2005.11.20
Web 2.0 はギークのハートに火をつけた
404 Blog Not Found - Geek 2.0
http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/50218529.html

<Web 1.0の時代というのは、それぞれの技術が充分に派手であり、これといったキャッチフレーズを用意せずとも「素人でも見ればわかる」時代であった。Web 1.0の直接利用者は素人であり、わざわざ1.0などとのたまわなくとも「一目見ればわかる」のである。
 これに対し、Web 2.0というのは、「Webが使うWeb」であり、一般利用者はWeb 2.0に直接触れるのではなく、Web 2.0によってWeb 1.0に「変換」された環境を通して利用している。blogを書くのにXMLなんぞ知る必要はない。XMLが必要なのはblogサイトを書くもの達だ>。

これにはまったく同感。

Web 2.0は、完全な一般ユーザから見ると、よくわからない話が多い。それは、Web 2.0が基本的に「Webが使うWeb」であり、XMLとかAPIとか、Web開発者や技術系ブロガー向けのトピックが多いからだ。

その意味では、切込隊長の先日のエントリ、

切込隊長BLOG(ブログ) - 「Web 2.0」とやらについていけない人、集まれ!!
http://column.chbox.jp/home/kiri/archives/blog/main/2005/11/10_075947.html

の中で、Web 2.0を<ギーク向けのマーケティング>と表現しているのは、完全に正しい。
(注 : 「ギーク(geek)」 は 「オタク」、ここでは 「技術オタク」 の意味)

ティム・オライリーが「Web 2.0とは何か」を書き、Web 2.0ブームを引き起こしたオライリー自体、一般人ではなくギーク向けに本を売ったり、カンファレンスをやっている会社だ。

一般人から見て、<「Web 2.0」とやらについていけない>のは当然なわけだ。

しかし技術側から見ても、それは包括的で漠然としており、技術タームというよりは、むしろ「マーケティング用語」に近い。

つまり<ギーク向け>であり、いくらか専門的な話であると同時に、<マーケティング>でもあり、ややつかみどころがないのが、「Web 2.0」というものの性質だと思う。

しかし、そんな「Web 2.0」現象を、私は大いに評価している。その<ギーク向けのマーケティング>が、これだけの話題を呼び、ハイプ(誇大宣伝)やバブルに包まれながらも、たくさんの人の「気持ちを動かしている」ことは事実だと思うのだ。

つまり「Web 2.0」の意義とは、「ギークのハートに火をつけた」ことだと思う。それは、自分たちのやっていることに意味を与え、方向性を示し、未来の可能性を感じさせてくれる。

ティム・オライリーは、批評家や歴史家、あるいは未来学者のような役割を果たしている。ティム・オライリー自身は1行もコードを書かないかもしれないが、「いまを語る」ことで、ギークのハートに火をつけ、間接的にたくさんのコードを生み出すのだ。

「Web 2.0」はまさに、音楽における「ニューウェイヴ」や、映画における「ヌーヴェルヴァーグ」、小説の「ヌーヴォーロマン」などと同じような役割を果たしている。ある時代の状況のなかで、ある新傾向が生まれてくることがある。同時代の作り手が相互に影響を与え合い、一種の「時代精神」が形成されていくのだ。

しかし、その「傾向」は実体としてはどこにも存在しないので、一種の「ハイプ」のようにも見える。また、批評家や歴史家から勝手にラベルを貼られ、分類されることに対して、ミュージシャンなどが「オレたちはニューウェイヴじゃない、オレたちはオレたちだ」などとイラ立ち、独自性を主張するといった光景は、いつの時代にも見られる。

批評やマーケティングとはつねに、そういうものだと思うのだ。名前のない動きに対して、何かラベルやキーワードが投げこまれる。すると途端に、場が「反応」する。自分がやっていることに意味や名前を与えられて、それに熱狂したり、斜に構えたりする。反応が活発になり、話題になってくれば、それまで知らなかった人も集まってくる。このようにして、単なるラベルやキーワードが、「現実を変える」ことができる。それはハイプかもしれないが、とにかく何かを生み出していることは確かだ。

私自身、純粋なエンジニアというよりは、多分にマーケティング寄りの気質・立場の人間だ。コードを書いたり、モノを作ることはもちろん価値があるが、いいものを広めたり、じゅうぶん評価されていないものを発掘・紹介することも、それと同じくらい価値があると思っている。

だから私は、「Web 2.0」現象を、<ギーク向けのマーケティング>として、完全に肯定するものだ。

ティム・オライリーの「Web 2.0とは何か」はおそらく、エリック・レイモンドの「伽藍とバザール」などのように、「世界を動かした」論考として歴史に残ることになるだろう。

レイモンドの「伽藍とバザール」は、あとから振り返ると、メタファーが適切でないなど細かい点でツッコミを入れられる部分はある。しかし、あれがオープンソース派の人間を勇気づけ、自信を与え、オープンソース・ムーヴメントをものすごく後押ししたことは事実だ。あの論文によってこそ、NetscapeからMozillaが生まれ、それがFirefoxを生んだのだ。そして、1998年にオープンソース化したZopeも、あの論文がきっかけになったと聞く。

言論やマーケティングも、現実を変えられる。
人々のハートに火をつけて、価値を生み出すことができるのだ。


関連エントリ :
「Web 2.0」 は 「イケメン」 と同じく、格付けのための概念だ
http://mojix.org/2005/11/10/074358
Web 2.0は 「ニューウェイヴ」 なのだ
http://mojix.org/2005/10/03/155810
Webのターニング・ポイントをとらえた重要文献、ティム・オライリーの 「Web 2.0とは何か」
http://mojix.org/2005/10/01/183828
Web 2.0の3つの方向 - マッシュアップ、Ajax、新しいブラウザ
http://mojix.org/2005/09/28/105324