雇用規制をこれ以上強めれば、日本は本当に終わる
秋葉原の通り魔事件のおかげで、非正規雇用の待遇改善を求める声が出てきているようだし、その声は今後ますます高まっていく気がする。
しかし、ここでもし、非正規雇用の待遇改善「だけ」を規制で強制し、正規雇用の問題点(解雇規制、年功序列、終身雇用、新卒採用など)はそのまま放置、なんていうことになったら、日本は本当に終わると思う。
非正規雇用の規制が強くなれば、ただでさえ原料高で余裕のない多くの中小企業は、非正規雇用をあきらめざるを得ない。すると会社は回らなくなり、バタバタ倒産する。
大企業も国内では人件費がかさむので、海外に拠点を移す流れが強まるだろう。そうなれば、大企業はたいてい、その下にたくさんの中小企業がぶら下がっているから、それらがどんどん減らされる。
こうなると、雇用は激減する。まず、規制の話が浮上しはじめた頃に、非正規雇用がみるみるうちに「消滅」するだろう。いま非正規雇用の社員(契約社員・派遣・アルバイト・パート)は、すごい勢いで解雇されていく。そして、中小企業がバタバタ倒産するから、その正社員も放り出されていく。大企業が拠点を海外に移していけば、国内の雇用は減るばかりで、まったく増えない。
そして非正規雇用の規制が浮上した時点で、日本にいる外資企業はぞくぞくと撤退しはじめ、「外国人投資家」も一瞬で資金を引き上げ、株は暴落していく。
この悪夢のシナリオ、破滅への道が、いまや現実性を帯びてきた気がする。
日本では、「会社・経営者は暴利をむさぼっているから、規制でコントロールし、高い税金を課すべきだ」という見方がわりと根強いように思う。これは間違っているだけでなく、これこそが悪夢のシナリオをもたらしかねない、危険な考え方だ。
経済は売買で成り立っており、売買は強制ではなく、売り手と買い手の合意で成立する。儲かっている会社があるとすれば、それは暴利をむさぼっているのではなく、それだけたくさんの需要・必要を満たし、世の役に立っているということだ。不当に高かったり、強引に売りつけたりすれば客は逃げていくから、結局は「ちゃんとやる」ことが儲けにもつながる。
ところが雇用関係においては、商品の売買ほど流動性がなく、「市場化」していないので、「別の会社を選ぶ」自由度が低い。これが、多くの社員が不満足な待遇でもそこで働かざるを得ない理由であり、「経営者は高い給料を取っているくせに」という妬みをひき起こし、会社・経営者を敵視するに至らせる理由だろう。
しかし雇用も商品の売買と同様、合意により成立するもので、強制ではない。待遇が不満足だったり、経営者の給料が高すぎると思うなら、別の会社を選ぶ自由が常にある。それでも行くところがないとすれば、それはその会社が悪いという以上に、会社を選ぶ余地を少なくしている現状の規制が悪いのだ。
ここで会社・経営者のほうを悪者にしてしまって、「非正規雇用の待遇を正規雇用並みにせよ」というのを規制で強制してしまうと、悪夢のシナリオになる。企業は市場経済の主要なプレイヤーであり、それを規制で動かそうとする愚かさは、市場経済そのものを規制しようとする愚かさ、資本主義よりも計画経済を選ぶような愚かさだ。
非正規雇用を規制するのではなく、正規雇用に対する解雇規制をなくすだけで、企業はいまよりも正規雇用を増やし、正規雇用と非正規雇用の待遇格差も減る。人材も流動化して、会社と人の再配置が進み、産業の強さに応じて労働力が割り当てられる。企業の生産性・競争力も増して、日本経済が上向き、外国からの投資も増える。
「企業がビジネスをしやすい環境」を作れば、日本経済そのものが浮上し、みんながその恩恵を受けられる。企業がビジネスをしやすい環境とは、ズバリ「規制緩和」と「減税」の2つだ。
この反対に「規制強化」と「増税」をやれば、企業は弱体化したり、海外流出していき、投資マネーも逃げていく。これが破滅への道だ。
日本がそのどちらを選ぶかは、政治家や役人という以上に、日本人ひとりひとりのマインドにかかっていると思う。そのマインドが「世論」をつくる。
今回の事件で、「雇用」という重要なテーマにますます注目が集まるのはいいことだと思う。しかしその対応を間違うと、国を滅ぼしかねない。
「解雇規制は「会社のセーフティネット化」だ」を最後に、雇用関連についてはしばらく書かないつもりだったが、その3日後の6月8日に秋葉原の事件が起き、そのネットでの反響を見て、非正規雇用の待遇改善・規制強化を求める声が今後急速に強まりかねないと判断し、このエントリを書くことにした。
これを書くにあたって、以下のブログを事前に読み、共感するところが大きかった。ぜひあわせて読んでみてほしい。
andalusiaの日記 - 派遣問題と『一段階論理の正義』
http://d.hatena.ne.jp/andalusia/20080612
Joe's Labo - 最善と次善の間の深い溝
http://www.doblog.com/weblog/myblog/17090/2615678#2615678
起業ポルノ - 秋葉原の無差別大量殺傷事件についての7つの雑感
http://d.hatena.ne.jp/T-norf/20080613/akiba2
FIFTH EDITION - 失業が生み出すもの
http://blogpal.seesaa.net/article/100346463.html
このなかで、andalusiaさんが紹介しているジンバブエの例、T-norfさんが紹介している韓国の例、そしてpalさんが紹介している、皆さんご存じの耐震偽装問題の例は、規制がいかに経済を失速させかねないかをよく示している。
さくっと世界一周計画 - ジンバブエについて良く分かる2chのコピペ
http://dkcblog.blogspot.com/2008/02/2ch.html
NNA.ASIA - 中小企業の雇用減、非正社員法の施行拡大で
http://news.nna.jp/free/news/20080523krw002A.html
ウィキペディア - 構造計算書偽造問題
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A7%8B...
すでに「官製不況」という言葉もあるほど、日本はこのパターンに懲りているはずなのだ。それでも、秋葉原の事件のようなものが起きてしまうと、理性が吹っ飛んでしまい、また「お上」に規制してもらおうという考え方が強まるはずだ。
これ以上、企業に対する規制を強化すれば、日本経済そのものが危機に陥り、会社も倒産、雇用も激減して、社会不安も犯罪もさらに増えることになるだろう。palさんも書いている通り、耐震偽装問題のときとまったく同じ構図が繰り返される。そして、雇用規制は建設業だけでなく全ての会社に及ぶから、もっとひどいことになりかねないのだ。
Update(2008/6/14):
本エントリを補足する「セーフティネットは会社の外に置き、「身分制度」をなくせ」を書きました。
しかし、ここでもし、非正規雇用の待遇改善「だけ」を規制で強制し、正規雇用の問題点(解雇規制、年功序列、終身雇用、新卒採用など)はそのまま放置、なんていうことになったら、日本は本当に終わると思う。
非正規雇用の規制が強くなれば、ただでさえ原料高で余裕のない多くの中小企業は、非正規雇用をあきらめざるを得ない。すると会社は回らなくなり、バタバタ倒産する。
大企業も国内では人件費がかさむので、海外に拠点を移す流れが強まるだろう。そうなれば、大企業はたいてい、その下にたくさんの中小企業がぶら下がっているから、それらがどんどん減らされる。
こうなると、雇用は激減する。まず、規制の話が浮上しはじめた頃に、非正規雇用がみるみるうちに「消滅」するだろう。いま非正規雇用の社員(契約社員・派遣・アルバイト・パート)は、すごい勢いで解雇されていく。そして、中小企業がバタバタ倒産するから、その正社員も放り出されていく。大企業が拠点を海外に移していけば、国内の雇用は減るばかりで、まったく増えない。
そして非正規雇用の規制が浮上した時点で、日本にいる外資企業はぞくぞくと撤退しはじめ、「外国人投資家」も一瞬で資金を引き上げ、株は暴落していく。
この悪夢のシナリオ、破滅への道が、いまや現実性を帯びてきた気がする。
日本では、「会社・経営者は暴利をむさぼっているから、規制でコントロールし、高い税金を課すべきだ」という見方がわりと根強いように思う。これは間違っているだけでなく、これこそが悪夢のシナリオをもたらしかねない、危険な考え方だ。
経済は売買で成り立っており、売買は強制ではなく、売り手と買い手の合意で成立する。儲かっている会社があるとすれば、それは暴利をむさぼっているのではなく、それだけたくさんの需要・必要を満たし、世の役に立っているということだ。不当に高かったり、強引に売りつけたりすれば客は逃げていくから、結局は「ちゃんとやる」ことが儲けにもつながる。
ところが雇用関係においては、商品の売買ほど流動性がなく、「市場化」していないので、「別の会社を選ぶ」自由度が低い。これが、多くの社員が不満足な待遇でもそこで働かざるを得ない理由であり、「経営者は高い給料を取っているくせに」という妬みをひき起こし、会社・経営者を敵視するに至らせる理由だろう。
しかし雇用も商品の売買と同様、合意により成立するもので、強制ではない。待遇が不満足だったり、経営者の給料が高すぎると思うなら、別の会社を選ぶ自由が常にある。それでも行くところがないとすれば、それはその会社が悪いという以上に、会社を選ぶ余地を少なくしている現状の規制が悪いのだ。
ここで会社・経営者のほうを悪者にしてしまって、「非正規雇用の待遇を正規雇用並みにせよ」というのを規制で強制してしまうと、悪夢のシナリオになる。企業は市場経済の主要なプレイヤーであり、それを規制で動かそうとする愚かさは、市場経済そのものを規制しようとする愚かさ、資本主義よりも計画経済を選ぶような愚かさだ。
非正規雇用を規制するのではなく、正規雇用に対する解雇規制をなくすだけで、企業はいまよりも正規雇用を増やし、正規雇用と非正規雇用の待遇格差も減る。人材も流動化して、会社と人の再配置が進み、産業の強さに応じて労働力が割り当てられる。企業の生産性・競争力も増して、日本経済が上向き、外国からの投資も増える。
「企業がビジネスをしやすい環境」を作れば、日本経済そのものが浮上し、みんながその恩恵を受けられる。企業がビジネスをしやすい環境とは、ズバリ「規制緩和」と「減税」の2つだ。
この反対に「規制強化」と「増税」をやれば、企業は弱体化したり、海外流出していき、投資マネーも逃げていく。これが破滅への道だ。
日本がそのどちらを選ぶかは、政治家や役人という以上に、日本人ひとりひとりのマインドにかかっていると思う。そのマインドが「世論」をつくる。
今回の事件で、「雇用」という重要なテーマにますます注目が集まるのはいいことだと思う。しかしその対応を間違うと、国を滅ぼしかねない。
「解雇規制は「会社のセーフティネット化」だ」を最後に、雇用関連についてはしばらく書かないつもりだったが、その3日後の6月8日に秋葉原の事件が起き、そのネットでの反響を見て、非正規雇用の待遇改善・規制強化を求める声が今後急速に強まりかねないと判断し、このエントリを書くことにした。
これを書くにあたって、以下のブログを事前に読み、共感するところが大きかった。ぜひあわせて読んでみてほしい。
andalusiaの日記 - 派遣問題と『一段階論理の正義』
http://d.hatena.ne.jp/andalusia/20080612
Joe's Labo - 最善と次善の間の深い溝
http://www.doblog.com/weblog/myblog/17090/2615678#2615678
起業ポルノ - 秋葉原の無差別大量殺傷事件についての7つの雑感
http://d.hatena.ne.jp/T-norf/20080613/akiba2
FIFTH EDITION - 失業が生み出すもの
http://blogpal.seesaa.net/article/100346463.html
このなかで、andalusiaさんが紹介しているジンバブエの例、T-norfさんが紹介している韓国の例、そしてpalさんが紹介している、皆さんご存じの耐震偽装問題の例は、規制がいかに経済を失速させかねないかをよく示している。
さくっと世界一周計画 - ジンバブエについて良く分かる2chのコピペ
http://dkcblog.blogspot.com/2008/02/2ch.html
NNA.ASIA - 中小企業の雇用減、非正社員法の施行拡大で
http://news.nna.jp/free/news/20080523krw002A.html
ウィキペディア - 構造計算書偽造問題
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A7%8B...
すでに「官製不況」という言葉もあるほど、日本はこのパターンに懲りているはずなのだ。それでも、秋葉原の事件のようなものが起きてしまうと、理性が吹っ飛んでしまい、また「お上」に規制してもらおうという考え方が強まるはずだ。
これ以上、企業に対する規制を強化すれば、日本経済そのものが危機に陥り、会社も倒産、雇用も激減して、社会不安も犯罪もさらに増えることになるだろう。palさんも書いている通り、耐震偽装問題のときとまったく同じ構図が繰り返される。そして、雇用規制は建設業だけでなく全ての会社に及ぶから、もっとひどいことになりかねないのだ。
Update(2008/6/14):
本エントリを補足する「セーフティネットは会社の外に置き、「身分制度」をなくせ」を書きました。