コンピュータならぬ、「パーソナル・カンパニー」だ。もうちょっと経てば、1人でたくさんの会社をやることも、きっと珍しくなくなるだろう(いまの段階では、そういう人はごく少数だ)。

なぜこれが起こるかというと、やはりコンピュータという情報技術の進歩が、会社をやるということ(フリーランスも含む とにかく「独立」したビジネスをやること)の敷居を下げているからだと思う。その意味では、情報技術の恩恵を受けやすいビジネス(コンピュータだけで完結するような仕事など)のほうが、この「会社のチープ革命」の恩恵も受けやすいかもしれない。

さらに、日本では来年に施行予定の新会社法により、法的にも自由度が上がるので、ますますこの流れが加速するだろう。

そう遠くない将来、ブログを作るのと同じような感じで、クリック1つで会社が作れる時代が来ると思う。