2005.08.13
プロテクトなし、無料の楽曲ダウンロード - mF247と丸山茂雄
梅田望夫さんのブログに、丸山茂雄という<産業界の大御所、大ベテラン>が、はてなダイアリーでBlogをはじめたという記述があった。

丸山茂雄の音楽予報
http://d.hatena.ne.jp/marusan55/

プロフィールによると、

1978年 (株)EPICソニーレコード設立
1993年 (株)ソニー・コンピュータエンタテインメント設立 代表取締役副社長
1998年 (株)ソニー・ミュージックエンタテインメント代表取締役社長
2002年 (株)ソニー・コンピュータエンタテインメント取締役 現在に至る
2003年 (株)に・よん・なな・みゅーじっく設立 代表取締役 現在に至る
2005年  mF247主宰

という、まさに大御所としか言いようのない、雲の上のようなエラい人だ。

この人がやっている「mF247」という会社のサイトを見て、私は心底驚いた。

mF247
http://mf247.jp/

「プロテクトなしの楽曲フルバージョンを無料ダウンロード」

と書いてあるのだ。



これはまさに、私が「曲のダウンロードをいっそ無料にしてはどうか」や「コンテンツを無料にすればリーチは100倍になる、とセス・ゴーディンも言っている」で書いてきたこと、まったくそのままじゃないか!

すでに同じ考えを持ち、これに向けて動き出した人がいて、それが日本の音楽業界の首領(ドン)のような大御所であったとは、まったく驚きだ。

そして、mF247の動機を述べた以下のページでは、音楽をめぐる状況の変化や無料ダウンロードを始める理由について、見事に語りつくされている。特に、「情報」と「作品」の違いを述べた部分は素晴らしい。

mF247を始めるにあたって
http://mf247.jp/prospectus.html

<昔も今も、自身が強く思い入れることができるアーティストや楽曲に、そう多くは出会えるわけではなく、だからこそ出会えた時には喜びもひとしおなのだが、 iPodに数千曲も入れられるという状況は、もはや音楽という〈作品〉を収集しているのではなく〈情報〉を集めて持ち運ぶという感覚なのであろう。つまり「1枚のビニール盤がすり切れるほどアルバムに針を落としていた時代」は、誰にとっても紛れもなく音楽は〈作品〉として聴かれていたわけだが、新しいメディアの発達とあいまって、リスナーにとって音楽は〈作品〉ではなく〈情報〉として捉えられているのではないだろうかという考えに至ったわけである。
 これは、音楽の内容や質が時代とともに変化してしまい、過去には〈作品〉として高水準にあったものが低水準の〈情報〉になってしまったと主張しているわけでは決してない。あくまでもリスナーの音楽の聴き方の変化に主眼がある。アーティストもレコード会社も、連綿と〈作品〉をリスナーに提供してきたつもりではあるが、実はいまのリスナーにとって音楽は〈情報〉としてまず捉えられているのではないかと思う。ファイル交換やアップロードが露見してきた時に、権利者やレコード会社は、大切な作品を勝手に盗まれていると主張し、私自身もそう考えていたが、もしもリスナーが「情報を集めている」という意識であったとするならば、大きなギャップが生じていたのではないだろうか。>

実に見事な分析というしかない。それをこんな大御所が書いているなんて。

そして私がもっとも驚いたのは、丸山氏の日記にある以下の記述だ。

丸山茂雄の音楽予報 : 2005-08-11 順調順調な夜
http://d.hatena.ne.jp/marusan55/20050811

<夕方、事務所でmF247の打ち合わせをしていたら、ひょっこり屋敷豪太が顔を出しました。
屋敷豪太は、1987年に私が作ったダンスミュージックレーベル ''Major Force''の第一号アーティストでした。
この時のメンバーは、屋敷豪太の他に中西俊夫、藤原ヒロシ達がいました。>

この丸山茂雄氏、Major Forceを作った人だったんだ!!
Major Forceは世界的にも評価の高い、きわめて先駆的な日本のレーベルとして、音楽ファンからリスペクトされている。

これには震えた。そして、丸山氏についてこれまで知らなかった自分の不勉強が恥ずかしくなった。

これほどの音楽ビジネスの大御所が、もっとも革新的な音楽を生み出す仕掛け人だったとは、まったく意外だった。私は正直なところ、日本の音楽ビジネスを軽蔑しているといってもいい。しかし中には、こんなすごい人がいるのだ。

冒頭の梅田さんのエントリに、丸山氏の日記「私のプレゼンはくどくてわかりにくい?」を引いた、以下のような部分がある。

<増田氏や丸山氏のような日本には珍しいビジョナリー型経営者と、首をひねるばかりの「まじめな人」、つまり「事業が回転し始めて、やるべきことが決まったところではじめて力を発揮する人」の違いが、この文章に、如実に現れている>。

なるほど、という気がした。たしかに、「トップと直接話すと、すんなり話がわかる」ということは、IT業界などでもけっこうあるので、音楽業界でも似たようなものかもしれない。

これはもう、丸山茂雄氏とmF247からは、まったく目が離せない。

ここで一気に動けば、アップルのiTMSをも超えて、日本から世界的な流れを起こすことも不可能ではないかもしれない。
そしてそれは、日本がコンテンツ大国になるための国家戦略といってもいいほど、重要なことかもしれないのだ。